まずはAmazonさんの紹介ページから。
資産家が住まう洋館に届いた英文の脅迫状と、奇怪な密室殺人――
迷宮入りとなった十数年前の事件に四人の男が推理を競う傑作短編「完全犯罪」。
著者である加田伶太郎は、日本推理小説の爛熟期に突如として登場、
本作を始めとする幾編かの短編小説をして斯界に名を知らしめた――。
その謎に包まれた正体は、文学者・福永武彦が創りだした別の顔であった。
精緻な論理と遊戯性を共存させ、日本推理小説史上でも最重要短編集のひとつに数えられる、
文学全集の体裁を模した推理小説集。
作品群は1950~60年代初頭に書かれたものですが、
そんな古さを感じさせない見事な探偵小説です。
本シリーズや各作品群の解説は本書の鼑談や法月綸太郎先生による
解説を読めば十分にわかります。
そこでそれ以外で、私が完全なる妄想で思ったことを含めつつ(苦笑)。
始まりの「完全犯罪」は安楽椅子探偵+多重解決、さらにいえば過去の事件という点から、
すでにこの段階で福永氏はシリーズ名探偵という存在へややもすれば批判的に
見ていたのではないかと感じました。
つまりこれは法月氏も評論した「後期クイーン的問題」の第一、
「作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと」
を意識しているのではないか?ということです。
多重解決+過去の事件のため、名探偵・伊丹英典の推理が真実なのかどうか、
実際のところはわかりません。
あくまでもその場に居た人たちを納得させるに留まっているとも考えられます。
この趣向は、読んで行くと急に変化球が出てきたと実際驚いた「眠りの誘惑」でも同じです。
ここでも依頼者からの手記から伊丹氏は推理を構築しますが、それもまた推理の一つであり、
真実とは伊丹氏自身も少し匂わせています(物的証拠はなく、心理的証拠ばかりですのくだり等)。
そしてこの2作は法月氏も指摘する、伊丹氏は安楽椅子探偵だと自認ながら、
実のところ、全8編中、上記2編のみしか安楽椅子探偵ものがないという所も面白いところ。
名探偵を道化師化させた(にみえる)「湖畔事件」も本格のパロディかつお遊び的な
色彩が強く、これもまた、名探偵の存在そのものへのアイロニーなのかもしれません。
とまあ、名探偵云々はそろそろ置きまして・・・
本作愁眉はなんと言っても「赤い靴」でしょう。
まさに集大成といって過言ではありません。
手記による推理から始まり、怪奇色が濃い奇妙な話や謎、機械トリック、
そして探偵が犯人にしかけるトリックによる事件解決と、これでもかと
詰め込んでいて、それでいて極めて完成度が高い作品です。
「完全犯罪」も不気味な脅迫状から始まる物語は、シャーロック・ホームズものを
思わせますし、読者を惹きつける作品になっています。
一方で、「温室事件」や「電話事件」は、探偵はともかく(後者についてはもう探偵家業は辞める
と言ってますが)、読者へはやや後味が悪い作品かもしれません。
謎そのものは面白いのですが、このあたりは法月先生の解説をぜひご一読あれ。
2018年06月24日
2018年06月17日
演じられた花嫁
まずはAmazonさんの紹介ページから。
女子大生・塚川亜由美と親友の聡子は休日に演劇を楽しんでいた。切ない物語に涙を流していると、
カーテンコールで主演俳優がヒロインの佐々木伸子にプロポーズ!会場は沸き立つが、
幸せそうな二人の背後には、ある女の冷たい眼差しが―。
さらに、伸子の元には謎の脅迫状が送られて!?
大人気ユーモアミステリー。(「花嫁は時を旅する」併録)
花嫁シリーズも現在刊行されているまででなんと31作。
息の長いシリーズとなりました。
本書では表題作より「花嫁は時を旅する」がオススメ。
土砂崩れで亡くなった松井夫婦が実は大きな事件を鍵を握っているのですが、
この夫婦、物語では一切登場しません。
しかしながら、関係者や犯人の話を聞いていくと、
実に奇妙で興味深い(といっては失礼かも)夫婦です。
むしろ彼らはどういう生活をしていたのか逆に気になってしまう・・・
そして本書両編にいえるのは、亜由美以上の活躍を魅せるのが
愛犬のドン・ファン。
赤川作品の中でも三毛猫ホームズの次に大活躍かつ主役を食うレギュラーメンバーです。
殿長部長刑事、相当に優秀なんだから、そろそろ警部補昇進とかどうでしょうかね?
女子大生・塚川亜由美と親友の聡子は休日に演劇を楽しんでいた。切ない物語に涙を流していると、
カーテンコールで主演俳優がヒロインの佐々木伸子にプロポーズ!会場は沸き立つが、
幸せそうな二人の背後には、ある女の冷たい眼差しが―。
さらに、伸子の元には謎の脅迫状が送られて!?
大人気ユーモアミステリー。(「花嫁は時を旅する」併録)
花嫁シリーズも現在刊行されているまででなんと31作。
息の長いシリーズとなりました。
本書では表題作より「花嫁は時を旅する」がオススメ。
土砂崩れで亡くなった松井夫婦が実は大きな事件を鍵を握っているのですが、
この夫婦、物語では一切登場しません。
しかしながら、関係者や犯人の話を聞いていくと、
実に奇妙で興味深い(といっては失礼かも)夫婦です。
むしろ彼らはどういう生活をしていたのか逆に気になってしまう・・・
そして本書両編にいえるのは、亜由美以上の活躍を魅せるのが
愛犬のドン・ファン。
赤川作品の中でも三毛猫ホームズの次に大活躍かつ主役を食うレギュラーメンバーです。
殿長部長刑事、相当に優秀なんだから、そろそろ警部補昇進とかどうでしょうかね?
2018年06月10日
夜の終る時/熱い死角 警察小説傑作選
まずはAmazonさんの紹介ページから。
実直な刑事の徳持が捜査に出たきり行方不明になった。捜査係は総力をあげて事件の解決に乗りだすが、彼とやくざについての噂が同僚のあいだに疑念を呼び起こす。そんな中、徳持はホテルで扼殺死体となって見つかる(『夜の終る時』)。二部構成の鮮やかさと乾いた筆致で描かれる警察組織の歪みのリアルさは今なお色あせない。日本推理作家協会賞を受賞した警察小説の金字塔に4作の傑作短篇を増補。
ミステリ短編傑作選に続く第2弾。
解説の日下三蔵さんによると、第1弾の売上が良く、今回刊行に至ったとのこと。
やっぱ本は買わないといけませんね。
今は読むことが中々難しい作品などを、こうした形で再刊してくれるのは有り難い。
警察小説傑作選とありますが、郷原部長刑事三部作はやはり同じ刑事を主人公としていても
別扱い。あれはやはりユーモアミステリ的区分になるのでしょう。
日本推理作家協会賞受賞の「夜の終る時」は、一人の刑事が本書に戻らない所から
始まります。
第一部と第二部は連続しているようで、第一部が事件を追う刑事たちと各刑事たちの物語。
第二部は犯人の語る事件の真相。そして結末。
シャーロック・ホームズのの「恐怖の谷」を思い出しました。
最後の解説で選評が掲載されているのですが、平野謙氏の選評が印象的。
「文学的に人間が書き込んである」という、推理小説、本格ミステリと呼ばれる
分野に対して言われがちな言葉。時代を感じさせますね。
一方で松本清張氏の選評はさすがだなあと思いました。
「氏がいろいろな方法を試みるのは、その方法を証明させる」と
本格からハードボイルド、さらには警察小説と、一つのジャンルに留まらない、
結城昌治氏の持つ魅力を見事に言い得ています。
「殺意の背景」はその動機と終わり方が見事。
「熱い死角」は刑事の妻と警察のブラックリストに載るいわくある男との関係を探る
刑事の物語。疑心暗鬼が続く中、最後の結末には驚かされます。
第3弾、ぜひお願いします。
実直な刑事の徳持が捜査に出たきり行方不明になった。捜査係は総力をあげて事件の解決に乗りだすが、彼とやくざについての噂が同僚のあいだに疑念を呼び起こす。そんな中、徳持はホテルで扼殺死体となって見つかる(『夜の終る時』)。二部構成の鮮やかさと乾いた筆致で描かれる警察組織の歪みのリアルさは今なお色あせない。日本推理作家協会賞を受賞した警察小説の金字塔に4作の傑作短篇を増補。
ミステリ短編傑作選に続く第2弾。
解説の日下三蔵さんによると、第1弾の売上が良く、今回刊行に至ったとのこと。
やっぱ本は買わないといけませんね。
今は読むことが中々難しい作品などを、こうした形で再刊してくれるのは有り難い。
警察小説傑作選とありますが、郷原部長刑事三部作はやはり同じ刑事を主人公としていても
別扱い。あれはやはりユーモアミステリ的区分になるのでしょう。
日本推理作家協会賞受賞の「夜の終る時」は、一人の刑事が本書に戻らない所から
始まります。
第一部と第二部は連続しているようで、第一部が事件を追う刑事たちと各刑事たちの物語。
第二部は犯人の語る事件の真相。そして結末。
シャーロック・ホームズのの「恐怖の谷」を思い出しました。
最後の解説で選評が掲載されているのですが、平野謙氏の選評が印象的。
「文学的に人間が書き込んである」という、推理小説、本格ミステリと呼ばれる
分野に対して言われがちな言葉。時代を感じさせますね。
一方で松本清張氏の選評はさすがだなあと思いました。
「氏がいろいろな方法を試みるのは、その方法を証明させる」と
本格からハードボイルド、さらには警察小説と、一つのジャンルに留まらない、
結城昌治氏の持つ魅力を見事に言い得ています。
「殺意の背景」はその動機と終わり方が見事。
「熱い死角」は刑事の妻と警察のブラックリストに載るいわくある男との関係を探る
刑事の物語。疑心暗鬼が続く中、最後の結末には驚かされます。
第3弾、ぜひお願いします。
2018年06月03日
シャーロック・ホームズの蒐集
まずはAmazonさんの紹介ページから。
1927年、アーサー・コナン・ドイルによる最後のシャーロック・ホームズ活躍譚「ショスコム・オールド・プレース」が《ストランド・マガジン》に掲載されて以降も、この不滅の人気を誇る名探偵の贋作は、数多くの作家によって描かれてきた。本書はそれらに連なる最新の傑作である。大英帝国を縦横無尽に駆け巡るホームズと相棒ワトスン博士の〈語られざる事件〉を、世界有数のホームズ・ファンが愛と敬意を込めて作品化した、最高水準のパスティーシュ。六編を収める。
日本屈指のシャーロキアンである北原さん執筆によるホームズパスティーシュがついに登場!
各編の最後に、どの「語られざる事件」なのか記述してあるのが、かっこいい。
オススメは「結ばれた黄色いスカーフの事件」と「ノーフォークの人狼卿の事件」
前者は依頼人には辛い思いをさせましたが、ホームズの解決が実に鮮やか。
そして「オレンジの種五つ」を彷彿とさせる謎めいた犯人からの脅迫も不気味です。
ホラーテイストの強さでは後者。
「バスカヴィル家の犬」や「這う男」を彷彿とさせる不気味さと奇妙な謎から、
ホームズがいかに合理的に謎を解いていくのかが楽しめる一編。
ある種の「らしさ」を感じるのは「詮索好きな老婦人の事件」
ホームズ&ワトソンではなく、老婦人ことホスキンズ夫人の活躍が一番の見せ場。
それにしても、聖典にほんの少ししか出てこない記述から、
いかに物語を膨らませるか、作り込んでいくかを考えると、
北原さん始め、多くのホームズパスティーシュを書かれた作家さんの苦労は
並大抵ではないでしょう。ホームズらしさを失わず、それでいてオリジナリティを
求められるのは、相当の技量が無いとまず書けません。
語られざる事件はまだまだたくさんあります。
北原さんにはぜひそれらの事件も書いてほしいですね。
1927年、アーサー・コナン・ドイルによる最後のシャーロック・ホームズ活躍譚「ショスコム・オールド・プレース」が《ストランド・マガジン》に掲載されて以降も、この不滅の人気を誇る名探偵の贋作は、数多くの作家によって描かれてきた。本書はそれらに連なる最新の傑作である。大英帝国を縦横無尽に駆け巡るホームズと相棒ワトスン博士の〈語られざる事件〉を、世界有数のホームズ・ファンが愛と敬意を込めて作品化した、最高水準のパスティーシュ。六編を収める。
日本屈指のシャーロキアンである北原さん執筆によるホームズパスティーシュがついに登場!
各編の最後に、どの「語られざる事件」なのか記述してあるのが、かっこいい。
オススメは「結ばれた黄色いスカーフの事件」と「ノーフォークの人狼卿の事件」
前者は依頼人には辛い思いをさせましたが、ホームズの解決が実に鮮やか。
そして「オレンジの種五つ」を彷彿とさせる謎めいた犯人からの脅迫も不気味です。
ホラーテイストの強さでは後者。
「バスカヴィル家の犬」や「這う男」を彷彿とさせる不気味さと奇妙な謎から、
ホームズがいかに合理的に謎を解いていくのかが楽しめる一編。
ある種の「らしさ」を感じるのは「詮索好きな老婦人の事件」
ホームズ&ワトソンではなく、老婦人ことホスキンズ夫人の活躍が一番の見せ場。
それにしても、聖典にほんの少ししか出てこない記述から、
いかに物語を膨らませるか、作り込んでいくかを考えると、
北原さん始め、多くのホームズパスティーシュを書かれた作家さんの苦労は
並大抵ではないでしょう。ホームズらしさを失わず、それでいてオリジナリティを
求められるのは、相当の技量が無いとまず書けません。
語られざる事件はまだまだたくさんあります。
北原さんにはぜひそれらの事件も書いてほしいですね。