2018年07月29日

牧神の影

まずはAmazonさんの紹介ページから。

深夜、電話の音でアリスンは目が覚めた。それは伯父フェリックスの急死を知らせる内線電話だった。
死因は心臓発作とされたが、翌朝訪れた陸軍情報部の大佐は、伯父が軍のために戦地用暗号
を開発していたと言う。その後、人里離れた山中のコテージで一人暮しを始めたアリスンの周囲で
次々に怪しい出来事が…。暗号の謎とサスペンスが融合したマクロイ円熟期の傑作。

ヘレン・マクロイ、久しぶりです。
なんといってもちくま文庫からの刊行でしか、今のところ読んでいないので・・・
(そのうち創元推理文庫も読み始めるかもしれませんが)
「二人のウィリング」に続く2作目になります。

本作は原題が「Panic」なのですが、これを「牧神の影」と邦訳したのはお見事。
主人公のアリスンが、山深い、人里離れたコテージで過ごす描写と相俟って、
物語に読み手をどんどん引きずり込みます。

本書は暗号小説としては一級品ですが、この暗号を解読しようと試みた読者は
どのくらいいるでしょうか(苦笑
一方で、アリスンに忍び寄る人物は、当初は暗号が目的かと思われるのですが、
途中から、伯父の死=他殺という事を隠すために近づいているという、
物語当初から見えていた事実が、物語途中でアリスンの眼前に現れるというのも
とてもおもしろかったです。

そして暗号を説く謎が番犬にもならないというアルゴスの存在も非常に大きい。
訳者あとがきにもありますが、実はアルゴス、番犬の役割をこなしてます。
この記述が実に巧妙なため、犯人の存在をうまくごまかしているのです。

ベイジル・ウィリング博士は登場しませんが、充分楽しめる傑作。オススメです。


牧神の影 (ちくま文庫)

牧神の影 (ちくま文庫)

  • 作者: ヘレン マクロイ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/06/08
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 17:17| Comment(7) | 海外ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月22日

奇跡の男

まずはAmazonさんの紹介ページから。

バスの転落事故で一人だけ生き残った男が、今度は袋くじの特賞に大当たり。
そんな強運、あり!?(奇跡の男) 小さな飲み屋「糀屋」の客が死に、
なぜか警察に被害者の香典が送られてきて……(狐の香典)。“卯の花健康法”や“健脳法”など、
珍妙なことばかり思いつくナチ先生が殺された。雪に残された足跡が唯一の手掛かり?
(ナチ式健脳法)など、ユーモラスで奇想天外な極上ミステリ短編集。

泡坂妻夫復刊第4弾。全て未読作品。楽しいひとときです。
表題作「奇跡の男」は御大デビュー作「DL2号機事件」を彷彿とさせる快作。
鉱山を掘るという小ネタが最後まで引っ張られるのがかなりおもしろい。

「ナチ式健脳法」は雪の足跡トリックをある驚愕の謎解きで解決する怪作。

本作オススメは「狐の香典」。この作品、起きた事件の真相そのものより、
密造酒(笑)を作る店の主人・五兵衛のある種の計画。
これは今の世の中にかなり当てはまることで、見事に皮肉が効いています。

未読の方、ぜひともご一読あれ。


奇跡の男 (徳間文庫)

奇跡の男 (徳間文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/05/02
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 01:18| Comment(6) | 泡坂妻夫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月14日

別れ、のち晴れ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

最近、父親の様子がおかしいと高校生の宏枝はあやしんでいた。
別れた母と年に一度「離婚記念日」と称して会っているのだが、その日が近いからなのか? 
それとも仕事のトラブル? 宏枝は顔色を読むことにかけては天才なのだ。
一方、弟の朋哉も母親が落ち込んでいると連絡してきた。調べてみる必要がある? 
子たちは親を想い、親は子を想う。家族の再生を描く珠玉のホームドラマ!


殺人事件は起こりません。そして登場人物に一人も悪人は居ません。
それでもちょっとした日常、誰にでも起こりうることを、
こうして物語にできるのはさすが赤川御大。

強いて言えば、宏枝と朋哉が実に逞しいことでしょうか。
「子子家庭」シリーズまではいきませんが、本作のこの二人も負けてません。

そして彼らは江梨や市川との「出会い」を通じて、大人だけが持つ葛藤や苦しさを
学んでいきます。

徳間文庫にはこれからも復刊を望みます!


別れ、のち晴れ (徳間文庫 あ 1-100)

別れ、のち晴れ (徳間文庫 あ 1-100)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/07/06
  • メディア: 文庫



別れ、のち晴れ (徳間文庫)

別れ、のち晴れ (徳間文庫)

  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/07/06
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 17:50| Comment(4) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月08日

迷蝶の島

まずはAmazonさんの紹介ページから。

太平洋を航海するヨットの上から落とされた女と、絶海の孤島に吊るされていた男。
一体、誰が誰を殺したのか?そもそもこれは、夢か現実か?男の手記、関係者の証言などで、
次々と明かされていく三角関係に陥った男女の愛憎と、奇妙で不可解な事件の、驚くべき真相とは!?

少し間隔が空いてしまいました。
河出文庫泡坂妻夫復刊第3弾は良質なサスペンス。
メインの登場人物はわずかに3名。
山菅達夫の手記、捜査官・関係者の証言、そしてトキコの告白という3章構成。

個人的に、達夫の「勘違い」はどう考えても気の毒ですが、
本人も認めている通り、それなら最初に訂正すべきだった。

メインの登場人物は3名と書きましたが、ほとんど達夫とトキコの物語ですね。
両者がそれぞれ仕掛けたトリックで、両者とも亡くなります。
達夫の死の謎は蓋を開けてみれば、ああーと思うものですが、
これは極めて難しい。
一方のトキコの死は完全に予想を超えていたものでした。

ところで、河出文庫泡坂妻夫復刊が終わり、今度は徳間文庫から復刊が。
うれしいことです。



迷蝶の島 (河出文庫)

迷蝶の島 (河出文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/03/03
  • メディア: 文庫



迷蝶の島 (河出文庫)

迷蝶の島 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/03/06
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 21:58| Comment(4) | 泡坂妻夫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする