まずはAmazonさんの紹介ページから。
深夜、電話の音でアリスンは目が覚めた。それは伯父フェリックスの急死を知らせる内線電話だった。
死因は心臓発作とされたが、翌朝訪れた陸軍情報部の大佐は、伯父が軍のために戦地用暗号
を開発していたと言う。その後、人里離れた山中のコテージで一人暮しを始めたアリスンの周囲で
次々に怪しい出来事が…。暗号の謎とサスペンスが融合したマクロイ円熟期の傑作。
ヘレン・マクロイ、久しぶりです。
なんといってもちくま文庫からの刊行でしか、今のところ読んでいないので・・・
(そのうち創元推理文庫も読み始めるかもしれませんが)
「二人のウィリング」に続く2作目になります。
本作は原題が「Panic」なのですが、これを「牧神の影」と邦訳したのはお見事。
主人公のアリスンが、山深い、人里離れたコテージで過ごす描写と相俟って、
物語に読み手をどんどん引きずり込みます。
本書は暗号小説としては一級品ですが、この暗号を解読しようと試みた読者は
どのくらいいるでしょうか(苦笑
一方で、アリスンに忍び寄る人物は、当初は暗号が目的かと思われるのですが、
途中から、伯父の死=他殺という事を隠すために近づいているという、
物語当初から見えていた事実が、物語途中でアリスンの眼前に現れるというのも
とてもおもしろかったです。
そして暗号を説く謎が番犬にもならないというアルゴスの存在も非常に大きい。
訳者あとがきにもありますが、実はアルゴス、番犬の役割をこなしてます。
この記述が実に巧妙なため、犯人の存在をうまくごまかしているのです。
ベイジル・ウィリング博士は登場しませんが、充分楽しめる傑作。オススメです。