2018年08月26日

晴れ時々、食品サンプル-ほしがり探偵ユリオ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

ショッピングサイト《ほしがり堂》を経営する深町ユリオは、筋金入りのマニアックなコレクター。
古い家電や顔ハメ看板など、ガラクタにしか見えないモノに価値を見出し、
お宝として売り捌く彼は事件を解決する名探偵でもあった!
カウボーイグッズを身につけた被害者が落馬めいた死を遂げた事件、
判じ絵ネタをする芸人宅で発見された被害者の傍にあった道具に隠されたメッセージ、
食品サンプルコレクターの告別式で食品サンプルがばらまかれた謎など全5編。
ほしがりの兄と苦労人の妹が、お宝をめぐる事件に挑む!

早くも第2弾。作者のあとがきにもありますが、楽しんで書かれているようで、
こちらも早く読めてうれしい。

本作では前作より、コレクター・骨董品を集めると言うより、
より探偵としての活動に行脚しているのではと思われる事多数(笑
名探偵としても活躍している、なんて噂まで飛び交う始末ですから。

「告別式に、食品サンプルの雨が降る」は
殺人も血なまぐさい事件も起こらない、しかしそれでいて一番奇妙な事件。
なぜ食品サンプルが巻かれたのか。香典が「一旦」紛失したのはなぜか。
妹のさくらも兄の影響か名探偵ぶりを発揮する所も見所(読み所)です。
しかし、何度も何度も出棺を繰り返したのは気の毒です・・・

「ほしがり vs 捨てたがり」は完全犯罪になるところを、ユリオのまさに快刀乱麻の
推理がお見事。呆気にとられる刑事たちも見物です。
しかし、表題の捨てたがりとの決着はついてませんが。

「神の手、再び」はラストの松下刑事の切り返しが素晴らしい。
かくいう松下刑事は、ユリオを信奉する唯一の刑事さんかも。

一番コレクター・骨董品的な知識が活用されたのが「馬のない落馬」でしょうか。
死体のカウボーイの姿が(マニアから見て)おかしいというユリオの指摘から、
事件を解決に導いていきます。
思わぬ援軍の鑑識の藤谷さんは次作への登場を希望します!


晴れ時々、食品サンプル (ほしがり探偵ユリオ) (創元推理文庫)

晴れ時々、食品サンプル (ほしがり探偵ユリオ) (創元推理文庫)

  • 作者: 青柳 碧人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 文庫



晴れ時々、食品サンプル ほしがり探偵ユリオ (創元推理文庫)

晴れ時々、食品サンプル ほしがり探偵ユリオ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 23:08| Comment(7) | 青柳碧人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月19日

行き止まりの殺意

まずはAmazonさんの紹介ページから。

祐子の母は、父を裏切って家出をした。それを苦にして、父は自殺してしまう。
一緒に暮らしていた祖母も病死。たった一人取り残された祐子は、母への憎しみを募らせ、
それはやがて殺意に!凶器を携え、母の住むアパートへと向かうが…。(表題作)
他に、オフィスを舞台にした「消えた会議室」、ホラーの秀作「犬」など、
サスペンスあふれる傑作を揃えた短編集。

表題作は主人公の祐子が母親を殺しに行く途中で出会う、一組の夫婦が良いです。
奥さんとの会話、そしてラストに描かれるナイフの描写、
祐子が思いとどまった思い止まった大きな要因ではないでしょうか。

「真夜中の電話」は怒濤の展開かつスピーディなコメディのようなお話。
コメディなどというと、主人公の由紀子に怒られそうですが・・・
見舞われる災難はとても恐ろしいのですが、どこか抜けているんですよねえ。

「あの人は今・・・」は良い人しか出てこない作品。
ラストがまた素晴らしい。

右へ行ったらどうなるか、左へ行ったらどうなるか、人生生きていれば
そういう選択は多いかもしれませんが、「わかれ道」の主人公が選んだ
その選択は過激そのものです(笑
『三毛猫ホームズの安息日』でも片山晴美が「人違い」だかでとんでもない事に
巻き込まれますが、本作も同様。違うのは主人公・美也子の性格が一変したことでしょうか。

「犬」と「旧友」はともに犬がメインのホラー作品。
とはいえ、前者は確かになぜ犬が生きていたかはホラーですが、同情を禁じ得ません。
後者は完全なホラー。ラストもまた悲惨です。

最もミステリ色が強いのが最終作「消えた会議室」
主人公の明子はまさに赤川作品の王道主人公。
ちょっと頼りなそうな雰囲気のササニシキではなく佐々木警部、ではなく警部補は
実のところかなり優秀です。
存在しないはずの<第七会議室>やこの「七」という数字の読みの特殊性を
見事に活かした快作です。

ところで来月の角川文庫は異常に赤川次郎作品が復刊されるのですが、
何かあるのだろうか?


行き止まりの殺意 新装版 (光文社文庫)

行き止まりの殺意 新装版 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/07/11
  • メディア: 文庫



行き止まりの殺意 新装版 (光文社文庫)

行き止まりの殺意 新装版 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: Kindle版



行き止まりの殺意 (光文社文庫)

行き止まりの殺意 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1988/04
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 00:47| Comment(7) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月13日

白の恐怖

まずはAmazonさんの紹介ページから。

軽井沢の豪奢な別荘「白樺荘」に、莫大な遺産を相続することになった四人の男女が集まった。
だが、生憎の悪天候で雪が降りしきり、別荘は外とは連絡が取れない孤立状態になっていた。
そこで、一人、また一人と殺人鬼の毒牙にかかって相続人が死んでいく…。
本格推理の巨匠が描いた密室殺人。発表から六十年近い年月を経て、初めて文庫化される幻の長編!

以下、少しネタバレがあります。



事件の内容はともかく・・・星影龍三は全くブレません(笑
これこそ、私が見たかった星影龍三だ。
しかも本人はわずか数ページにしか登場せず、一言も言葉を発さず。
それでいて、相変わらず態度がやたらでかく、嫌みな感じがするという(笑
そして「りら荘」同様、佐々弁護士の手記のみから事件の真相を看破するという
神業も見せてくれます。これぞ星影龍三の真骨頂ではないでしょうか。
もっともその推理をしゃべるのは田所警部なのですが(笑



雪の閉ざされた山荘というテーマに真正面から挑んだ御大の作品。
手記という体裁を取っているからか、佐々弁護士の人間観察が面白いです。
なので「白樺荘」へ着く前までの方が好きかもしれません。
ただこの事件の前置きともいえる箇所にも、もちろん事件解決の大きな
ヒントが隠されているのですが。

本書最大の難点は、このトリックがこの短期間で成り立ち得るのかどうか、でしょう。
篠崎ベルタと丸茂助手を殺害した時点で、犯人にとってかなり危ない状況には違いないのです。
(山荘にラジオのみというのが幸運?)
そして山荘に大雪で閉じ込められる、というのも偶然の産物に過ぎず、
もし大雪が降らなければ即座に見破られていたことでしょう。
この点は犯行をどのように行うつもりだったのか?という事も関係してきます。

また、わざわざ一カ所に集めずとも、相続人の連絡が来た時点で、
そこへ出向き、各人を殺害する方が、犯人にとっては遙かにリスクが低いのです。
解決編のところで、この危ない状況を回避する手立てを、ずいぶん前からしていたことが
述べられるのですが、この点を完璧に行っていれば、このトリックは成就したんですけどね。

あとがきにもありますが、改稿された未完の長編「白樺荘事件」は
遺産相続人探しが交代されているようですが、それ以外で、鮎川先生はどこをどう変えようと
していのか、それが読めないのは残念ではあります。
探偵役は星影龍三続投は間違いないと思いますが(笑




白の恐怖 (光文社文庫)

白の恐怖 (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 01:13| Comment(5) | 鮎川哲也 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月12日

翳ある墓標

まずはAmazonさんの紹介ページから。

トップ屋集団「メトロ取材グループ」の杉田兼助は、同僚の高森映子とともに
銀座のキャバレーで取材をするが、協力した映子の友人のホステスが屍体となって発見された。
警察の自殺判定に納得がいかない映子は独自に調べ始めるが、彼女も殺害されてしまう―。
本格ミステリ界巨匠の異色作品。
読み継がれるミステリファン必読の短編「達也が嗤う」を特別収録。

鮎川御大の作品は光文社文庫から出ている「完璧な犯罪」「アリバイ崩し」などの
ベストミステリー短編集、さらには「朱の絶筆」や創元推理文庫で復刊した
「りら荘事件」(後に角川文庫でも発売)などの星影龍三シリーズをこれまで読んで来ました。

本書はノン・シリーズものではありますが、今月8日、あの幻の名作「白の恐怖」が
やはり光文社文庫から発売されたのを機に、同時購入しました。
以下、ややネタバレあり。



ノン・シリーズものですが、個人的には快作です。
いくつものアリバイトリックと、鬼貫警部のアリバイ崩しを彷彿とさせる構成。
そのアリバイ崩しもアンフェアでなく、論理的思考で説かれていくある種の美しさ。

個人的に好きなのは、途中の謎の転換です(という表現で良いか微妙ですが)。
元々、映子は友人であるホステスのひふみの自殺に納得できず、他殺の疑いを持って
事件の取材(捜査)を始めますが、その映子が殺害され、「探偵役」が同僚の杉田へ
バトンタッチされます。

映子も杉田もひふみの恋人に行き当たり、彼女の死の真相を聞かされます。
ところが、ここで物語は終わらないのです。
映子はその先に何を見つけたのか?そしてなぜ彼女が殺されたのか?
ひふみ殺害の犯人から、映子殺害の犯人へと謎が引き継がれるのです。
(大きな意味ではひふみの殺害犯と映子殺害犯は同一ではありますが、あえてここは独自解釈)

本書は異色作、通俗小説とありますが、そんなことはありません。
読者へは謎を解く鍵は全て示され、多重のアリバイトリックなど、まさに本格推理。

あえて難点をいえば、犯人が明らかになるところでしょうか。
ここがあまりにもあっけなかった。突然の終幕といった感じでしょうか。
真犯人、というのが良いのかわかりませんが、やや蛇足だったような気もします。

ところで、御大のあとがきでは、ある事情によりプロットを大幅に変更することになった、
とあるのですが、これはどういう事情だったんでしょうか。
そして元々はどんなプロットだったのかとても気になりました。

もう一つの収録作「達也が嗤う」は犯人当て小説。
元々は日本探偵作家クラブの例会で朗読された作品で、後に小説化したもの。

本作についてはもはや語るまでもなく傑作です。
この短編の中に、これでもかと謎とそのヒントを詰め込み、あくまでもフェアに
事件を解決できるという素晴らしさ。
その表題作までヒントが隠されているというこだわりはさすが本格の鬼。

余談ですが、犯人よりもある人物が男だという事の方が難しいと思います(笑

次は「白の恐怖」を読みます!



翳ある墓標 (光文社文庫)

翳ある墓標 (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/02/10
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 02:07| Comment(3) | 鮎川哲也 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする