まずはAmazonさんの紹介ページから。
「三十年。タイム・カプセル。―そして、殺人」父の栄一郎が始めた三題噺。
再婚相手の光代とハネムーンの途中、三十年前に埋めたタイム・カプセルを掘り出すため
高校に立ち寄るらしい。同行を命じられた一人娘の倫子は「殺人」というお題に戸惑う。
そこへ「三十年前のことで話をしたい」という電話が。
さらに一緒にタイム・カプセルを埋めた同級生が父娘の目前で刺され…。
赤川次郎の王道作品でありながら、主人公の倫子よりも、
父親の栄一郎(含めた同級生と当時の教師)の青春物語かなあと感じました。
30年前に生徒だけでなく教師からも絶大な人気があった高津智子先生が殺害される。
彼女を殺した犯人は誰なのか。
タイムカプセルには何が埋められているのか?
栄一郎たちの前に現れた、彼の同級生・石山の娘「を名乗る」石山秀代、
倫子の新しい母親となった羽佐間(小泉)光江など、
倫子の周囲も一筋縄ではいかない人ばかり。
ラストで一気に大団円に持っていくのも、さすが赤川先生。
最初に書いた、栄一郎の青春物語というのは、実際のところ、
彼がタイムカプセルから殺人まで、ほぼ全ての謎を知っていたからという面も大きいです。
謎めいた女性である中山久仁子をもう少し活かして欲しかったなあという印象と、
大団円ではあるのですが、その反面、かなりの駆け足になってしまったかなとも思います。
今月は角川文庫で多くの赤川次郎作品が復刊しましたので、そちらも随時
更新していきます。
2018年09月25日
2018年09月22日
誰も僕を裁けない
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「援交探偵」上木らいちの元に、名門企業の社長から「メイドとして雇いたい」という手紙が届く。
東京都にある異形の館には、社長夫妻と子供らがいたが、連続殺人が発生!
一方、埼玉県に住む高三の戸田公平は、資産家令嬢・埼(みさき)と出会い、互いに惹かれていく。
そして埼の家に深夜招かれた戸田は、ある理由から逮捕されてしまう。
法とは? 正義とは? 驚愕の真相まで一気読み!エロミスと社会派を融合させた渾身作!!
エロミスを定着させた早坂先生の功績は大きい。
上木らいちのエロさが伝わる文章がまた良いのです。
本作の舞台となる逆井邸。この図が登場するのですが、確かに異形の館。
で、らいちも言っているように、明らかに「回る」だろうと思われる館(笑)
この「回る」館を使ったトリックより、犯人がアノ最中に殺人をしていたことの方が
遥かに驚きました。
そして「上木らいち」と「戸田公平」という2人の視点で交互に語られる物語が
果たしてどんな繋がりなのかが、最後に明らかにされるのですが、
これが中々唸らせる結びつきです。
上記館の回るトリックは、実際には、殺人だけでなく、戸田公平の人生をも
左右するトリックだったことがわかります。
そしてこの結びつきこそ、作中でのらいちと推理作家をめざす一心の会話にあります。
「本格と社会派の融合」、「本格のルールが現実社会のルールをも浸食する」。
この台詞は、そっくりそのまま本作に当てはまります。
戸田公平の人生を変えた現実社会の法律というルールと、
戸田公平が経験したまさに本格ミステリさながらの殺人事件。
そしてそれが明らかになった時、本書のタイトルの真の意味も明かされるのです。
本格と社会派の融合、古くて新しい課題にエロを入れつつ、見事なアプローチで
完成させた傑作です。
「援交探偵」上木らいちの元に、名門企業の社長から「メイドとして雇いたい」という手紙が届く。
東京都にある異形の館には、社長夫妻と子供らがいたが、連続殺人が発生!
一方、埼玉県に住む高三の戸田公平は、資産家令嬢・埼(みさき)と出会い、互いに惹かれていく。
そして埼の家に深夜招かれた戸田は、ある理由から逮捕されてしまう。
法とは? 正義とは? 驚愕の真相まで一気読み!エロミスと社会派を融合させた渾身作!!
エロミスを定着させた早坂先生の功績は大きい。
上木らいちのエロさが伝わる文章がまた良いのです。
本作の舞台となる逆井邸。この図が登場するのですが、確かに異形の館。
で、らいちも言っているように、明らかに「回る」だろうと思われる館(笑)
この「回る」館を使ったトリックより、犯人がアノ最中に殺人をしていたことの方が
遥かに驚きました。
そして「上木らいち」と「戸田公平」という2人の視点で交互に語られる物語が
果たしてどんな繋がりなのかが、最後に明らかにされるのですが、
これが中々唸らせる結びつきです。
上記館の回るトリックは、実際には、殺人だけでなく、戸田公平の人生をも
左右するトリックだったことがわかります。
そしてこの結びつきこそ、作中でのらいちと推理作家をめざす一心の会話にあります。
「本格と社会派の融合」、「本格のルールが現実社会のルールをも浸食する」。
この台詞は、そっくりそのまま本作に当てはまります。
戸田公平の人生を変えた現実社会の法律というルールと、
戸田公平が経験したまさに本格ミステリさながらの殺人事件。
そしてそれが明らかになった時、本書のタイトルの真の意味も明かされるのです。
本格と社会派の融合、古くて新しい課題にエロを入れつつ、見事なアプローチで
完成させた傑作です。
2018年09月16日
片桐大三郎とXYZの悲劇
まずはAmazonさんの紹介ページから。
元銀幕の大スター・片桐大三郎(現芸能プロ社長)の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。
その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る。
聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。
この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで抱腹絶倒のミステリー!
エラリー・クイーンのドルリー・レーン悲劇4部作のオマージュ。
「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」(「Xの悲劇」)では「満員電車」という繋がりを持たせます。
「極めて陽気で暢気な凶器」(「Yの悲劇」)では、不思議な凶器、という繋がりを。
「途切れ途切れの誘拐」(「Zの悲劇」)では、これは死刑宣告というタイムリミットと
誘拐という、ある種のタイムリミットが繋がりなのかと思いましたが、違うかな・・・
最後「片桐大三郎最後の季節」(「レーン最後の事件」)は、・・・
「ぎゅうぎゅう詰め」では、犯人を指摘するまでには当然至らずですが、
スーツやコートのずれ、というのは赤川次郎作品でも何かあったなあと思った次第。
ただし、被害者が結局どういう服装で電車に乗っていたのかの描写がないため、
中々難しい気もしますが、読者とすると、犯人はすぐわかるのでは(苦笑
2作目はウクレレがなぜ凶器に使用されたのかというのが最大の読ませどころ。
ただ作品内ではこれがほとんど活かすことができていません。
むしろ、猫丸先輩(猫丸先輩シリーズ)ならば、もっと魅力的な「仮説」を提示できた
と思ってしまいます。
本作最大の欠点はお手伝いさんが受けた電話でしょう。よくよく考えるとこれは明らかに
不自然です(特に乃枝が時系列を表にまとめたあたりでよくわかる。)
「途切れ途切れの誘拐」は、これは閲読注意なのかもしれません。
最初の選挙戦との関係や殺人と誘拐の主従逆転というのはお見事。
しかし、誘拐事件をする必要性があったかどうか微妙な所ですね。
「片桐大三郎最後の季節」は本書所収では快作。
「レーン最後の事件」を見事に逆手に取っています。
ということは、シリーズは続くのかと少し期待してしまいます。
一番気になったのは、この片桐大三郎、誰がモデルなのでしょう?
片岡千恵蔵さんかなーとも思いましたが、
小御角勲監督との映画なんて話からは三船敏郎さんのイメージが強いですね。
途中出てくる「仁木もり介」は三木のり平さんでしょう。
レーン悲劇4部作へのオマージュ探しだけでなく、次々と登場する往年の時代劇スターの
名前から、それが現実世界の誰なのかを想像するのも、本書を楽しむ一つの方法ですね。
元銀幕の大スター・片桐大三郎(現芸能プロ社長)の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。
その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る。
聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。
この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで抱腹絶倒のミステリー!
エラリー・クイーンのドルリー・レーン悲劇4部作のオマージュ。
「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」(「Xの悲劇」)では「満員電車」という繋がりを持たせます。
「極めて陽気で暢気な凶器」(「Yの悲劇」)では、不思議な凶器、という繋がりを。
「途切れ途切れの誘拐」(「Zの悲劇」)では、これは死刑宣告というタイムリミットと
誘拐という、ある種のタイムリミットが繋がりなのかと思いましたが、違うかな・・・
最後「片桐大三郎最後の季節」(「レーン最後の事件」)は、・・・
「ぎゅうぎゅう詰め」では、犯人を指摘するまでには当然至らずですが、
スーツやコートのずれ、というのは赤川次郎作品でも何かあったなあと思った次第。
ただし、被害者が結局どういう服装で電車に乗っていたのかの描写がないため、
中々難しい気もしますが、読者とすると、犯人はすぐわかるのでは(苦笑
2作目はウクレレがなぜ凶器に使用されたのかというのが最大の読ませどころ。
ただ作品内ではこれがほとんど活かすことができていません。
むしろ、猫丸先輩(猫丸先輩シリーズ)ならば、もっと魅力的な「仮説」を提示できた
と思ってしまいます。
本作最大の欠点はお手伝いさんが受けた電話でしょう。よくよく考えるとこれは明らかに
不自然です(特に乃枝が時系列を表にまとめたあたりでよくわかる。)
「途切れ途切れの誘拐」は、これは閲読注意なのかもしれません。
最初の選挙戦との関係や殺人と誘拐の主従逆転というのはお見事。
しかし、誘拐事件をする必要性があったかどうか微妙な所ですね。
「片桐大三郎最後の季節」は本書所収では快作。
「レーン最後の事件」を見事に逆手に取っています。
ということは、シリーズは続くのかと少し期待してしまいます。
一番気になったのは、この片桐大三郎、誰がモデルなのでしょう?
片岡千恵蔵さんかなーとも思いましたが、
小御角勲監督との映画なんて話からは三船敏郎さんのイメージが強いですね。
途中出てくる「仁木もり介」は三木のり平さんでしょう。
レーン悲劇4部作へのオマージュ探しだけでなく、次々と登場する往年の時代劇スターの
名前から、それが現実世界の誰なのかを想像するのも、本書を楽しむ一つの方法ですね。
2018年09月09日
逃げる幻
まずはAmazonさんの紹介ページから。
家出を繰り返す少年が、開けた荒野の真ん中から消えた―
ハイランド地方を訪れたダンバー大尉が聞かされたのは、そんな不可解な話だった。
その夜、当の少年を偶然見つけたダンバーは、彼が何かを異様に恐れていることに気づく。
そして二日後、少年の家庭教師が殺される―スコットランドを舞台に、
名探偵ウィリング博士が人間消失と密室殺人が彩る事件に挑む傑作本格ミステリ。
ついに創元推理文庫のウィリング博士シリーズにも手を出しました(笑
先月に『悪意の夜』が出たので、それ以前に刊行されたものをと思い、まずは本書を。
少年の消失、そしてその後起こる殺人事件の密室。これらは実のところ
そこまで大きな問題ではありません。
本書のすごさは、少年がなぜ家出を繰り返すのか?途中明かされるダンバー大尉の真の目的。
本書が書かれた第二次世界大戦直後という戦争の傷跡と極めて深く関連させ、
それでいて、実は最初から叙述の中に犯人を当てられる要素をちりばめていること。
そしてそれを隠すかのように、舞台とされたスコットランドのハイランド地方に伝わる
様々な言い伝え。これが実にミスリードに繋がっていて、かつ物語のおどろおどろしさを
醸し出す絶好の舞台となっています。
ウィリング博士は本当に本当に終盤にしか登場しません。
それでいて、読者へのヒントをダンバーに話す形で一つ一つ丁寧に看破していくのは圧巻。
ただし、登場が遅いためか、ウィリング博士シリーズにしなくても良かった気もするという。
『悪意の夜』も楽しみです。
家出を繰り返す少年が、開けた荒野の真ん中から消えた―
ハイランド地方を訪れたダンバー大尉が聞かされたのは、そんな不可解な話だった。
その夜、当の少年を偶然見つけたダンバーは、彼が何かを異様に恐れていることに気づく。
そして二日後、少年の家庭教師が殺される―スコットランドを舞台に、
名探偵ウィリング博士が人間消失と密室殺人が彩る事件に挑む傑作本格ミステリ。
ついに創元推理文庫のウィリング博士シリーズにも手を出しました(笑
先月に『悪意の夜』が出たので、それ以前に刊行されたものをと思い、まずは本書を。
少年の消失、そしてその後起こる殺人事件の密室。これらは実のところ
そこまで大きな問題ではありません。
本書のすごさは、少年がなぜ家出を繰り返すのか?途中明かされるダンバー大尉の真の目的。
本書が書かれた第二次世界大戦直後という戦争の傷跡と極めて深く関連させ、
それでいて、実は最初から叙述の中に犯人を当てられる要素をちりばめていること。
そしてそれを隠すかのように、舞台とされたスコットランドのハイランド地方に伝わる
様々な言い伝え。これが実にミスリードに繋がっていて、かつ物語のおどろおどろしさを
醸し出す絶好の舞台となっています。
ウィリング博士は本当に本当に終盤にしか登場しません。
それでいて、読者へのヒントをダンバーに話す形で一つ一つ丁寧に看破していくのは圧巻。
ただし、登場が遅いためか、ウィリング博士シリーズにしなくても良かった気もするという。
『悪意の夜』も楽しみです。
2018年09月02日
落ちる/黒い木の葉
まずはAmazonさんの紹介ページから。
過度な自己破壊衝動を持つ男は最愛の妻を得ることで生きる意味を見出したかに思えたが、
主治医の男と妻の関係に疑念を抱く(「落ちる」)。うだつの上がらない万年平行員の宿直当番中に
銃を持った強盗が現れた。その意外な顛末とは?(「ある脅迫」)。
サスペンスからユーモア、本格推理、叙情豊かな青春までバラエティに富む昭和ミステリの傑作短篇集。単行本未収録作「砂丘にて」収録。
本書はちくま文庫から刊行が続いている、日下三蔵氏編による結城昌治氏、仁木悦子氏などの
名短編集に続くシリーズ。
失礼ながら私は多岐川恭氏を全く知らず、本書を購入して初めて知りました。
まず冒頭の「落ちる」から驚かされます。
強い自己破壊衝動を持つ主人公は、妻・佐久子と度々来訪する医師・長峰の仲を疑い
続けているものの、長峰のある告白から始まる彼のデパートでの行動には驚愕。
係員に告げる最期の台詞も印象的。
「ヒーローの死」は自らが「ヒーロー」であることにこだわり続けた、悲しい男の物語。
「ある脅迫」は、誰が脅迫者になるのか、その後の脅迫の内容まで、そして脅迫の仕方までも
中池又吉の描かれる&想像する性格から鑑みて、相当おもしろい作品です。
笑い話にまで持っていった次長の力量は見事ですが、詰めが甘かったですね。
「黒い木の葉」は青春小説でありながら、少女の死をめぐる謎を解くミステリでもあります。
少年と少女だけでなく、少女の母親と少年の父親である画家の両者の「青春」を
振り返る物語にもなっている、と感じました。
「砂丘にて」は今でいうどんでん返しのミステリ。「その五」から始まる日下の語りは必読。
他にも自殺願望を持つ者たちの中に、自らをどん底に突き落とした男を招いた「俺は死なない」
一人の女性をめぐって争う「ライバル」等々・・・書いていくときりがありません。
これを期に多岐川恭先生の作品群が復刊していくことを望みます。
過度な自己破壊衝動を持つ男は最愛の妻を得ることで生きる意味を見出したかに思えたが、
主治医の男と妻の関係に疑念を抱く(「落ちる」)。うだつの上がらない万年平行員の宿直当番中に
銃を持った強盗が現れた。その意外な顛末とは?(「ある脅迫」)。
サスペンスからユーモア、本格推理、叙情豊かな青春までバラエティに富む昭和ミステリの傑作短篇集。単行本未収録作「砂丘にて」収録。
本書はちくま文庫から刊行が続いている、日下三蔵氏編による結城昌治氏、仁木悦子氏などの
名短編集に続くシリーズ。
失礼ながら私は多岐川恭氏を全く知らず、本書を購入して初めて知りました。
まず冒頭の「落ちる」から驚かされます。
強い自己破壊衝動を持つ主人公は、妻・佐久子と度々来訪する医師・長峰の仲を疑い
続けているものの、長峰のある告白から始まる彼のデパートでの行動には驚愕。
係員に告げる最期の台詞も印象的。
「ヒーローの死」は自らが「ヒーロー」であることにこだわり続けた、悲しい男の物語。
「ある脅迫」は、誰が脅迫者になるのか、その後の脅迫の内容まで、そして脅迫の仕方までも
中池又吉の描かれる&想像する性格から鑑みて、相当おもしろい作品です。
笑い話にまで持っていった次長の力量は見事ですが、詰めが甘かったですね。
「黒い木の葉」は青春小説でありながら、少女の死をめぐる謎を解くミステリでもあります。
少年と少女だけでなく、少女の母親と少年の父親である画家の両者の「青春」を
振り返る物語にもなっている、と感じました。
「砂丘にて」は今でいうどんでん返しのミステリ。「その五」から始まる日下の語りは必読。
他にも自殺願望を持つ者たちの中に、自らをどん底に突き落とした男を招いた「俺は死なない」
一人の女性をめぐって争う「ライバル」等々・・・書いていくときりがありません。
これを期に多岐川恭先生の作品群が復刊していくことを望みます。