2018年10月23日

恐怖の報酬

まずはAmazonさんの紹介ページから。

こんなはずじゃなかったのに――。平和な日常が反転する傑作短編集。

大切な来客の駐車場を確保しそこなった昭子。年下の課長から毎日嫌がらせを受ける定年間際の柳井。
公園でガラの悪い男たちに絡まれ、一緒にいた彼氏に置いていかれた友子。
アイドルと共に強盗の人質になった銀行員・明美。
窮地に陥った4人はそれぞれ差しのべられた救いの手を取ろうとするが……。
信じていた日常に裏切られた人間の、もろさとしたたかさを容赦なく描き出す、傑作短編集。

ホラー文庫らしい作品群です。
その中でも救いがある話は第3話「最後の願い」
ラストも最後にまた娘に会えて、会田もうれしかったのではないでしょうか。
もちろん、危害を加えようとしたことは後悔しているかもしれませんが。

第1話は主人公の昭子がプラスマイナスゼロと言っているように、
良いこともあれば悪いこともある、で終わらないところがすごい。
何かと頼りにしてきた三橋とのドライブから、一気に別の物語になったかのようです。
しかもラストは昭子までもがその世界に慣れているところが怖い。

「使い走り」は寺岡の自業自得な話の気もするのですが、
星野貞代が柳井が亡くなった直後に自殺していたという衝撃の事実と、
それが明らかになっても、課の誰もが感動して受け容れたという事実、
さすがに背筋が寒くなりました。感動的にも捉えられるし、恐怖とも捉えられる、
なんとも言いがたいラストです。

一番後味が悪いのは最終話「人質の歌」
とにかく救われる人は誰一人いません。
そして、強盗人質事件にかこつけて悪巧みをする輩たち。
途中、強盗犯とは違う殺人犯が登場するという、犯人のバトンタッチが行われるのは、
極限状態だからなのかと思いきや、実は最後でまた明かされる意外な真相。
とにかく誰一人として救われない物語です。


恐怖の報酬 (角川文庫)

恐怖の報酬 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫



恐怖の報酬 (角川文庫)

恐怖の報酬 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 21:07| Comment(7) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月20日

悪意の夜

まずはAmazonさんの紹介ページから。

夫を事故で喪ったアリスは、亡夫の書斎でミス・ラッシュという知らない女性の名が
書かれた封筒を見つける。そこへ息子のマルコムが、美女を伴い帰宅した。
美女の名前はラッシュ……女性が去ったのち、封筒も消えていた。彼女は何者で、
息子に近づいた目的、夫の死との関連は? アリスの疑惑と緊張が深まるなか、ついに殺人が……。
迫真のサスペンスにして名探偵による謎解きミステリでもある、ウィリング博士もの最後の未訳長編。

マクロイという作家は序盤の叙述で、読者を物語に惹き込むのが抜群に上手いと思います。
本書も、夫が遺した封筒、書かれていた女性の名前、息子のガールフレンド、
そして「彼女は私の娘ではない」というミス・ラッシュの父親の発言等々・・・
主人公のアリスがパニックになるのは必然ですね。

この辺りは前回読んだ「牧神の影」にプロットが似ています。
序盤の展開、容疑者の少なさ、夫(伯父)が最後にしていた仕事・・・

ただし、「牧神」と違うのは、ウィリング博士が登場するのと、物語の終幕でしょうか。
個人的にはもう少しミス・ラッシュには見せ場を与えて欲しかったなと思います。
その辺りの話が夫の手記(封筒に入っていた書類)で明らかにされますが、
もう少し彼女に語らせても良かったなあと。

ウィリング博士の最後のセリフ「それでいいのです」が印象的でした。




悪意の夜 (創元推理文庫)

悪意の夜 (創元推理文庫)

  • 作者: ヘレン・マクロイ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/08/22
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 23:27| Comment(8) | 海外ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月14日

今日の別れに

まずはAmazonさんの紹介ページから。

押しに弱く、彼氏の坂西と別れられず困っていた歩美。今日こそはと坂西に会いに行く途中で、
憧れの先輩・南田からデートの誘いの電話が入った。有頂天になった歩美が
その勢いで坂西を強く拒むと、傷ついた坂西は車の前に飛び出しはねられてしまう。
南田とのデートの時間が迫っていた歩美は罪悪感を覚えながらも坂西を見捨て立ち去るが、
そのことが思わぬ形で歩美の人生を歪めていく…。表題作他2編収録。

元々角川ホラー文庫で刊行されていたので、ホラー色がかなり強い作品です。
その中で唯一、赤川作品の少年少女の冒険譚とも言えるのが「角に建った家」
この話で一番気の毒だったのは、家が建った土地の地主でしょう。
いきなり絵に閉じ込められます(苦笑

表題作は主人公の歩美の行動から、家族やその周囲までが不幸に見舞われる話。
坂西や三田智子の恨みの深さは理解できますが、最後に坂西(と智子?)が見せた
優しさが少し救われます。
しかし妹が亡くなった直後の歩美の行動は確かにちょっと・・・

「あなた」は過去に犯罪を犯して逃げた「故郷」に、別人別名として
そして成功者として戻ってきた「町田国男」の物語。

表題作と違い、貞子は「町田」(増田)を恨んではいません。
しかし、増田自身、最後に自らに終止符を打ち、かつ改めて貞子と一緒に旅立つのです。

ラストはかなり意味深な終わり方です。
しかし、良子もひとみも真実を知ることは無いでしょう、それが救いです。



今日の別れに (角川文庫)

今日の別れに (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫



今日の別れに (角川文庫)

今日の別れに (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: Kindle版



今日の別れに (角川ホラー文庫)

今日の別れに (角川ホラー文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/01/10
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 22:04| Comment(9) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月08日

赤い博物館

まずはAmazonさんの紹介ページから。

警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力は皆無だが、
ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは、部下の寺田聡。
過去の事件の遺留品や資料を元に、難事件に挑む二人が立ち向かった先は―。
予測不能なトリック駆使、著者渾身の最高傑作!

「密室蒐集家」に続く文春文庫の大山誠一郎さん第2弾。
ドラマ化していたようですが、観た記憶がない・・・
以下、ややネタバレ。




本作の中には2つの系統作品が入っています。
緋色冴子が単なる推理だけでなく、現実にも事件を解決するパターン。
「パンの身代金」や「「死が共犯者を別つまで」「死に至る問い」の3編がそれに該当。

一方、あくまで緋色の推理に留まり、真相がどうなのかは読者へ任せるパターン。
「復讐日記」「炎」がこれに該当。

前者では「死が共犯者を別つまで」がオススメ。
これは予想以上に予想外の流れでした。しかも見事に真犯人を挙げているところも良い。
ただし、入れ替わりやなりすましがここまで上手くいくかどうか、ちょっと難しい気も。

後者はいずれもオススメなのですが、
「日記」が必ずしも本当の事を記載していない事や、高見が守ろうとしたのは誰なのか、
という点から「復讐日記」。
「炎」は幸せな家族を襲った悲劇の裏に、実はその幸せは創られたものだったのではないかという
どこかホラー要素も含んでいて、個人的には好きな作品。
しかし、緋色の推理から考えるに、果たして妊娠をそこまでごまかすことが出来るのかどうか。
この辺りはちょっと弱い気もします。

ところで緋色冴子がキャリアなのに異動せず、8年間も閑職にいるのか。
兵藤首席監察官と同期で、事件を捜査してくれと非公式なお願いに来たり・・・
「密室蒐集家」は主人公が完全に時空を超えた存在であるから良いのですが、
本作は、次作以降でその辺りの背景まで描いてくれるとうれしいですね。



赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫



赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 17:52| Comment(7) | 大山誠一郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月04日

自殺行き往復切符

まずはAmazonさんの紹介ページから。

19歳の女子大生・真鍋今日子は、恋人木村の甘い囁きを頼りに、心中をほのめかす書き置きを残し、
失踪した。翌日、今日子のハンドバッグと靴だけが海辺の崖で発見された。
警察の急報を受けた両親が現場へ向かったが…。その後、海岸で発見された今日子らしき女性は、
記憶を失っていた。一方、木村は新たに知り合った金持婦人を殺し、金と宝石を奪う。
そして次々と起こる殺人事件…。天才詐欺師が企む罠。ピカレスク・ロマン。

殺人犯かつ女性を生まれながら虜にし、詐欺を働く「木村久夫」「池上照夫」の物語。
また彼に魅了された女性たちの物語でもあります。

大宮司美沙の行動力には驚きますが、それ以上に彼女の父親・大宮司泰治がかなり
強烈な人物です。
娘のためなら、正義も道徳も関係無い、それこそ殺人まで犯すという、しかも
巨大な権力を持っているという。どう見ても悪役なのですが、どこかそう思えない所も
あるのがまた不思議。
そして、物語の最初に「彼」に騙された真鍋今日子の父・真鍋圭介も実は
最後の最後で大宮司と似た顔を見せます。
波子(今日子)の共同殺人をあらゆる手を使って無罪にするという、圭介の態度は
大宮司の姿に重なるのです。

ラスト、果たして美沙は「彼」に逢えたのか。物語はその結末を描かず終幕します。

他にもいくつか気になる謎を残しつつだったので、ちょっと気になりました。
真鍋の被書で極めて有能な金田はどうして警視庁捜査一課を辞めたのか。
大沢の妹の亜矢子と婚約解消したのはなぜか。
(再会したとたん、恋人関係に戻るので、余計に気になりました。)

「彼」はなぜ子どもにとても優しく、家族について語るとき、別人になるのか。
この辺りはあえて謎として残したという気もしますが、どうでしょうか。

それにしても、最後まで「彼」の本名は明らかにならず、主人公の名前すら
わからないという極めて希有な物語でした。


自殺行き往復切符 (角川文庫)

自殺行き往復切符 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫



自殺行き往復切符 (角川文庫)

自殺行き往復切符 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: Kindle版



自殺行き往復切符 (角川文庫 (6050))

自殺行き往復切符 (角川文庫 (6050))

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1985/04
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 21:49| Comment(6) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月02日

錆びた滑車

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。
ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、
記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する―。
大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。

以下、ややネタバレ。



上から人が降ってくる不運に始まり、今度は自分が落ちるで終わる。
どこまでも不運すぎますが、落ちた後、真の犯人ともいえるべき人物と対峙する葉村は
かっこいい。
「さよならの手口」と同様、ある老女の尾行するという小さな依頼から、
大きな事件へと繋がります。
ただし「さよならの手口」と違うのは、この依頼そのものが仕組まれた面があるところでしょうか。
とはいえ、葉村は依頼を通じて知り合ったミツエとヒロトと暮らし始め、
不便さや不満を散々露わにしながらも、最後に彼らと過ごした時間を素晴らしい瞬間と
振り返りつつも、彼らを救えなかった自分を無能な探偵と恥じるのです。

そして彼女を取り巻く環境にも再び変化が。
これまで住んでいた「スタインベック荘」の取り壊しが決まり、
アルバイト先の<白熊探偵社>の空き部屋に住むことになります。
良くしてくれた大家岡部巴や、同じ店子の佐々木琉宇とも別れることに。
(姪の飛鳥市子は登場人物の中でも真犯人の次に嫌なヤツですが)
しかし、当麻警部との腐れ縁が切れない以上、佐々木琉宇とも実は切れない縁に
なってしまったかもしれません。彼女に彼氏ができたことにより(笑

ヒロトの事故や「牧村ハナエ」の存在、そして麻薬・・・様々に張られた伏線
を徐々に徐々に回収していく物語も読み応えあり。

ここからは余談。
葉村晶も「さよならの手口」で13年ぶりに復活しましたが、
元々「プレゼント」で彼女と微妙な共演をしていた小林警部補も
「御子柴くんの甘味と捜査」で久しぶりの復活を果たしました。

その後小林警部補は勇退しますが、葉村晶にはこれからも
我々を楽しませてほしいと思います。


錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫



錆びた滑車 葉村晶シリーズ (文春文庫)

錆びた滑車 葉村晶シリーズ (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 21:41| Comment(5) | 若竹七海 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする