今年もあと1日となりました。
年末恒例(?)の、今年読んだミステリのオススメをご紹介。
泡坂妻夫「花嫁のさけび」「奇跡の男」
復刊が続く泡坂妻夫先生の作品からは2作。
前者はここまでやるか、というまでの完璧なる叙述トリック。
「迷蝶の島」「妖怪S79号」と続いた河出書房新社からの復刊の中では一番のオススメ。
後者は完全に河出書房新社復刊を狙いにきた一作(笑
表題作は御大デビュー作かつ亜愛一郎初登場の「DL2号機事件」を思い起こさせます。
復刊つながりで、「夜の終わる時/熱い死角」
郷原部長刑事シリーズで終了していた結城昌治先生作品でしたが、
ちくま文庫からの復刊で、新たな楽しみが増えました。
今年はなんといってもヘレン・マクロイ作品は外せません。
「逃げる幻」と「牧神の影」
前者は圧巻。盲点を突いた作品でもあり、必読ではないかと思います。
後者はこの邦題が実に良い。暗号そのものは難解過ぎますが、物語にどんどん引き込まれます。
若竹七海「錆びた滑車」
改めて書くことはありません。
ちょっとした変化球をつけるなら、小林(元)警部補とまた共演してほしいなあ。
いやあ、実のところかなりの本は越年です。
また来年、たくさんのミステリに出会えることを期待します。
2018年12月31日
2018年12月24日
切り裂きジャックを待ちながら
毎年度、この時期にはクリスマスにまつわるミステリを紹介しています。
が、そろそろネタ切れ感が強い。
海外ミステリまで含め、そこまで多くない(はずはない)?
単に僕が知らないだけでしょうか・・・
そこで今年は有栖川有栖先生の国名シリーズ第5弾『ペルシャ猫の謎』収録の一編から。
かつて有栖川有栖の小説を舞台化したいと誘いを受けていた<屋根裏の散歩舎>の劇団員
からある相談を受ける。
それはの看板女優、鴻野摩利看板女優が誘拐され、12月24日までに身代金を振り込んで欲しい
というビデオメッセージが届けられたというものだった。
現実なのか狂言なのか、ゲネプロが行われる中、彼女の変わり果てた死体が発見される・・・
本作は動機という面では理解できないorできる、賛否両論ありそうです。
しかし、切り裂きジャックを題名に持ってきたことが、この動機と強く関連を持たせて
いるのではないかと勝手に思いました。
アリバイトリックは短時間で行ったにしてはかなり見事です。
あとは火村の登場と解決場面がかっこいい。
ところで本作含め、特に表題作「ペルシャ猫の謎」は火村シリーズの中でも異色作。
いや、この結末は中々書けません。
所収昨では「わらう月」と森下刑事が主役の「赤い帽子」が個人的オススメかつ快作。
それではすてきなクリスマス・イブ&クリスマスをお過ごしください。
が、そろそろネタ切れ感が強い。
海外ミステリまで含め、そこまで多くない(はずはない)?
単に僕が知らないだけでしょうか・・・
そこで今年は有栖川有栖先生の国名シリーズ第5弾『ペルシャ猫の謎』収録の一編から。
かつて有栖川有栖の小説を舞台化したいと誘いを受けていた<屋根裏の散歩舎>の劇団員
からある相談を受ける。
それはの看板女優、鴻野摩利看板女優が誘拐され、12月24日までに身代金を振り込んで欲しい
というビデオメッセージが届けられたというものだった。
現実なのか狂言なのか、ゲネプロが行われる中、彼女の変わり果てた死体が発見される・・・
本作は動機という面では理解できないorできる、賛否両論ありそうです。
しかし、切り裂きジャックを題名に持ってきたことが、この動機と強く関連を持たせて
いるのではないかと勝手に思いました。
アリバイトリックは短時間で行ったにしてはかなり見事です。
あとは火村の登場と解決場面がかっこいい。
ところで本作含め、特に表題作「ペルシャ猫の謎」は火村シリーズの中でも異色作。
いや、この結末は中々書けません。
所収昨では「わらう月」と森下刑事が主役の「赤い帽子」が個人的オススメかつ快作。
それではすてきなクリスマス・イブ&クリスマスをお過ごしください。
2018年12月18日
世界推理短編傑作集 2
まずはAmazonさんの紹介ページから。
欧米では、世界の短編推理小説の傑作集を編纂する試みが、しばしば行われている。
本書はそれらの傑作集の中から、編者の愛読する珠玉の名作を厳選して全5巻に収録し、
併せて19世紀半ばから1950年代に至るまでの短編推理小説の歴史的展望を読者に提供する。
本巻には、“奇妙な味”の短編「放心家組合」をはじめ、英米以外の作家であるグロラー、
ルブランの作品などを収録した。
以下ややネタバレ。
本作最大の個人的オススメはルブランの「赤い絹の肩かけ」
これまた恥ずかしながら、ルブランのルパンシリーズは小学生の頃に読んだ記憶があるくらいで、
実質初読と言ってよいです。
ルパンが怪盗だけでなく、名探偵としても活躍する本編は見事の一言。
推理の過程はあのシャーロック・ホームズを彷彿とさせますし、
そして、なぜ彼がこんな推理をガニマール警部へしたのかという最大の謎が
最後に明かされますが、これこそ怪盗ルパンの面目躍如ではないでしょうか。
短編集を読みたくなりました。
奇妙な味に区分されている「放心家組合」は良く出来た作品ではあると思います。
最初依頼されていた事件ではなく、全く別の犯罪を暴き出すという筋立てはかなりおもしろい。
そして、邦題の「放心家」というのがどこに登場するのか、
これが実に皮肉が効いていて絶妙。何を、放心しているのか。実にうまい。
そしてこんなところに目を付ける集団も頭が良い。
とはいえ、最後は事実上名探偵は敗北してしまうのが個人的には残念でしたね。
むろん名探偵短編集ではないので、必ずしも探偵が勝利するわけではないのですが、
2の一発目がこれというのがうまい構成なのか、個人的にひっかかりました。
科学者探偵の代表格たるゾーンダイク博士が、まさにその科学を駆使する
「オスカー・ブロズキー事件」は、これもあまり受け付けなかったですね。
比較するのも相当失礼なのですが、
サスペンスドラマとかで刑事の勘で捜査する部長刑事と、It(PC)を駆使するバディコンビという
ステレオタイプ的なドラマがかなーりありましたが、
ここまで科学を強調されると、ITをやたら強調しまくるこのドラマを思い出してしまいました。
ブラウン神父の「奇妙な足音」はもはや何も言うまでもなく、ブラウンものの中でも
1、2を争う傑作ではないでしょうか。
今月は3が刊行されます。その前にカササギ殺人事件かな?
欧米では、世界の短編推理小説の傑作集を編纂する試みが、しばしば行われている。
本書はそれらの傑作集の中から、編者の愛読する珠玉の名作を厳選して全5巻に収録し、
併せて19世紀半ばから1950年代に至るまでの短編推理小説の歴史的展望を読者に提供する。
本巻には、“奇妙な味”の短編「放心家組合」をはじめ、英米以外の作家であるグロラー、
ルブランの作品などを収録した。
以下ややネタバレ。
本作最大の個人的オススメはルブランの「赤い絹の肩かけ」
これまた恥ずかしながら、ルブランのルパンシリーズは小学生の頃に読んだ記憶があるくらいで、
実質初読と言ってよいです。
ルパンが怪盗だけでなく、名探偵としても活躍する本編は見事の一言。
推理の過程はあのシャーロック・ホームズを彷彿とさせますし、
そして、なぜ彼がこんな推理をガニマール警部へしたのかという最大の謎が
最後に明かされますが、これこそ怪盗ルパンの面目躍如ではないでしょうか。
短編集を読みたくなりました。
奇妙な味に区分されている「放心家組合」は良く出来た作品ではあると思います。
最初依頼されていた事件ではなく、全く別の犯罪を暴き出すという筋立てはかなりおもしろい。
そして、邦題の「放心家」というのがどこに登場するのか、
これが実に皮肉が効いていて絶妙。何を、放心しているのか。実にうまい。
そしてこんなところに目を付ける集団も頭が良い。
とはいえ、最後は事実上名探偵は敗北してしまうのが個人的には残念でしたね。
むろん名探偵短編集ではないので、必ずしも探偵が勝利するわけではないのですが、
2の一発目がこれというのがうまい構成なのか、個人的にひっかかりました。
科学者探偵の代表格たるゾーンダイク博士が、まさにその科学を駆使する
「オスカー・ブロズキー事件」は、これもあまり受け付けなかったですね。
比較するのも相当失礼なのですが、
サスペンスドラマとかで刑事の勘で捜査する部長刑事と、It(PC)を駆使するバディコンビという
ステレオタイプ的なドラマがかなーりありましたが、
ここまで科学を強調されると、ITをやたら強調しまくるこのドラマを思い出してしまいました。
ブラウン神父の「奇妙な足音」はもはや何も言うまでもなく、ブラウンものの中でも
1、2を争う傑作ではないでしょうか。
今月は3が刊行されます。その前にカササギ殺人事件かな?
2018年12月13日
このミステリがすごい!2019年版&2019本格ミステリ・ベスト10
いよいよこの時期がやってきました。
今年はこの2冊を購入。
『このミス』は原寮さんの『それまでの明日』が第1位。
去年の竹本健治さんの『涙香迷宮』に続き、ベテラン・大御所の受賞となりました。
葉村晶強し!『錆びた滑車』は第3位。
ハードボイルド&本格ミステリの路線、そして不幸な探偵をこれからもお願いします。
東野圭吾さんの『沈黙のパレード』はガリレオシリーズ最新作で、かなり高評価なので、
文庫化したら買う予定。
『本格ミステリ』の方では、大山誠一郎さんの『アリバイ崩し承ります』が第1位。
大山さんといえば、『アルファベット・パズラーズ』、『密室蒐集家』などを
私も愛読しております。こちらも文庫化したら購入予定。
そして有栖川有栖さんも安定の第6位。久々の国名シリーズですね。
綾辻行人さんや法月綸太郎さんなどのお名前が無いのが少々残念です。
ベスト10圏外ですが、小林泰三さんの『ドロシイ殺し』は
『アリス殺し』から始まる3作目。早く前2作を文庫化してくれ!
私の隠し玉では倉知淳さんがついに猫丸を一冊書きたいと述べておられて、
かなり楽しみです。
双方で海外ミステリで第1位を獲得した『カササギ殺人事件』は手元にあるものの、
未読。これは年内に読みたいですね。
今年はこの2冊を購入。
『このミス』は原寮さんの『それまでの明日』が第1位。
去年の竹本健治さんの『涙香迷宮』に続き、ベテラン・大御所の受賞となりました。
葉村晶強し!『錆びた滑車』は第3位。
ハードボイルド&本格ミステリの路線、そして不幸な探偵をこれからもお願いします。
東野圭吾さんの『沈黙のパレード』はガリレオシリーズ最新作で、かなり高評価なので、
文庫化したら買う予定。
『本格ミステリ』の方では、大山誠一郎さんの『アリバイ崩し承ります』が第1位。
大山さんといえば、『アルファベット・パズラーズ』、『密室蒐集家』などを
私も愛読しております。こちらも文庫化したら購入予定。
そして有栖川有栖さんも安定の第6位。久々の国名シリーズですね。
綾辻行人さんや法月綸太郎さんなどのお名前が無いのが少々残念です。
ベスト10圏外ですが、小林泰三さんの『ドロシイ殺し』は
『アリス殺し』から始まる3作目。早く前2作を文庫化してくれ!
私の隠し玉では倉知淳さんがついに猫丸を一冊書きたいと述べておられて、
かなり楽しみです。
双方で海外ミステリで第1位を獲得した『カササギ殺人事件』は手元にあるものの、
未読。これは年内に読みたいですね。
2018年12月04日
悪の華
まずはAmazonさんの紹介ページから。
団地に住む一人の主婦が射殺された―。彼女の葬儀の日、7年ぶりに顔を合わせた“悪い仲間”たち。
現在は会社社長、ピアニスト、主婦とそれぞれの生活を送っている。その平和を脅かすように、
過去に仲間の1人を殺したあいつが帰って来たのだ!!一方、会社社長の背後に忍び寄る、
刑事と女性警察官の影。1人、また1人と仲間があいつの手で殺されてゆく…
最後に残るのは一体誰!?悪の悲しさと儚い友情を描いた傑作サスペンス。
まさに息をもつかせないジェットコースターのような、赤川作品らしい展開。
平凡な主婦(と思われた)谷沢佳子が拳銃で殺される冒頭のシーンは個人的には
物語に惹き込まれました。
神崎や迫田、綾子らが過去にどんな「悪」をしていたのかはっきりとは描かれません。
しかし、現在の生活はまともでも、物語の端々に出てくる、彼らの行動。
それは、たとえ、<ノラ>の出現がその引き金になったとしても、「悪」そのもの。
一方でそんな神崎に、警察官でありながらそれを裏切り、上司とまで撃ち合いをする
永峰静江という女性は、神崎のことが好きだからこその行動だったのでしょうか。
彼が生きているのは、多くの人の死の上にあることはまちがいありません。
神崎は最後まで生き残りますが、彼にとってそれは幸せだったのかどうか。
団地に住む一人の主婦が射殺された―。彼女の葬儀の日、7年ぶりに顔を合わせた“悪い仲間”たち。
現在は会社社長、ピアニスト、主婦とそれぞれの生活を送っている。その平和を脅かすように、
過去に仲間の1人を殺したあいつが帰って来たのだ!!一方、会社社長の背後に忍び寄る、
刑事と女性警察官の影。1人、また1人と仲間があいつの手で殺されてゆく…
最後に残るのは一体誰!?悪の悲しさと儚い友情を描いた傑作サスペンス。
まさに息をもつかせないジェットコースターのような、赤川作品らしい展開。
平凡な主婦(と思われた)谷沢佳子が拳銃で殺される冒頭のシーンは個人的には
物語に惹き込まれました。
神崎や迫田、綾子らが過去にどんな「悪」をしていたのかはっきりとは描かれません。
しかし、現在の生活はまともでも、物語の端々に出てくる、彼らの行動。
それは、たとえ、<ノラ>の出現がその引き金になったとしても、「悪」そのもの。
一方でそんな神崎に、警察官でありながらそれを裏切り、上司とまで撃ち合いをする
永峰静江という女性は、神崎のことが好きだからこその行動だったのでしょうか。
彼が生きているのは、多くの人の死の上にあることはまちがいありません。
神崎は最後まで生き残りますが、彼にとってそれは幸せだったのかどうか。