まずはAmazonさんの紹介ページから。
大学院生・栗栖川亜理は、最近不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。
ある日ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後大学に行ってみると、
玉子という綽名の男が屋上から転げ落ちていた。次に見た夢の中でグリフォンが生牡蠣で窒息死すると、現実でも牡蠣を食べた教授が急死。そして不思議の国では、三月兎と頭のおかしい帽子屋が
犯人捜しに乗り出していたが、なんとアリスが最重要容疑者に……。
悪夢的メルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ!
久しぶりの更新です。
待ちに待っていた「アリス殺し」がようやく文庫化しました。
以下、ややネタバレあり。
元々がホラー大賞受賞作家さんだけあって、中々きわどい描写も多いのですが、
不思議の国と地球とで、事件が連動して起こるという設定を全面に活かした傑作
だと思います。
この設定を最大に活かしているのが犯人とそして最後の謎解き。
前者の犯人当てはまだわかるかもしれませんが、最後の謎解きはかなり驚きました。
不思議の国を舞台にした設定が最大限活きてきます。
そして、なぜ事件性が低い事故なのに、中丸警部と西中島刑事がわざわざ捜査に
来ているのかというのも、この設定が大きい。
惜しむらくは、なぜ亜理と井森は彼らを誤認してしまったのかです。
そしてそして、不思議の国での存在がアーヴァタールであるという
<蜥蜴のビル>こと井森の説こそ、実は最大のミスリードなんですね。
本作内の真犯人も、そして次作以降でもなぜか井森がワトソン役として登場するという、
奇妙な状況が生み出されるのです。
探偵役が共通ではなく、ワトソン役(とその世界観)が共通という、中々
お目にかかれないシリーズの記念すべき第1作。
不思議の国における、頭のおかしな帽子屋と三月兎の、これでもかという話の通らない
会話も合わせて(笑)必読です。
2019年05月29日
2019年05月14日
しあわせの書-迷探偵ヨギガンジーの心霊術
まずはAmazonさんの紹介ページから。
二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体“惟霊講会”。
超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、
布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。
41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、
実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ―。
マジシャンでもある著者が、この文庫本で試みた驚くべき企てを、
どうか未読の方には明かさないでください。
このところ泡坂作品の復刊、そして文庫化は素晴らしいものがありますね。
『泡坂妻夫引退公演』に続き、『曾我佳城全集』も創元推理文庫で
再文庫化されるとの情報もあり、うれしい限り。
そこで前回に続き、ヨギガンジーシリーズを一気読み。
本作は『ヨギガンジーの妖術』で弟子となった不動丸、そして途中から突然合流した
美保子の3名で旅を続けていて、『妖術』を読んでいた方がより楽しめるかも。
『しあわせの書』なる本は何が、しあわせ、なのか。
なぜ死亡したとされる人々が「惟霊講会」に居るのか。
様々な謎が断食中のガンジーの推理から一気に語られる
中盤から終盤にかけての盛り上がりは圧巻。
迷探偵とありますが、いやいや御謙遜を、名探偵ですよ。
ただし、確かにマヌケな面もあるのは否定しません(笑
しかし、しあわせの書の意味が個人的にはツボでしたね、なるほどと(笑
ところで本書にはもうひとつ、筆者ならではのある驚異の「仕掛け」が施されて
いるのですが、それを書くのはナンセンスでしょう。
この「仕掛け」はぜひ皆さんお読み頂いて、筆者の凄さを味わってください。
二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体“惟霊講会”。
超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、
布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。
41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、
実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ―。
マジシャンでもある著者が、この文庫本で試みた驚くべき企てを、
どうか未読の方には明かさないでください。
このところ泡坂作品の復刊、そして文庫化は素晴らしいものがありますね。
『泡坂妻夫引退公演』に続き、『曾我佳城全集』も創元推理文庫で
再文庫化されるとの情報もあり、うれしい限り。
そこで前回に続き、ヨギガンジーシリーズを一気読み。
本作は『ヨギガンジーの妖術』で弟子となった不動丸、そして途中から突然合流した
美保子の3名で旅を続けていて、『妖術』を読んでいた方がより楽しめるかも。
『しあわせの書』なる本は何が、しあわせ、なのか。
なぜ死亡したとされる人々が「惟霊講会」に居るのか。
様々な謎が断食中のガンジーの推理から一気に語られる
中盤から終盤にかけての盛り上がりは圧巻。
迷探偵とありますが、いやいや御謙遜を、名探偵ですよ。
ただし、確かにマヌケな面もあるのは否定しません(笑
しかし、しあわせの書の意味が個人的にはツボでしたね、なるほどと(笑
ところで本書にはもうひとつ、筆者ならではのある驚異の「仕掛け」が施されて
いるのですが、それを書くのはナンセンスでしょう。
この「仕掛け」はぜひ皆さんお読み頂いて、筆者の凄さを味わってください。
2019年05月04日
三毛猫ホームズの証言台
まずはAmazonさんの紹介ページから。
因縁めいたつながりのある人々が集った“高原ホテル”。法廷で決定的な証言をし
無罪をもたらした女性と結婚した千葉。大企業の社長令嬢の婿となった記憶喪失の男、辻川。
彼の出現により未来を失った安西…。奇しくもホテルに同行した片山刑事たちは、
複雑な人間閑係が巻き起こす事件に対峙する。そして、ホームズの可愛らしい後輩も登場!
国民的大人気シリーズ第51弾!
はや51作目ですか。いや本当に長寿シリーズです。
本作は「高原ホテル」が舞台となりますが、ホテルで思い出すのは
やはり「黄昏ホテル」
本書も「黄昏ホテル」同様、まさに解説文にあるように因縁めいたつながりの
ある人々が集います。
それにしても、これだけの登場人物を本当にうまく描ききるなあと感心します。
プロローグのおそらくは虚偽の証言をした森川礼子と、それを依頼した千葉克茂。
この二人の物語が次項から始まるかと思いきや、お見合い叔母さんの異名を取る
児島光枝が登場し(笑)さらには辻川寿男とその妻・友世・・・と
目まぐるしい場面展開にもかかわらず、読みづらさを感じない。さすがです。
本作ではホームズの弟子(?)パリという子猫が登場します。
どういう風貌なのかはっきり書かれていないのですが、ホームズがなにやら指導をしている
場面もあるし、かなり優秀な弟子のようです。
最後の大団円は、ご都合主義といってしまえばそれまでですが、
しかしこれがホームズや片山たちが持つ事件解決の力なのでしょう。
今回の解説で山前譲さんは、カッパノベルズ刊行時の<著者のことば>を
引用して、このシリーズのおおまかな流れを説明されています。
ところが文庫購入だとこの<著者のことば>を読めず、今回紹介されて、
改めて本シリーズの位置づけの変遷を垣間見ることができた気がします。
「推理」や「狂死曲」「怪談」「降霊騒動」といった作品群から、
「花嫁人形」「危険な火遊び」「怪談を上る」そして本作「証言台」。
山前さんも指摘されるように、本シリーズは現実社会の変遷を相当受け入れつつも、
そこにホームズ・片山姉妹・石津刑事・栗原捜査一課長といった「変わらない」
シリーズキャラクターを入れる事で、現代社会や時の世相へ常にメッセージを
送り続けているのでしょう。
赤川さんはそれを一貫して行ってきたのかもしれませんが、
やはり初期・中期と比較しても、この色合いは近年の作品群に多く見受けられる
気がします。
とはいえ、前にも書きましたが、初期・中期の作品群のテイストも読みたいのは確か(笑
先生、ぜひお願いします。
因縁めいたつながりのある人々が集った“高原ホテル”。法廷で決定的な証言をし
無罪をもたらした女性と結婚した千葉。大企業の社長令嬢の婿となった記憶喪失の男、辻川。
彼の出現により未来を失った安西…。奇しくもホテルに同行した片山刑事たちは、
複雑な人間閑係が巻き起こす事件に対峙する。そして、ホームズの可愛らしい後輩も登場!
国民的大人気シリーズ第51弾!
はや51作目ですか。いや本当に長寿シリーズです。
本作は「高原ホテル」が舞台となりますが、ホテルで思い出すのは
やはり「黄昏ホテル」
本書も「黄昏ホテル」同様、まさに解説文にあるように因縁めいたつながりの
ある人々が集います。
それにしても、これだけの登場人物を本当にうまく描ききるなあと感心します。
プロローグのおそらくは虚偽の証言をした森川礼子と、それを依頼した千葉克茂。
この二人の物語が次項から始まるかと思いきや、お見合い叔母さんの異名を取る
児島光枝が登場し(笑)さらには辻川寿男とその妻・友世・・・と
目まぐるしい場面展開にもかかわらず、読みづらさを感じない。さすがです。
本作ではホームズの弟子(?)パリという子猫が登場します。
どういう風貌なのかはっきり書かれていないのですが、ホームズがなにやら指導をしている
場面もあるし、かなり優秀な弟子のようです。
最後の大団円は、ご都合主義といってしまえばそれまでですが、
しかしこれがホームズや片山たちが持つ事件解決の力なのでしょう。
今回の解説で山前譲さんは、カッパノベルズ刊行時の<著者のことば>を
引用して、このシリーズのおおまかな流れを説明されています。
ところが文庫購入だとこの<著者のことば>を読めず、今回紹介されて、
改めて本シリーズの位置づけの変遷を垣間見ることができた気がします。
「推理」や「狂死曲」「怪談」「降霊騒動」といった作品群から、
「花嫁人形」「危険な火遊び」「怪談を上る」そして本作「証言台」。
山前さんも指摘されるように、本シリーズは現実社会の変遷を相当受け入れつつも、
そこにホームズ・片山姉妹・石津刑事・栗原捜査一課長といった「変わらない」
シリーズキャラクターを入れる事で、現代社会や時の世相へ常にメッセージを
送り続けているのでしょう。
赤川さんはそれを一貫して行ってきたのかもしれませんが、
やはり初期・中期と比較しても、この色合いは近年の作品群に多く見受けられる
気がします。
とはいえ、前にも書きましたが、初期・中期の作品群のテイストも読みたいのは確か(笑
先生、ぜひお願いします。
2019年05月02日
心霊殺人事件-安吾推理短編
まずはAmazonさんの紹介ページから。
本格推理にして本格文学。安吾ミステリが『不連続殺人事件』だけではもったいない!
同じくあの巨勢博士が活躍する「選挙殺人事件」「正午の殺人」、
元奇術師・伊勢崎九太夫がいい味を出す「心霊殺人事件」「能面の秘密」。
そして、あずかり知らぬわが涙かな―傑作「アンゴウ」…。
知的パズルの面白さも存分に発揮した全10篇。
この連休は積ん読本をどんどん読んでいこうと思っていたのですが、
ほとんど寝ているばかりで、中々進みません。
本書は連休前から読み進めていた一冊。
巨瀬博士以外にも探偵役が居たのですね。驚きました。
しかし、この伊勢崎九太夫、性格的には巨瀬博士に近いなあと感じました。
博士よりイヤミでは無いですが(笑
「アンゴウ」は傑作。暗号小説として、あるいはミステリとしてという意味でなく、
最後の余韻含め、ラストを飾るにふさわしい作品です。
安吾とかけているんでしょうね、だからわざとカタカナ表記なんでしょうか。
他では「選挙殺人事件」と「影のない犯人」の2編。
前者は、殺人事件そのものよりも、なぜ選挙に出たのかというホワイダニットの要素
がとても面白い。明かされる動機も意表を突いています。
後者は時代や世相を反映させた作品といえますが、これは推理小説なのかどうかという
問題はありそうな気がします(笑
兄妹の会話の後に書かれるラストの描写はある種傑作です。このタイトルの
意味を語ってくれています。

本格推理にして本格文学。安吾ミステリが『不連続殺人事件』だけではもったいない!
同じくあの巨勢博士が活躍する「選挙殺人事件」「正午の殺人」、
元奇術師・伊勢崎九太夫がいい味を出す「心霊殺人事件」「能面の秘密」。
そして、あずかり知らぬわが涙かな―傑作「アンゴウ」…。
知的パズルの面白さも存分に発揮した全10篇。
この連休は積ん読本をどんどん読んでいこうと思っていたのですが、
ほとんど寝ているばかりで、中々進みません。
本書は連休前から読み進めていた一冊。
巨瀬博士以外にも探偵役が居たのですね。驚きました。
しかし、この伊勢崎九太夫、性格的には巨瀬博士に近いなあと感じました。
博士よりイヤミでは無いですが(笑
「アンゴウ」は傑作。暗号小説として、あるいはミステリとしてという意味でなく、
最後の余韻含め、ラストを飾るにふさわしい作品です。
安吾とかけているんでしょうね、だからわざとカタカナ表記なんでしょうか。
他では「選挙殺人事件」と「影のない犯人」の2編。
前者は、殺人事件そのものよりも、なぜ選挙に出たのかというホワイダニットの要素
がとても面白い。明かされる動機も意表を突いています。
後者は時代や世相を反映させた作品といえますが、これは推理小説なのかどうかという
問題はありそうな気がします(笑
兄妹の会話の後に書かれるラストの描写はある種傑作です。このタイトルの
意味を語ってくれています。

心霊殺人事件: 安吾全推理短篇 (KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ)
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/03/05
- メディア: 文庫

心霊殺人事件 安吾全推理短篇 KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ (河出文庫)
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/03/06
- メディア: Kindle版