2019年06月22日

許されようとは思いません

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。
上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。
本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、
凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。
人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。

またまた久しぶりの更新です。このところ堕落した日々で、精進しなければなりません。
以下、ややネタバレ。




芦沢さんの著書は『今だけのあの子』以来2冊目。
どの物語もラストの一捻りが実にうまく、傑作短編集です。

「目撃者はいなかった」は誤発注をごまかすため、修哉が取った行動は
成功したかに見えたのですが、交通事故の目撃者となってしまい・・・
死亡した運転手の妻が修哉に対して取った行動が、
夫と同じ目二合わせることという、これ以上ない報復。
言えば自分のミスが明らかに、言わなければ放火犯に・・・どちらを選んでも
彼にとっては地獄です。
明らかになっていく

「姉のように」は、本書所収作では一番のどんでん返し作品ではないでしょうか。
最初に虐待による事件記事を載せ、最後にまた別の事件記事を載せているのですが、
物語は、実にうまくこの点がミスリードされています。
もう少し深読みすると、自分の子どもが犯罪者の姪、になってしまうこと、
さらに彼女は姉へ育児の相談などをしていたこと、この2つも
彼女が事件を犯してしまった理由にもなっているのかとも。

「絵の中の男」はある画家の一生を語る物語。
彼女が描いた絵に隠された秘密が明かされていきます。
本作のみ一人称で語られている異色作ですが、
絵が描かれていく過程、あまりに強烈でした。

表題作は最後の最後に少し救いのある物語になっています。
個人的には主人公の恋人による名推理?が印象に残りました。



許されようとは思いません (新潮文庫)

許されようとは思いません (新潮文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/05/29
  • メディア: 文庫



許されようとは思いません

許されようとは思いません

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 22:03| Comment(5) | 芦沢央 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月09日

世界推理短編傑作集5

まずはAmazonさんの紹介ページから。

珠玉の推理短編を年代順に集成し、一九六〇年の初版以来版を重ね現在に至る『世界短編傑作集』
を全面リニューアル! 最終巻となる本巻にはアリンガム「ボーダーライン事件」をはじめ、
ベントリー「好打」、コリアー「クリスマスに帰る」、アイリッシュ「爪」、
パトリック「ある殺人者の肖像」、ヘクト「十五人の殺人者たち」、ブラウン「危険な連中」、
スタウト「証拠のかわりに」など珠玉の名作を収録!


以下、ややネタバレあり。


本書がついに最終刊。
アリンガムの名探偵アルバート・キャンピオンシリーズは初読。
何年か前に短編集が刊行され、あれが結構気になっていました。
本作『ボーダーライン事件』は読んで字の如く、トリックもまさにボーダーラインという
中々に面白いです。
似たようなのが「踊る大捜査線」でもあった気がしますが、あれはものすごく意図的ですが(笑
短編集、欲しくなりました。

ベントリーの『好打』は、大胆なトリックを用いた先例とでも言うのでしょうか。
物語上ですでに振られていますが、僕も単に落雷と思ってました(笑

『爪』はおおよその予想がつくものの、このラストの余韻含め、
後世のミステリに与えた影響は大きいのではないでしょうか。
完全な解決ではないものの、真実を読者にそれとなく告げていて、それでいて
物語の登場人物は真実に行き着いたか不明であるという、簡単そうで
難しい表現だと思います。

『十五人の殺人者たち』は謎に包まれている、とある会合での出来事。
現在はこんなことすら行われず、隠蔽に走るというのはなんとも情けない話です・・・。

『危険な連中』は本書では個人的に一番オススメ。
ミステリというよりサスペンスなのですが、登場人物の、ある意味ムダな(笑)心理戦が
素晴らしい。そしてラストの締め方も皮肉が効いていて、実に面白いです。

「妖魔の森の家」はカーター・ディクスンによるHM卿の事件簿ですが、
恥ずかしながら、こちらも初読。ディスクンそのものを初読なのですね。
この事件は、かつて起きた少女の消失トリックの謎を解き明かすのが卿の役目
なのですが、現実におきた少女の「消失」をも解き明かすところはさすが。
しかし、この明かされた真相はタイトルに相応しい内容だと思います。

完結は寂しいものの、改めて現在の作家さんたちによる傑作短編集の
刊行を願いたいですね。



世界推理短編傑作集5【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集5【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 16:36| Comment(7) | 海外ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする