まずはAmazonさんの紹介ページから。
麻薬の取引現場を押さえそこねて負傷した新宿東署の刑事有馬孝信は、職場復帰後、
不気味な刑事九条一彦の下で特別任務を命じられる。九条によれば、この世には悪魔が存在し、
強い殺意を抱いた人間に一つだけ“悪魔の力”を授けるという。草木を腐らせる力、
水を宙に浮かせる力…不可思議な力と殺しはどうつながるのか?超難解、
離れ業トリックに刑事二人が挑む!
以下、ややネタバレ。
現実では実現不可能なトリックを、悪魔の力により可能にさせ、
それをミステリのトリックとして組み込んだ作品。
しかも何でもできる、ではなく、悪魔から授かる能力は1つだけ。
その能力が直接に人を殺害できる訳ではないため、その力をもって
どのように殺害したのか、いわゆるハウダニットを充分に楽しめます。
2話目ですでに悪魔自身が、悪魔の力で殺人を行っていることに気付いている人間が
居ると犯人に指摘するなど、シリーズものとして描くのではなく、変化球を付けてきている
ところもまた面白い。本来なら何編かハウダニットを続けた上で、このような変化を付ける
気もしますが、本作1作での完結(連作短編集)というのが初めから
構想としてあったということでしょうか。
最初は刑事コンビの物語として読んでましたが、悪魔に詳しい九条に、
なぜ有馬という人物が必要だったのかというのが、物語後半の核となっていきます。
そしてプロローグで描かれた場面についても。
第4話は交換殺人なのですが、悪魔から授かった能力が瞬間移動という、
もうどうにもできないだろうという能力です(笑
しかし、驚くべきはその能力をも凌駕した九条でしょう。
最終話で全ての謎が明らかになりますが、彼らの捜査は相当長い道のりです。
できたら時折二人の活躍する短編が読みたいなあ。
2019年10月29日
2019年10月22日
猫には推理がよく似合う
まずはAmazonさんの紹介ページから。
とある弁護士事務所に勤める花織は、先生に寄せられる依頼を盗み聞きしては、
“おしゃべりする猫”のスコティと噂話に花を咲かせていた。ある日、
愛らしく気高くちょっと生意気なスコティが、推理合戦を仕掛けてくる。
「もしいま先生が殺されて、金庫の中身が盗まれたら、犯人は誰だと思う?」。
金庫に入っているのは、5カラットのダイヤ、資産家の遺言書、失踪人の詫び状、
12通の不渡り手形。怪しい依頼人たちを容疑者に、
あれこれと妄想を膨らますふたり(1人と1匹)だったが、なぜか事件が本当に起きてしまい―。
現実の事件と、謎解きに興じる“しゃべる猫”の真実は?ミステリ界注目の気鋭による、
猫愛あふれる本格推理。
以下、ややネタバレ
猫による猫のための猫推理小説(笑
いやいや、それはちょっと違いますが・・・
猫とミステリについては我孫子先生の解説に詳しいですが、やはり三毛猫ホームズ。
そして仁木悦子先生の『猫は知っていた」『赤い猫』などが僕は思い浮かびました。
(動物繋がりでいえば迷犬ルパンも。)
しかし本作に登場するのは、ずばり猫が推理する。人間の言葉を話す猫<スコティ>
が登場するのです。
このスコティが考えた「猫密室」は全く解けなかった・・・(苦笑
物語は半ば引退した弁護士・田沼清吉弁護士事務所に来る依頼人とその依頼内容等を巡る
飼い猫スコティ、そして事務員・椿花織との会話が主を占めます。
(時折、上記の「猫密室」のようなスコティからの挑戦状あり)
物語の本当に終盤まで、事件らしいことは何も起こりません。
ただ、この会話では<見立て殺人>や<密室殺人>といった、
推理小説の定番的な要素についてスコティが何がおもしろいのか?と
花織に議論をふっかけるパートがあるのですが、これはミステリ好きには
中々に面白い・興味深い掛け合いです。
そしてその瞬間は唐突に訪れます、スコティと花織の推理合戦中に。
想像で話していた事件が、現実の事件へと。
物語が一気に反転するところがあまりに唐突感があり、驚きますが、
その後の(ある種)怒濤の展開が素晴らしく、後半一気に読んでしまいました。
本書大部分が実は叙述トリックが仕掛けられていることや、
依頼人たちが全員容疑者たる物語の構成や、
猫がそこそも喋るという本書の大前提を、最後に崩しながらも、
ラストでその崩した大前提の余韻を残すかのような終わり方。
とても面白かったです。
ミステリ好きだけでなく、猫好きな方にもオススメです。
とある弁護士事務所に勤める花織は、先生に寄せられる依頼を盗み聞きしては、
“おしゃべりする猫”のスコティと噂話に花を咲かせていた。ある日、
愛らしく気高くちょっと生意気なスコティが、推理合戦を仕掛けてくる。
「もしいま先生が殺されて、金庫の中身が盗まれたら、犯人は誰だと思う?」。
金庫に入っているのは、5カラットのダイヤ、資産家の遺言書、失踪人の詫び状、
12通の不渡り手形。怪しい依頼人たちを容疑者に、
あれこれと妄想を膨らますふたり(1人と1匹)だったが、なぜか事件が本当に起きてしまい―。
現実の事件と、謎解きに興じる“しゃべる猫”の真実は?ミステリ界注目の気鋭による、
猫愛あふれる本格推理。
以下、ややネタバレ
猫による猫のための猫推理小説(笑
いやいや、それはちょっと違いますが・・・
猫とミステリについては我孫子先生の解説に詳しいですが、やはり三毛猫ホームズ。
そして仁木悦子先生の『猫は知っていた」『赤い猫』などが僕は思い浮かびました。
(動物繋がりでいえば迷犬ルパンも。)
しかし本作に登場するのは、ずばり猫が推理する。人間の言葉を話す猫<スコティ>
が登場するのです。
このスコティが考えた「猫密室」は全く解けなかった・・・(苦笑
物語は半ば引退した弁護士・田沼清吉弁護士事務所に来る依頼人とその依頼内容等を巡る
飼い猫スコティ、そして事務員・椿花織との会話が主を占めます。
(時折、上記の「猫密室」のようなスコティからの挑戦状あり)
物語の本当に終盤まで、事件らしいことは何も起こりません。
ただ、この会話では<見立て殺人>や<密室殺人>といった、
推理小説の定番的な要素についてスコティが何がおもしろいのか?と
花織に議論をふっかけるパートがあるのですが、これはミステリ好きには
中々に面白い・興味深い掛け合いです。
そしてその瞬間は唐突に訪れます、スコティと花織の推理合戦中に。
想像で話していた事件が、現実の事件へと。
物語が一気に反転するところがあまりに唐突感があり、驚きますが、
その後の(ある種)怒濤の展開が素晴らしく、後半一気に読んでしまいました。
本書大部分が実は叙述トリックが仕掛けられていることや、
依頼人たちが全員容疑者たる物語の構成や、
猫がそこそも喋るという本書の大前提を、最後に崩しながらも、
ラストでその崩した大前提の余韻を残すかのような終わり方。
とても面白かったです。
ミステリ好きだけでなく、猫好きな方にもオススメです。
2019年10月16日
みやこさわぎ お蔦さんの神楽坂日記
まずはAmazonさんの紹介ページから。
高校生になった滝本望は変わらず祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。
お蔦さんと呼ばれる祖母はご近所衆から頼られる人気者だ。
その日、お蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することに。
けれど「これ以上迷惑はかけられないし」と都姐さんの表情は冴えなくて……。
神楽坂を騒がす事件をお蔦さんが痛快に解決していく! 人情と粋、
望が作る美味しい料理がたっぷり味わえる、大好評シリーズ第三弾。
以下、ややネタバレ。
前作「いつもが消えた日」をアップしたのが2016年なので、
3年ぶりになります。
望も気付けば高校生。楓との仲は進展するのか?
オススメは「百合の真雁」
常に頼りなく、どことなく不安を感じさせる叔父の泰介が、
実は結構有名な画家であることや、大半の作品では情けない姿しか
描かれない(失礼!)イメージですが、本作は中々の活躍(?)
絵画の真雁によって再燃した遺産相続問題が物語の本筋。
解決の仕方がとても素晴らしく、単に贋作と伝えるだけでなく、
そこには兄弟姉妹の仲も取り持つ、本シリーズのもつ人情味あふれる解決です。
また、なぜ贋作なのかの理由も、(芸術を生業としている人にとっては)
当たり前の感覚なのかもしれませんが、新藤省燕先生の語る話がまた良いのです。
表題作は少し重い話も入り、神楽坂の花柳界存亡にかかわる事件が起きるのですが、
最後は見事にご意見番たちの活躍もあり丸く収まります。
「四月のサンタクロース」や「三つ子花火」はいずれも家庭内、特に夫婦の問題
から端を発する物語ですが、いずれもお蔦さん(+奉介おじさん)の名推理ならぬ名裁きで
物語を大団円へと導きます。
神楽坂だからこそ残る粋や人情、ではなく、昔は町内に一人や二人、
お蔦さんのようなご意見番や仲裁役が居て、そして町内もコミュニティとして
本作の登場人物たちのように、まとまりがあったのだろうなと感じました。
特に「三つ子花火」は現代社会でも日々起こっている問題でもあり、
お蔦さんがどこにでも居てくれたらなあと、なんだか物語を離れて
色々と考えてしまいました。
本作は時間軸は望が成長していることからも少しずつ時計の針は進んでいます。
今度は彼の大学進学を巡る頃の物語になるのでしょうか。
高校生になった滝本望は変わらず祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。
お蔦さんと呼ばれる祖母はご近所衆から頼られる人気者だ。
その日、お蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することに。
けれど「これ以上迷惑はかけられないし」と都姐さんの表情は冴えなくて……。
神楽坂を騒がす事件をお蔦さんが痛快に解決していく! 人情と粋、
望が作る美味しい料理がたっぷり味わえる、大好評シリーズ第三弾。
以下、ややネタバレ。
前作「いつもが消えた日」をアップしたのが2016年なので、
3年ぶりになります。
望も気付けば高校生。楓との仲は進展するのか?
オススメは「百合の真雁」
常に頼りなく、どことなく不安を感じさせる叔父の泰介が、
実は結構有名な画家であることや、大半の作品では情けない姿しか
描かれない(失礼!)イメージですが、本作は中々の活躍(?)
絵画の真雁によって再燃した遺産相続問題が物語の本筋。
解決の仕方がとても素晴らしく、単に贋作と伝えるだけでなく、
そこには兄弟姉妹の仲も取り持つ、本シリーズのもつ人情味あふれる解決です。
また、なぜ贋作なのかの理由も、(芸術を生業としている人にとっては)
当たり前の感覚なのかもしれませんが、新藤省燕先生の語る話がまた良いのです。
表題作は少し重い話も入り、神楽坂の花柳界存亡にかかわる事件が起きるのですが、
最後は見事にご意見番たちの活躍もあり丸く収まります。
「四月のサンタクロース」や「三つ子花火」はいずれも家庭内、特に夫婦の問題
から端を発する物語ですが、いずれもお蔦さん(+奉介おじさん)の名推理ならぬ名裁きで
物語を大団円へと導きます。
神楽坂だからこそ残る粋や人情、ではなく、昔は町内に一人や二人、
お蔦さんのようなご意見番や仲裁役が居て、そして町内もコミュニティとして
本作の登場人物たちのように、まとまりがあったのだろうなと感じました。
特に「三つ子花火」は現代社会でも日々起こっている問題でもあり、
お蔦さんがどこにでも居てくれたらなあと、なんだか物語を離れて
色々と考えてしまいました。
本作は時間軸は望が成長していることからも少しずつ時計の針は進んでいます。
今度は彼の大学進学を巡る頃の物語になるのでしょうか。
2019年10月09日
泡坂妻夫引退公演 絡繰篇
まずはAmazonさんの紹介ページから。
緻密な伏線と論理展開の妙、愛すべきキャラクターなどで読者を魅了する、
ミステリ界の魔術師・泡坂妻夫。著者の生前、単行本に収録されなかった
短編小説などを収めた作品集を、二分冊にした文庫化でお届けする。
絡繰篇は、大胆不敵な盗賊・隼小僧の正体を追う「大奥の七不思議」ほか、
江戸の雲見番番頭・亜智一郎が活躍する時代ミステリシリーズ、
五節句の紋を誂えた着物にこめられた想いを読み解く「五節句」ほか、紋章上絵師たちのシリーズ、
背中に見事な彫物を持つと評判の美女を巡る「荼吉尼天」といったノンシリーズなど、17編を収めた。
なんといっても本作は雲見番頭の亜智一郎シリーズ続編が読めるのが大きいです。
時は幕末、内憂外患、さらには尊王攘夷吹き荒れる中でも、そんな世の中の動向には
我関せず、亜たちは変わらず雲見を続け、将軍側衆・鈴木阿波守正團の指示を受け、
様々な依頼をこなしていきます。
「吉備津の釜」は、御庭番御用を務める二人が、長州藩への調査で行方不明になったという、
いよいよ幕末の激動に智一郎たちが巻き込まれる?!と思いきや・・・
なんという脱力!これこそ智一郎シリーズかつ泡坂作品。
「大奥の七不思議」は私のオススメ。
干物をくわえて出て行った狸(阿波守)、そしてラストに阿波守が言う台詞。
狸が化けた姿だったのか、それとも本当の阿波守だったのか。
いや、台詞を考えれば後者なんですが、そうだとするとあまりに行動が奇妙過ぎる(笑
ホラー小説である「母神像」や、奇妙な味わいを感じる「荼吉尼天」もオススメです。
紋章上絵師のシリーズは<手妻篇>の奇術シリーズ的な位置付けでしょうか。
しかしもう新作が読めないのが本当に残念です。
絶版や入手困難な作品がまた復刊することを望みます。
緻密な伏線と論理展開の妙、愛すべきキャラクターなどで読者を魅了する、
ミステリ界の魔術師・泡坂妻夫。著者の生前、単行本に収録されなかった
短編小説などを収めた作品集を、二分冊にした文庫化でお届けする。
絡繰篇は、大胆不敵な盗賊・隼小僧の正体を追う「大奥の七不思議」ほか、
江戸の雲見番番頭・亜智一郎が活躍する時代ミステリシリーズ、
五節句の紋を誂えた着物にこめられた想いを読み解く「五節句」ほか、紋章上絵師たちのシリーズ、
背中に見事な彫物を持つと評判の美女を巡る「荼吉尼天」といったノンシリーズなど、17編を収めた。
なんといっても本作は雲見番頭の亜智一郎シリーズ続編が読めるのが大きいです。
時は幕末、内憂外患、さらには尊王攘夷吹き荒れる中でも、そんな世の中の動向には
我関せず、亜たちは変わらず雲見を続け、将軍側衆・鈴木阿波守正團の指示を受け、
様々な依頼をこなしていきます。
「吉備津の釜」は、御庭番御用を務める二人が、長州藩への調査で行方不明になったという、
いよいよ幕末の激動に智一郎たちが巻き込まれる?!と思いきや・・・
なんという脱力!これこそ智一郎シリーズかつ泡坂作品。
「大奥の七不思議」は私のオススメ。
干物をくわえて出て行った狸(阿波守)、そしてラストに阿波守が言う台詞。
狸が化けた姿だったのか、それとも本当の阿波守だったのか。
いや、台詞を考えれば後者なんですが、そうだとするとあまりに行動が奇妙過ぎる(笑
ホラー小説である「母神像」や、奇妙な味わいを感じる「荼吉尼天」もオススメです。
紋章上絵師のシリーズは<手妻篇>の奇術シリーズ的な位置付けでしょうか。
しかしもう新作が読めないのが本当に残念です。
絶版や入手困難な作品がまた復刊することを望みます。