2020年09月27日

ひとり夢見る

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女子高生ひとみの母、浅倉しのぶはかつて女優だった。人気絶頂の二十七歳で突然の引退。
その七か月後、ひとみが生まれたが、父親はいない。十七歳のある日、母にパトロンがいると知り、
ショックのあまり夜の街に飛び出した。地下通路の一角で眠り込み…
目覚めると、そこは十八年前の映画スタジオだった。監督にスカウトされ、
若き日の母と共演することに!母と娘の不思議な縁の物語。


またまた更新が少し滞りました。
本書もだいぶ前に購入したもの。
以下、ややネタバレ。





それにしても、赤川先生の文体は読みやすい。そして改めて驚き。
冒頭にある「十七年間付き合ってきた母のことだ。」なんて文章をさらりと書くんですよね。
完全に掴みでやられます。主人公がその母の娘・浅倉ひとみだとしても、中々こういう文章
書けないよなあ。

ひとみは自分の母親が突然女優業を辞め、自らが「あの浅倉しのぶの娘」と言われるのにも
嫌気が指し、演劇部(の文化祭催し)を辞退します。
さらに、母の店がいつの間にか無くなっていて、母と男の人が出てくる場面を目撃し・・・

気がつくと、彼女は18年前の過去、しかも自分が生まれた時、さらに彼女の母親が
まだ女優をしていて、引退した年。しかも母親主演の映画に突然出演することになり・・・

自分の母親の性格を改めて認識したり、母親と男を取り合うことになったり(笑)
一方で、同じ年のマチ子の「家族」の非常に辛い場面をみたり、肺がんでこのあとすぐ亡くなる
多田と出会ったり。過去ならではのエピソードもあります。

過去に戻ってしまったひとみは、自分の父親は誰なのかも一方で気にしていて、
その候補は案外と多く。ところが、この点はさすが赤川先生。
父親どころか、母親までがというドンデン返しをもってくるとは(笑

本書で一番幸せに、人生が変わったのは、担任の谷中ミネ子先生ではないでしょうか。
最後の文化祭の場面は素晴らしいの一言。


ひとり夢見る (光文社文庫)

ひとり夢見る (光文社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/06/20
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 18:59| Comment(6) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月17日

死の快走船

まずはAmazonさんの紹介ページから。

白堊館の建つ岬と、その下に広がる藍碧の海。美しい光景を乱すように、
海上を漂うヨットからは無惨な死体が発見された……堂々たる本格推理を表題に据え、
早逝の探偵作家の魅力が堪能できる新傑作選。
愛憎の末に行き着く水中の惨劇を描いた犯罪奇譚「水族館異変」、
午後三時に急行列車三等車の三両目を利用する怪しげな旅行団体をめぐる「三の字旅行会」、
相次ぐ広告気球脱走事件に隠された奸計をあばく防諜小説「空中の散歩者」など
多彩な作風が窺える十五の佳品を選り抜く。

初めて読む作家さんです。
読んでいる途中で、『とむらい機関車』を購入しなかったことを後悔しました。
戦前に書かれたもの、確かにそうですがそんな古さを感じさせない作品群。

表題作「死の快走船」は本格ミステリ。秀作でしょう。
フーダニットをど真ん中からいき、探偵が緻密な推理を重ねていきます。
犯人当てもですが、最後の動機や事件の背景もかなり凝っていて、素晴らしい。

さて、本格ミステリというのをどう定義するかという問題になりますが、
この表題作以外は、江戸川乱歩の言う「奇妙な味」に属する作品が多い印象。

「求婚広告」などは、ドイルの「赤毛組合」を彷彿とさせる作品で、
ラストもハッピーエンドというのも良いです。
しかし、求婚広告かあ。今の時代にやったらどうなるのだろうか。
「人喰い風呂」もこれまた「赤毛組合」に近いのですが、これだけは結末が分かりました。
面目躍如(笑

「正札騒動」も同系統ですが、こちらは鮮やかなラスト。
本作愁眉挙げたいのは「三の字旅行会」。これは実に良く出来ている作品で、
奇妙な案内人の語る聞くも涙語るも涙に近い、これまた実に奇妙な話。
あの場で瞬時にストーリーを思いついたとすれば天才です。

「空中の散歩者」は本格ミステリといって良いと思うのですが、
本作は時代背景が色濃く出ている作品でもあります。
よくよく考えてみると、犯人はすぐわかるのですが、ホワイダニットが
全くわからないので、上手いなあと感じました。

こういう短編集を読んでいると、幸せな気分になれますね。
いよいよ読書の秋なので、色々とまた読みたいと思います。


死の快走船 (創元推理文庫)

死の快走船 (創元推理文庫)

  • 作者: 大阪 圭吉
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫



死の快走船 (ミステリ珍本全集04)

死の快走船 (ミステリ珍本全集04)

  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2014/07/07
  • メディア: 単行本



大阪圭吉 作品全集

大阪圭吉 作品全集

  • 作者: 大阪 圭吉
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2020/07/26
  • メディア: Kindle版



銀座幽霊 (創元推理文庫)

銀座幽霊 (創元推理文庫)

  • 作者: 大阪 圭吉
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2001/10/25
  • メディア: 文庫



とむらい機関車

とむらい機関車

  • 作者: 大阪 圭吉
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/10/02
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 23:00| Comment(7) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月12日

エラリー・クイーンの冒険

まずはAmazonさんの紹介ページから。

犯罪学の講師になったエラリーが、学生たちと推理を競う「アフリカ旅商人の冒険」、
サーカスの美姫殺しを扱った「首吊りアクロバットの冒険」、
切れ味鋭いダイイングメッセージもの「ガラスの丸天井付き時計の冒険」、
『不思議の国のアリス』の登場人物に扮した人々が集う屋敷での
異様な出来事「いかれたお茶会の冒険」など、
名探偵の謎解きを満喫できる全11編の傑作が並ぶ巨匠クイーンの第一短編集。
初刊時の序文を収録した完全版。

またまた久しぶりの更新です。
ところで、実はエラリー・クイーンの著書も初読です(汗)

元々の原題が僕には分からないのでなんとも言えないのですが、
収録作品が全て「冒険」で統一されているのが、なんか良いです。

また、法月綸太郎さんを先に読んでいたので、どうしてもエラリーが綸太郎で
想像してしまいます(苦笑)
とはいえ、エラリー・クイーンは常に自信満々。本書所収のどの事件においても、
この姿勢は全く崩さないところがまた良いですね。

オススメ、非常に難しい。「見えない恋人の冒険」「チークのたばこ入れの冒険」
「双頭の犬の冒険」・・・ここに挙げただけでなく、どれも粒そろいの作品です。
意外性を突いてきている「ひげのある女の冒険」。
「ガラスの丸天井付時計の冒険」はダイイング・メッセージものの快作ですが、
それ以上に犯人が自滅した誕生日プレゼントのメッセージがお見事。
彼しか犯人たり得ないという、素晴らしい証拠品。

最初の「アフリカ旅商人の冒険」は多重解決ものですが、
ここからすでに、極めて緻密な論理を組み立てて、犯人を指摘するエラリーの姿が描かれます。

「首吊りアクロバットの冒険」は、なぜわざわざロープを凶器に選んだのか?がポイント。
この謎を丁寧に解き明かしていきます。

この作品でエラリーは「火を見るよりも明らかだったんですよ」と父親との会話で話しますが、
基本、エラリーにとって全ての事件はこれに該当しているのではないかと思わせるほど、
所収作品での、彼の推理は素晴らしい。
続編の新冒険も楽しみです。



エラリー・クイーンの冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

エラリー・クイーンの冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 文庫



エラリー・クイーンの冒険 (創元推理文庫 104-15)

エラリー・クイーンの冒険 (創元推理文庫 104-15)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/09/12
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 21:28| Comment(6) | 海外ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月01日

婚活中毒

まずはAmazonさんの紹介ページから。

崖っぷち女が紹介された運命の相手は連続殺人犯?(『理想の男』)。
街コンで出会った美女の暴走に戸惑うマニュアル男は…(『婚活マニュアル』)。
本命男を絶対に落とす“婚活ツール”の中身とは?(『リケジョの婚活』)。
息子の見合いで相手の母親に恋心を抱いた父親は…(『代理婚活』)。
運命の出会いはいのちがけ―『暗黒女子』の著者が贈るサプライズ満載の傑作ミステリー。

またまた久しぶりの更新です。
このところ読書はあまり進まず・・・


さて本書はかつて『自殺予定日』を本ブログでもご紹介した秋吉理香子さんの著書。
タイトルが面白そうだったので購入しました。
というか、実業之日本社文庫は購入率高いですね。

私自身、未婚で結婚もしてませんが、「婚活マニュアル」は読んでいて、
自分も婚活したらこんなことしそうだなと思いました(笑
大凡の筋書きは予想出来るものの、実はこのタイトルそのものが
最後のドンデン返しを表しているというのが素晴らしい。
男だけでなく、女性もある種のマニュアルを持っているという。

「理想の男」は本書所収では一番ダークな作品。
しかし、杉下はこれだけ立て続けに起きる"異常な事態”について、不思議に
思わないのか?!その苗字はたまたま、あの刑事さんと同じだけなのか!(笑

「リケジョの婚活」は第69回推理作家協会賞にノミネートされるだけあって、
タイトルそのままに物語がラストまで続き、本作白眉。
これぞまさに「リケジョ」。

最終作は解説でも述べられているのですが、夫婦のあり方というものを書いた、
まさに本書最後を飾るにふさわしい作品です。
婚活、結婚、妊活、妊娠・出産、子育て・・・・婚活はあくまでスタートでしかありません。
老いらくの恋、そして暴走かと思いきや、見事なハッピーエンドです。

秋吉先生、今度は『終活中毒』というのはどうでしょうか?



婚活中毒 (実業之日本社文庫)

婚活中毒 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 秋吉 理香子
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: Kindle版
posted by コースケ at 22:24| Comment(6) | 秋吉理香子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする