2021年02月27日

星空にパレット

まずはAmazonさんの紹介ページから。

九重高校の浩介たちが探偵部を創設させてまもなくの放課後、
黒ずくめの男が合宿費を強奪していった。あまりの足の速さに、誰もが追いつけない。
味をしめたのか数日後に、再び登場した黒ずくめの犯人は、
逃げ込んだ倉庫で他殺体として発見される――。学園ミステリ、嵐の山荘ものなど、
二転三転するフーダニットとハウダニット!鮎川哲也賞作家・安萬純一が、
本格ミステリの粋を星空のごとく詰め込んだ、全四編収録の短編集。文庫書き下ろし。



以下、ややネタバレ。






アマン先生でお馴染みの安萬純一先生によるノンシリーズ短編集。
各短編集のタイトルが非常に凝っています。

最終話「病院の人魚姫」。犯人が犯行に用いたトリックよりも、
被害者へ近づこうとした方法の方が恐ろしいですね・・・
ストーカー気質だったのか、そんな方法よりも、もっと簡単な方法があったのではないか。

「黒いアキレス」は、最初の推理は明らかに違うだろうと思いながらも、
確かにそれ以外、思いつかんなあという。
高校を舞台にした学園ミステリですが、走り方から糸口を掴むという、
中々小説では表現できない事件解決のきっかけが、少し目を惹きました。

本作所収の短編集は、筆者があとがきで述べるように、
「フーダニットとハウダニットをが密接に絡まり合っている」という点のようです。
つまり片方が分かれば、そのもう片方もわかる、そういう形式にしていると。
一方で、ノンシリーズということもあり、全て異なるキャラクター(探偵役)が配置され、
彼彼女たちへの描写はそこまでないため、個人的にどういう存在なんだ?と思った
人物も多かったです。

その最たるものが「夏の北斗七星」。
タイトルはどこかロマンティックで、「日常の謎」でも起こるのかと思わせるものですが、
全然違います。雪の密室、嵐の山荘もの、ど真ん中の本格です。
個人的には最もオススメ。
まず主人公役が、はっきり探偵と名乗っているのですが、そもそも彼らはどこへ行こうとし、
実際殺人事件などを解決したことがあるだろうか?という、実に物語とは関係ない疑問が
次々と読みながら浮かんできました(笑
叔父である床平昭治が「警察OB」と名乗ったこともあるのでしょうが、
松島弘が「探偵」だと言ったところで、普通ならば事件を任せようとはしないでしょう(笑)

それと最初に床平が披露する推理は、あるゲームの真相だったような記憶があります。
私の大好きなゲームで、PSVitaロンチで発売されたアレです(違ったかな?)。

探偵松島の推理は、知り得た情報の中で組み立てたものとしては、かなりいい線を
行っていたと思うのですが、最後に明らかになる真相は中々に衝撃です。
ただ、登場人物が全て話をしていれば、もしかしたら松島も気づくことができたのでは?
と思うと、そこが残念ですね。
まあ、へっぽこ探偵なのは確かなのかもしれません(笑)

いずれこの短編集の主人公・探偵役から、シリーズ探偵が出てくるよう、
安萬先生、お願いします!
まあ床平・松島コンビはもし出てきたとしたら、まず本作所収事件の真相から
話してもらう必要がありますが(笑


星空にパレット (創元推理文庫)

星空にパレット (創元推理文庫)

  • 作者: 安萬 純一
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/01/20
  • メディア: 文庫







posted by コースケ at 22:59| Comment(8) | 安萬純一 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月20日

キネマの天使-レンズの奥の殺人者

まずはAmazonさんの紹介ページから。

東風亜由子、32歳、気鋭の映画スクリプター、もとい、正木監督の雑用係。
強烈な個性を持つ役者やスタッフに振り回されつつ、新作映画の撮影も佳境を迎え…たところで、
スタントマンが殺された!昔は映画監督になりたかった。そう語っていた著者が、
映画への愛と知識を惜しみなく込めた、魅惑の新シリーズ第1弾!


以下、ややネタバレ。





赤川次郎先生の新シリーズです。
いやあ、すでにいくつものシリーズをお持ちであるにもかかわらず、
こうして新たな分野を開拓していくというのはすごいです。

今回の主人公は映画スクリプターという、普段あまり聞き慣れない職業です。
解説等にもあるように、赤川先生ご自身がかつて映画監督になりたかったという事から、
本作は、事件よりも、映画撮影・制作に重点が置かれているように感じます。

特に主人公の東風亜由子は、赤川作品王道の強い女性で、大半の事にも動じず、
しかもお人好し。そしてとんでもなく度胸があります。
ただ、個人的には「探偵役」ではないなあと感じました。

最後はなんか、ここ数年で表面化している芸能事務所の問題と密接に関係づけられている
結末で、大団円とはならず。実行犯は捕まりましたが、
真犯人(という言い方が妥当か微妙ですが)は特に制裁も受けていません。


ただ、亜由子と倉田刑事のコンビで行くのかと思いきや、最後にあっと驚く、
特に亜由子にとってはちょっとがっかり?する結末が、なんと2回も描かれます(笑

幽霊シリーズ、花嫁シリーズとは別のバディでいくのか、それとも
亜由子と正木悠介監督コンビで本シリーズは続くのか、続編で新たなパートナーは
見つかるのでしょうか?



キネマの天使 レンズの奥の殺人者 (講談社文庫)

キネマの天使 レンズの奥の殺人者 (講談社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 19:03| Comment(7) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月13日

犬鳴村

まずはwikiからの紹介文から。

子供の頃からこの世ならざるものが"見える"臨床心理士・森田奏。
彼女の周囲で突如、奇妙な出来事が起こり始める。

「わんこが ねえやに ふたしちゃろ」奇妙なわらべ歌を口ずさみ、不可解な死を遂げた女性。
行方不明になった兄弟、次々と起こる変死…
それらの共通点となるのは心霊スポットの【犬鳴トンネル】だった。

「私、村でみたんだよね いぬ」「いぬが にしむけば お は ひがしだけど いぬが
しろければ そりゃおもしろい」 突然死した女性が直前に残した言葉にはどんな意味なのか?

すべての真相を突き止めるべく奏は犬鳴トンネルに向かうが、
その先には決して踏み込んではならない、身の毛もよだつ驚きの真相が待ち受けていた。

以下、ネタバレあり。






元々怪談好き、ホラー好き、だけど恐がりです。
ホラーテラーや洒落怖なども良く閲覧していました。

稲川淳二さんの怪談にも登場するこの犬鳴村(怪談ではたしか犬鳴トンネル?だったかな)
過日、深夜放送ですが地上波初放送されていたので、録画して観てみました。


明菜と森田悠真は犬鳴村へ行く方法を見つけ、そこへ向かっているところ。
ブレアウイッチのような始まり方から、よくわからない集団に襲われます。

帰宅後、明菜は奇妙な唄を歌うようになり、突然自殺のような死に方。

一方、主人公で悠真の兄・奏は病院で臨床心理士として勤める毎日。
患者である圭祐を診ていますが、時折奇妙なものが見えることが・・・

明菜が亡くなり、葬式で森田家が異常なまで攻められる。
彼女の死因は肺に水がたまっていたとのこと。
山辺医師と奏たちの父親・森田晃らの謎めいた会話。
そして、兄とともに奏の弟・康太が行方不明になったことで、
晃の妻である綾乃が異常なまでに取り乱し、自宅でも奇怪な行動を取るように。

奏は様々な謎を解くために、綾乃の父である中村隼人の元を訪れます・・・

最後、奏が謎の人物・成宮健司からの要請を受けて犬鳴村を訪れ、
兄弟を救出し、さらに赤ん坊まで連れてきました。
この出来事自体は、過去に奏たちが招かれ、結果、自分の祖母を助けたことに
なっています(この出来事は兄の遺体が発見された際にさらに裏付けられます)。

上記の出来事そのものは、そこまで違和感はないのですが・・・
そもそも山野辺医師と晃の心配事というのは、妻の綾乃が犬鳴村出身であることを
知っていたことを示しますが、そもそも、どうやって知ったのでしょうか。
犬を食料としていたのが主家業であったのが犬鳴村の人々ですが、それが汚れた血なのか。

それとも、兄弟を助ける場面で示される、犬と人間を交わらせるという恐ろしい出来事が
行われていたこと(を惹起されますが)を指して、血筋のことを指しているのか。

奏の祖父の話から、自分の祖母以外にも犬鳴村から逃れた人が居るという話を聞いており、
この圭祐の母親もおそらくは犬鳴村出身であることが暗示されます。
だから、圭祐にも苦しむ村人の姿がみえる。


また、ラストシーン。奏の患者の圭祐が「ママが先生の友達によろしくと言っている」と
いう、謎の言葉の意味は何なのか。
しかし、奏の友人というのは誰なのか?まるで見当がつきません。
誰のことを指しているのか。

一方、上記の話から、もしかしたら山野辺医師も村の出身だったのかという推測も。
でなければ、彼が亡くなった理由が分からないんですよね。

この映画では犬鳴村に起きた悲劇と、その血筋の話がメインで描かれますが、
最後の奏に現れた変化は、血筋によるものなのでしょう。
であるとすると、兄や弟には何ら変化が無いのはなぜなのか。
女性だけに現れるものなんでしょうか。

とまあ、なんか色々と消化不良な映画でした。怖さというよりも匂わせの謎ばかりで、
肝心なことがまるでわかりませんでした。
次作「樹海村」でも「ナツキ」は登場するようですが、何かつながりあるんでしょうかね。

ジャパニーズホラーの復権とはいかない作品ですが、観るに値しない作品でもないです。
ただあまりに消化不良が多いので、かつてオダギリジョーさん主演の「熱海の捜査官」を
思い出してしまいました。


犬鳴村 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2020/08/05
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犬鳴村 特別限定版 (初回生産限定) [Blu-ray]

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【Amazon.co.jp限定】犬鳴村 特別限定版 (初回生産限定)(Amazon.co.jp限定特典:ブロマイド3点セット) [Blu-ray]

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posted by コースケ at 17:58| Comment(4) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月06日

誰彼 新装版

まずはAmazonさんの紹介ページから。

謎の人物から死の予告状を届けられた教祖が、その予告通りに地上80メートルにある密室から消えた!
そして4時間後には、二重生活を営んでいた教祖のマンションで首なし死体が見つかる。
死体は教祖なのか? なぜ首を奪ったのか?連続怪事の真相が解けたときの驚愕とは?

以下、ややネタバレ。





昨年刊行された『このミス』『本格ミステリ』で、大山誠一郎さんが
ある作品の解説を書かれることを近況報告で述べられおられました。
確か拙ブログでも何の本なのか、と気になりますと記しましたが、まさか『誰彼』とは!
私にとっては二重に楽しめました(本編+解説)。

法月綸太郎シリーズ、というか法月先生の作品を初めて読んだのは、
奇しくも『生首に聞いてみろ』。

ちなみに改めて見ると、まるで内容に触れていない紹介記事です(すいません)。

本書と同じ、<首無し死体>を扱った作品。そしてまさに多重推理。
悩む名探偵がどちらの作品でも描かれています。

この『生首』の単行本版では「お帰り!法月綸太郎』と帯に書かれた文字が印象的で、
これは長編に名探偵・法月綸太郎が登場したのが相当久しぶりだったということ
だったと記憶しています。

本書のキーワードは、本格推理では鉄板の、首無し死体・双子・密室。
特に双子については冒頭から読者に明かされることから、それが事件に確実に関与している
であろうことはわかるのですが、この双子というのがある意味ではミスリードでもあります。

ただ、途中で綸太郎が披露する交換トリック。教祖である甲斐辰郎と、弟にあたる安部兼等
の<二人一役>の二重生活ですが、囲っていた女性であるドゥアノが
全く気づかなかったはずはない。というか気づいていたことは彼女自身が仄めかしているんですが、
そうではなく、あくまでこの<二人一役>トリックを行っているのは双子ではなく、
兄弟なので、さすがにそこまで顔が似ているのか?区別が付くのでは?という疑問はもちました。

ただし、そこまで。その先にある、まだ「彼」は誰なのか?という、最後の真相は驚いた。
そうきたかと。登場人物一覧を見て頂ければわかるように、容疑者、実はかなり少ないです。
その中で、綸太郎は論理の海とでもいうべき場所で、ずっともがき続けています。
そして最後には見事に真相にたどり着くのです。

綸太郎のいくつもの推理と、それへの否定。さらに父親である法月警視とのディスカッションで
披露される仮定も含め、本書で披露される推理は相当な数です。
ところがそれにうんざりするどころか、なるほど!と思いつつどんどん続きを
なってしまうんです。もうイッキ読みしました。

推理に次ぐ推理。それを繰り返せば繰り返すほど、事件の真相が藪の中に隠れてしまうかの
ような難事件。そしてこのまさに本書の内容を一言で表す『誰彼』というタイトル。秀逸です。
まだ未読の方はぜひ一読をお勧めします。


誰彼 (講談社文庫)

誰彼 (講談社文庫)

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1992/09/03
  • メディア: 文庫



誰彼 新装版 (講談社文庫)

誰彼 新装版 (講談社文庫)

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/01/15
  • メディア: 文庫




posted by コースケ at 19:52| Comment(8) | 法月綸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする