2021年10月24日

私たちが星座を盗んだ理由

まずはAmazonさんの紹介ページから。

優しく、美しく、甘やかな世界が、ラストの数行で、残酷に崩壊する快感。
景色が反転し、足元が揺らぎ、別な宇宙に放り出されたかのような、痛みを伴う衝撃。
かつて、まだ私たちが世界に馴染んでいなかった頃の、無垢な感情を立ち上がらせてくれる、
ファンタジックな短編集。ミステリの醍醐味、ここにあり!


『千年図書館』を読了し、その後すぐに購入し、早速読了しました。
以下、ややネタバレ。




もの悲しさと、主人公たち三者三様、彼彼女たちのすれ違いから生まれた
表題作は、なんともやりきれませんね。

「恋煩い」は誰が恋煩いなのか、で物語が反転する見事な作品。
一見して都市伝説や噂を、恋は盲目状態のアキが信じて起こしてしまう出来事ですが、
シュンの推理で一気に違う景色になるという、構成が秀逸。

「終の童話」は、ラストをどう考えるのか?によりますが、
「女か虎か」のリドルストーリーなのかもしれません。この文章だけで判断できないのでは。

しかし、なぜ石像化した人々が壊されるのか?という謎は、予期せぬものでした。
ただ、善意から来るものとはいえ、何度も経験しているのだから、
先に状態を確認すれば良いのではないかと思いますが、それは言ってはいけないのかなあ。

「妖精の学校」は『さかさま少女』所収の「千年図書館」にあたる作品。
しかし、前作より謎は複雑かつ、ネタバレを読むとさらに暗澹たる気分になります。

これは「千年図書館」と違い、リアルタイムの話に近い内容。
子どもたちがどこからつれてこられるのか、これが一番怖いですが、
確実に国家ぐるみの計画なんでしょうね・・・

そして、大人になった時、彼彼女たちにはどういう事が待ち受けているのか、
それも気になりました。

「嘘つき紳士」はどんでん返しな作品。これもラストは驚き。
そして、殺人が明確に登場するミステリでもあります。

いや、どれも完成度が極めて高いです。本作及び『さかさま少女』、未読の方は
ぜひ読んで下さい。


私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)

  • 作者: 北山猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: Kindle版




posted by コースケ at 19:02| Comment(6) | 北山猛邦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月23日

誇り高き週末

まずはAmazonさんの紹介ページから。

莫大な財産を持つ柳原一馬、七十歳。四十年前に妻と死別して以来独身で子供もいない彼が、
突然再婚を発表する。しかもお相手は二十八歳!
それぞれの事情から彼の財産を狙っている親族たちは、
複雑な思いで週末に行われる花嫁披露パーティのため山荘に赴くが、
そこに前妻の幽霊が現れて……!? 表題作ほか、
妻の殺害を計画する夫、社内の盗聴が趣味の社長の「週末」を描く2作品を収録。

久しぶりの更新となってしまいました。

このところ、読書ではなく、「メトロイドドレッド」と「大逆転裁判」をしていて、
いや、これが面白いのです。


本書も復刊です。集英社文庫さんも徳間文庫さんに負けず劣らず復刊してくれて、
有り難いことです。

本来、平日仕事で、土日休みという形態の職種ならば、週末はうれしいものですが、
本書所収3編の主人公にとって、それは覚悟、恐怖、憂鬱と、うれしいとはかけ離れた
感情ばかりでした。

表題作は、所収作では実は変化球作品。主人公が「女を落とす」職業の武藤と、
柳原の前妻である早苗、といっても彼女は幽霊ですが。
この話、年の差婚から財産を巡るドロドロ話なのですが、職業はあまり良いとは思えない
武藤が相当な好人物なのが印象的です。
もしかしたら、早苗の幽霊をみたから変化があったのかもしれません。
しかし、早苗をみることが出来たというところも、ある意味その性格を現しているのかも。

夫であった柳原には全くその姿は見えず、さらに武藤初め誰も説明しないというのは、
優しさの表れでもあるのでしょうし、武藤とすれば、早苗との約束なのかもしれません。

さて「雨の週末」と「疑惑の週末」の2編は、殺す・殺されると立場がまるで違うにも
関わらず、どこか主人公に共通点があるんですよね。
ただし、水沼はもう少し罰を受けても良いよなあ。社員の松尾さんが引き立てるのは
素晴らしいことで、話としては、そこくらいしか実は救いがない話なのです。
俊子は恋人を殺され、洋子は殺害されそうになるも、その計画は知らず。
多田克代に至っては早々に殺害されて退場しますし。
しかし、ラストだけ読むと、非常に上手く物語がまとめられていてそこがいいです。
山崎課長の落胆ぶりも溜飲が下がりますね。


「疑惑の週末」は、盗聴器を会社や自宅に仕掛けた越谷が変わる物語。
「自分自身のやましさを。あの「声」に映していただけにすぎない」ことに気付いた
彼は、良き経営者、良き父親になっていくのだろうと(期待したい)。

ゲームの秋も読書の秋も楽しみます。


誇り高き週末 (集英社文庫)

誇り高き週末 (集英社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/09/17
  • メディア: 文庫




posted by コースケ at 20:44| Comment(7) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月03日

さかさま少女のためのピアノソナタ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

古書店にあった「絶対に弾いてはならない!」と記された謎の楽譜。その旋律をピアノで
奏でた高校生を襲う戦慄の出来事とは。TVドラマ化された表題作をはじめ、
世にも奇妙な5つの物語を収録。美しくも切ない世界が一瞬にして変わる結末、
心ざわつく余韻。これぞミステリの醍醐味。〈『千年図書館』を改題〉

以下、ややネタバレ。






全5編集録のノンシリーズミステリ短編集。
北山さんは「城」シリーズと、引きこもり探偵<音野順>シリーズを読んでいますが、
ノンシリーズは初ですね。
先に一言感想を言ってしまうと、非常に楽しめたので『私たちが星座を盗んだ理由』も
購入しました。

「見返り谷から呼ぶ声」は言い伝えを合理的に解釈するという解決方法が示されて、
(それが事実かどうかはわかりませんが)
かつ、叙述トリックも仕込まれています。結末はもの悲しいんですけどね・・・

「千年図書館」は、やはりこちらも古くからの生け贄という儀式。司書として生きていく
ペルやヴィサスの(ある種の)日常が描かれますが、ラストの結末はある程度は
想像できましたね。とはいえ、この話はこの図書館に「他に」どのような本を所蔵しているのか、
そもそも、生け贄の儀式は何がきっかけで始まったのか、なんかそんな描かれていない
ところばかりが気になりました。

「今夜の月はしましま模様?」は、異星人の地球侵略を描く物語なのですが、
主人公と異星人のやりとりで進む話に、恐ろしさより、むしろコミカルに感じますが、
やはり最後に、どんでん返しのように現れる別の異星人登場で、その雰囲気も一転します。
このアイデアはかなり見事で、そういう<異星人><生命体>か!と。

藤子・F・不二雄先生のSF短編に「考える足」というのがありましたが、あれを
思い出しました。あちらは話し合いが通じましたが、この<異星人>には通用しない、
というか、通用のさせようがない・・・恐ろしいですね。

「終末硝子」は結末が最後までわからず、個人的に本書所収昨の白眉。
いつの間にか、墓を建てる際に高い塔を建て、その上に死者を埋葬(置く)というやり方
になっていた故郷。男爵による恐ろしい行動かと思いきや・・・

いや、どの作品も楽しめます。ノンシリーズで避けていましたが、さすが北山先生。


さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/07/15
  • メディア: 文庫




posted by コースケ at 18:42| Comment(9) | 北山猛邦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする