2023年10月30日

オルゴーリェンヌ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

書物が駆逐される世界。旅を続ける英国人少年・クリスは、
検閲官に追われるユユと名乗る少女と出会う。彼女と共に追い詰められたクリスの前に、
彼を救うべく少年検閲官・エノが現れる。三人は、少女が追われる原因である宝石の形をした
『ミステリ』の結晶『小道具(ガジェット)』をいち早く回収すべく、
オルゴール職人たちが住む海墟の洋館に向かったが……。
そこで三人を待ち受けていたのは、職人たちを襲う連続不可能殺人だった! 
先に到着していたもう一人の少年検閲官・カルテの支配下に置かれた場所で、
三人は犯人を突き止めるべく、トリックの解明に挑む。著者渾身の力作!


少年検閲官シリーズ第2弾。
前作よりさらにボリュームが増し、2人目の少年検閲官も登場します。


以下、ネタバレ。



物理の北山の異名を取る作者の全力作品でした。
中でもヤガミ殺しは圧巻。
横倒しのビルで、いかに殺されたのか。
単にうえから落ちたのではなく、この世界における「書物」を
上手く使った見事なトリックです。

シグレ殺しは雪の密室。
カルテの、そもそも密室ではないという推理も中々面白いのですが、
エノの、オルゴールが燃えているところにおびき寄せる、というのは、
やはりこの世界の「ガジェット」を巧妙に使った罠で、お見事。

とここまで記載すると、要するに本書は「多重解決」ものなんですが、
もう1つ、私が連想したのは泡坂妻夫先生の『乱れからくり』。
誰が犯人なのか、というのと、本書の<クローズド・サークル>を
一気にぶち破る大仕掛けが最後にあるのです。

真犯人は生きているので、その意味では『乱れからくり』は当てはまらない
かもしれませんが、実際のところ、真犯人の仕掛けはすでに終わっているので、
実質はほぼ同じではないかと思います。

ところで、本書は単なる多重解決ではなく、本書世界観での多重解決なので、
カルテの推理がイコール真相、つまり解決と、本世界ではなるわけで、
真の解決を知るのは、クリスとエノの二人という状態。
エノはこの事実をどう考えるのか、
クリスはこの真実を物語にするのか、
いずれにせよ、次作が非常に気になります。


オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/04/28
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 00:00| Comment(5) | 北山猛邦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月29日

蝉かえる

まずはAmazonさんの紹介ページから。

全国各地を旅する昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉(えりさわせん。)。
彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた──。
16年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか? 
エリ沢が意外な真相を語る表題作など5編を収録。注目の若手実力派が贈る、
第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞した、連作ミステリ第2弾。
著者あとがき(単行本版、文庫版)=櫻田智也/解説=法月綸太郎


そのとぼけた風貌と行動、そして各編ともに「何が起こっているのか」ホワットダニットを
ホワイダニットを追求し、泡坂妻夫御大を彷彿とさせる作品集。

本作では、魞沢泉の過去に迫る、いってみれば、本格ミステリにまとわりつく
「人間が描けていない」という命題に挑んだ作品でもあります。

表題作「蝉かえる」は、かつて震災のボランティア活動をした場所で、
ある謎を抱えた糸瓜が、魞沢と鶴宮と出会う物語。
この一編は、謎の真実を知っている人物が、いかにその謎をストレートに伝えず、
かつそれでもわかってもらえるようにするには、どうすればいいかを、
短い時間の中で、考え抜いた作品。
魞沢は流石の推理をみせますが、主役はあくまで糸瓜と鶴宮。
そして、震災ボランティアや復興というものの、ある種のつらさも感じ取れる作品。

「コマチグモ」はかなり衝撃的な作品でした。
とにかく、何が起こっているのか?まるでわからないのと、
魞沢がほとんど推理をしない(それでも刑事へのヒントにはなってますが)のも。

「彼方の甲虫」は、なんというか、悲しすぎる物語ですね。
魞沢の推理が外れてほしいと思う反面、彼が死ななければならなかったのかという。
この話は、「サブサハラの蠅」で少しその後が語られます。

「ホタル計画」。本書の中で、最も魞沢という人物を描いた作品。
「コマチグモ」と悩みましたが、個人的には本作愁眉。
オダマンナ斎藤と再び出会う一編は描かれるのか、
そしてその時こそ、繭玉カイ子の「居場所」が明らかになることを願います。

「サブサハラの蠅」は、犯罪を未然に防ぐという、少し変化球的作品。
相手が魞沢にとって、ほぼ唯一の友人というのもポイントでしょう。
「ぼくのために生きてはくれませんか:という魞沢の言葉がよい。

第3弾では、はたしてどんな出来事が魞沢を待つのか、
あるいは、亜愛一郎シリーズ同様、3部作となるのか。


蝉かえる サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

蝉かえる サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/13
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 17:35| Comment(3) | 櫻田智也 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月22日

六人の嘘つきな大学生

まずはAmazonさんの紹介ページから。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。
最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、
ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、
波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。
それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、
ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。
個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。
彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

怒濤の伏線回収に驚嘆の声続出! 青春ミステリの傑作が、ついに文庫化!



少しネタバレ。



これは傑作です。
ミステリの定番である「フーダニット」、本作では誰が会議室に封筒を持ち込んだのか?
この謎が最初にあります。

次に「ホワイダニット」、「スピラリンクス」の最終選考に残った学生たちの
最後のディスカッションに挑む前まで描かれる中、時折「幕間」のように入る、
関係者へのインタビュー(聞き取り)。
これがこの「ホワイダニット」に繋がります。
犯人はなぜ、封筒を持ち込んだのか?

主人公は波多野祥吾から、嶌依織にバトンタッチされ、
小説内の「And then-それから」で、依織が真犯人を追うことに。

ところが、真犯人が明らかになってからも、物語は続きます。
それは、嶌自身への告発された「封筒」の中身は何だったのかを
嶌自身が確かめるために。

そして、もう1つが本書の愁眉なのですが、この「嘘つきな大学生」という
タイトルが、大きな仕掛けになっているんですね。

「就職試験」とインタビューで明らかにされた、4人の人柄。
「And then-それから」でさらに深掘りされた、いや波多野祥吾が深掘りした4人の人柄。
ここに大きな乖離が生じているのです。
これが非常に上手い。
「嘘つき」と、自らが嘘をついていた訳では無く、前半の地の文と後半の地の文を
合わせて浮かび上がる、彼彼女たちの人柄が、実に巧妙に描かれるんですよね。

そして嶌自身の抱えている謎とハンデも。
さすがに嶌視点なので、この謎はわかりませんでしたが、
これが明確になった時に、上記の人柄が上手く浮かび上がる構造になっていて、
いや、すごい構成ですね。

そして波多野祥吾自身の人柄も当然描かれました。
ほぼ完全に良い人的な描かれ方、見方をされてきた彼にも、その表裏があるというのを
ある種最後に書いたんだなと。
それは他の4人とそこまで違いはないんだというのを書きたかったのでは無いかなと。

トリックというか、封筒の謎について。
普通に考えると、封筒を置くことで、自分が内定を勝ち取りたいがために
行ったと、誰もが考えるはずです。
しかし、本書のこの封筒は、実はそれが目的ではないというのが巧妙なところ。
そのため、犯人を絞るのが極めて難しいのです。

単行本が出て、『このミス』等で見たときから読みたかった作品で、
しかも内容的にも余りに見事な作品で、幸せなひとときでした。



六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 20:17| Comment(1) | 浅倉秋成 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月09日

黒鍵は恋してる

まずはAmazonさんの紹介ページから。

天才ピアノ少女〈黒鍵〉との出会いが事件の始まりだった!

夏休み最後の日の夜。高校一年生の米田あかねは、ベランダで上の階から聞こえてくる
ピアノの音に耳を傾けていた。その音が止まったとき、ふと目を向かいのマンションに向けると
窓に怪しいシルエットが。女性に誰かが飛びかかったのだ! 
翌朝、上の階に住んでいる天才ピアノ少女、〈黒鍵〉こと根津真音から
殺人事件が起きたと聞かされる。その日からあかねは命を狙われることに!?


赤川ミステリの王道作品といって良いでしょう。
ただし、主人公のあかねは「黒鍵」ではなく、根津真音が「黒鍵」であるのが少し違うかも。

ミステリの骨格も王道。怪しい組織のトップも登場。
でもなんというか、近年の作品と異なり、ジェットコースターのように作品が流れていき、
大団円とまではいかずとも、幸せな結末をそれなりに迎えるんですよね。

たぶん一番吹っ飛んでるのは、あかねの母親。
塚川亜由美の母親のような発言をしますが、前者は完全に天然であることが凄い。

ホテルの<密室>トリックは中々ですが、いや、聞き込みを続ければわかったのではと
思う事もあり(苦笑)

怪しいトップの風巻が、真音のピアノの大ファンになるところなんか、
赤川先生でなければ、描けないでしょう。
最後会場に団扇までをもって部下を引き連れてくるなんて、総会屋とよく
間違えられなかったな(笑)

「黒鍵」に振り回されつつも、あかねの見事な推理。良い読書時間でした。


黒鍵は恋してる (徳間文庫)

黒鍵は恋してる (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 17:55| Comment(4) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする