2024年07月28日

楽屋の蟹ー中村雅楽と日常の謎

まずはAmazonさんの紹介ページから。

歌舞伎界の名優にして名探偵、中村雅楽が日常の謎に挑む。
江戸川乱歩に見いだされた著者による味わい深い名推理の数々。
直木賞受賞作「團十郎切腹事件」はじめ精選の11編を収録。

中村雅楽が挑む数々の日常の謎。日常の謎でも老探偵は飄々と謎を解きます。
「團十郎切腹事件」は歌舞伎役者ならではの謎解きですね。
これは中村雅楽シリーズだからこそ書けた傑作だと思います。

「グリーン車の子供」も同様。中村雅楽ではなく、隣り合わせた少女の芝居が秀逸。
この筋立てを考えた宝来屋もお見事。
解説では、本作で雅樂たちが乗車していた新幹線にまつわる話が登場するのですが、
これはかなり面白い。なるほど、食堂車か。今や懐かしい(というか私も知りませんが)
ですねえ。

「目黒の狂女」も面白い。いわゆる「奇妙な味」というタイプで、
雅樂の謎解きも鮮やかです。

唯一、雅樂が竹野の前で涙をみせた「むかしの弟子」。解説の新保博久さんも
書いているように、中村雅楽シリーズ最終作と言われても、誰もが納得する
作品ではないかと思います。

『等々力座殺人事件』と比して、中村雅楽も竹野も齢を重ねています。
竹野はいつの間にか嘱託社員的な立場に、中村雅楽もかなりの高齢に。
作者自身、第1作で雅楽を高齢にしすぎて・・・と書かれているので
(ポワロと同じような感じですね。)
相当な年齢になっているのでしょうが、そこを竹野の立場変化から
時間の経過を上手く現しています。

中村雅楽全集が手に入らない現在、本シリーズ第3作を望みます!


楽屋の蟹: 中村雅楽と日常の謎 (河出文庫)

楽屋の蟹: 中村雅楽と日常の謎 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2024/01/09
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:37| Comment(3) | 戸坂康二 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月21日

神の悪手

まずはAmazonさんの紹介ページから。

棋士を目指して13歳で奨励会に入会した岩城啓一だったが、
20歳をとうに過ぎた現在もプロ入りを果たせずにいた。
9期目となった三段リーグ最終日前日の夕刻、翌日対局する村尾が突然訪ねてくる。
今期が昇段のラストチャンスとなった村尾が啓一に告げたのは……。
夢を追うことの恍惚と苦悩、誰とも分かち合えない孤独を深く刻むミステリ5編。


将棋ミステリとは思いませんでした。
全編そうです。そして各編色々共通しています。

しかし、将棋を主軸としつつ、ミステリとしての骨格は充分に素晴らしい。
特に「弱い者」と「ミイラ」は甲乙付けがたい傑作。

前者は震災被災地に、将棋教室のボランティアを行うため訪れた北上八段と石埜女流三段。
北上もかつて「被災者」だった経験を持つ。
北上と対局したある1人の少年は、目を見張るほどの強さを魅せるが、
なぜか最終盤で悪手を指し続ける・・・そこに隠された謎とはなにか?

被災地や被災者を考える上で、将棋という遊びの重要性、そして遙か昔より
言われているプライバシーや性の問題を、こういう形でクローズアップしたのは
今までないのではないでしょうか。初手からとんでもない作品です。

後者は「詰め将棋」の問題を考える一編。園田光晴という少年からの詰め将棋の
問題に悩む常坂と、編集長の金城。この手順では詰まないのに、彼はなぜ
頑なにこの手順を変えないのか。そこに潜む謎とは。

カルト宗教の洗脳による話と、詰め将棋という本来は王将が取られるのに、
現実には実際に取られないという常識を覆す作品。
フェアリー将棋というのは初めて聞きましたね。昔将棋部だったのに(笑
自分たちの常識だけでは捉えられないものが無数あるというのを、将棋で示した傑作でしょう。

珍しいところだと「恩返し」。駒師が主人公の話です。

芦沢先生、相当に将棋を勉強・取材されたんだろうなと思います。
また名短編集が誕生しましたね。


神の悪手(新潮文庫)

神の悪手(新潮文庫)

  • 作者: 芦沢央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/05/29
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 22:17| Comment(1) | 芦沢央 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月14日

哀愁変奏曲

まずはAmazonさんの紹介ページから。

作曲家を夢みる二十五歳の石井栄志。
コンクールでは落選が続き、家にはピアノもないほど貧しかった。
と、そこに届いた本物のピアノ!
送り主である音楽事務所の片岡が訪ねてきて、
歌謡曲の編曲をして欲しいという。
生活のために引き受けた石井は、
人気歌手・進藤あゆみの曲を手がけることになり……(「ささやくピアノ」)。

人生は音楽と共にある。
哀愁漂うホラーサスペンス六篇を収録。

元々は集英社文庫から刊行されていたようで、その後徳間へ。
発売したばかりですが、一気に読んでしまいました。

いわゆる大団円やハッピーエンドとは違う、どの短編も
深い終わり方になっているというのが一番の感想です。

一番ホラー色が強いのは「シンバルの鳴る夜」
これはかなり怖い。
死んだ少年・純男がシンバルをうつ合図を待つ姿が見えた、
谷岡の恐怖はいかばりか。そしてその演奏が伝説として語り継がれていくという、
これ以上ない皮肉。

「イングリッシュホルンの嘆き」はラストが切なすぎる。
「弦の切れる日」だけが、唯一大団円的に終わるので、読んでいてほっとします。

「幻の鼓笛隊」は相当悲しい物語だけれども、こんな杜撰な工事をさせて
自分の見栄だけを重視するなんて、今でもありそうです。

「ささやくピアノ」は、まあ自業自得な面もあるけれど、
怖さと温かさが同居している作品ですね。

「ハープの影は黄昏に」が一番謎な作品かも。ホラーというより、SF。
彼女は若い時の主人公の母や叔母とともに写真に写っているので、
おそらく過去の亡くなっている女性なのだろうくらいしかわかりません。

なぜハーブを弾いているのか、どうして岐子の前に現れたのか(木戸を救うため?)
時間を戻せるのはなぜか。母や叔母とどういう関係なのか。
意図的にそのあたりを記さなかったのだと思います。
その方がSF的というか、赤川さん的です。しかし気になりました(笑

まだまだ多い未読の赤川次郎作品。これからも徳間文庫さん、お願いします!


哀愁変奏曲 (徳間文庫)

哀愁変奏曲 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2024/07/11
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 00:04| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月06日

天の川の舟乗り-名探偵音野順の事件簿

まずはAmazonさんの紹介ページから。

引きこもりがちな名探偵、今日もおずおず謎を解く。
怪盗からの犯行予告当日に起こる密室殺人、
湖の巨大生物に殺されたかのような死体……
全4編を収録した、大人気シリーズ第3の事件簿!

金塊を祭る村に怪盗マゼランを名乗る人物から届いた『祭の夜 金塊を頂く』という予告状。
金塊がなくなると観光客が来なくなると危惧した村の有力者の娘は
名探偵音野と助手の白瀬に監視を依頼する。
しかし、警戒する二人の前で起こったのは密室殺人で……
大胆なトリックと切実な動機が胸を打つ表題作など4編を収録。
引きこもりがちな名探偵が活躍する、大人気シリーズ第3弾。解説=青柳碧人


若干ネタバレあり。





超久しぶりのシリーズ続編となった、引きこもり探偵・音野順の事件簿。
最初の「人形の村」は、音野が引きこもりであることを、改めて思い出させる(?)
かのような事件。依頼人から話を聞き、事務所でその謎を解きます。
もっとも、これは多重解決モノとも実は捉える事ができて、依頼人である旗野を納得
させるだけの充分な説得力をもった推理とも言えます。

解説の青柳さんが言われるように、全編が「オカルト」なんです。
で一発目がこの作品で、かなりおどろおどろしい村に、髪の伸びる人形・・・
一方で、そもそも旗野は何を経験したのかという、ホワットダニットでもある。

表題作は最終話に繋がる作品であり、収録中最長編。かつ「物理の北山」本領発揮作。
なるほどレールか・・・島田御大のある作品を思い出しました。
また、最終話「マッシー再び」でも、同じように「物理の」が炸裂。
いずれもハウダニットの快作でしょう。
しかし、金塊が偽物だと犯人たちは気付かなかったのか?(笑

「怪盗対音野要」は、順の兄である音野要が活躍する物語。
古城を舞台に、バーンズ城の怪人と対峙します。
こちらも「物理の北山」が炸裂。カーペットのトリックはお見事。
一瞬「金田一少年の事件簿」オペラ座館殺人事件を思い出しましたが、
あのトリックとは違いました。

これを機会に、ぜひシリーズをまた続けてほしい。そしていつの日か、
海外での兄弟揃い踏みが見られるのを期待したいです。


天の川の舟乗り: 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

天の川の舟乗り: 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/02/17
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 21:44| Comment(1) | 北山猛邦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする