2024年09月29日

葉山宝石館の惨劇

まずはAmazonさんの紹介ページから。

少年だけが、全てを見ていた……

帆村財閥の異端児・建夫が葉山に設立した私設宝石博物館――収蔵品の剣・銃・斧を使い、
長女・光枝の三人の恋人候補が次々殺されていく。
「なぜ三重密室を作らねばならなかったか?」Why(理由)
を問うユニークな“密室動機講義”から導かれる、
仰天の真相とは? 昭和が終わった年/新本格勃興期、新書ミステリの雄が放った、
稚気と本格推理への愛全開の熱き挑戦状(ラブレター)。

解説 今村昌弘
イラスト やまがみ彩


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3として発売された本作。
帯に大陸書房版の著者のことばが掲載されています。
「断っておこう。これは密室それ自体で、読者に挑戦しようというものではない。その背後
 の或ることで、挑戦しようというのだ。もちろん、そのためには、やはり密室を解かなければ
 ならないという、逆説も成り立つのだが・・・。」

結構なネタバレになっているのが面白い(笑
しかも、本作の発売は1989年。『十角館の殺人』刊行が1987年。
つまり、新本格ムーヴメントが始まっていた時で、しかも「館」です。

梶先生が『十角館』を読まれたかわかりませんが、この『葉山宝石館』は
「館」とありながら、非常に良い意味で、『館』ミステリの裏切りをしています。
密室、縛られた足、藁の十字架・・・本格ないし新本格の要素を詰め込みながら、
見事なミスリードを書くとは・・・素晴らしい。

ただし、犯人の正体はある程度予想は付くのではないかと思います。
後、捜査する警察が異常に有能です(笑)

少年の日記を入れているところで、最後にもう1回どんでん返しトリックを
仕込んでいるのも、流石です。

梶先生の作品はまだまだあるのですが、徳間文庫からはひとまず終了なのかなあ。
どうせなら一気に復刊をどうかお願いします。



梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3 葉山宝石館の惨劇 (徳間文庫)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3 葉山宝石館の惨劇 (徳間文庫)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/08/08
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:26| Comment(1) | 梶龍雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月22日

くらのかみ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

行者に祟られ、座敷童子に守られているという古い屋敷に、
後継者選びのため親族一同が集められた。
この家では子どもは生まれても育たないという。

夕食時、後継ぎの資格をもつ者のお膳に毒が入れられる。
夜中に響く読経、子らを沼に誘う人魂。
相次ぐ怪異は祟りか因縁かそれとも──。

小野不由美の隠れた名作。

「ミステリーランド」第1回配本。超がつくほど、20数年ぶりの文庫化。
解説の大矢博子さんが言うように、確かに本書は「ミステリーランド」レーベルに
相応しい作品です。

かつて自分もジュブナイルを数多く読んでましたが、今はどのくらい刊行されて
いるんですかねえ。青い鳥文庫とかポプラ文庫とか、子ども向けミステリも
刊行されてるとは思いますが。
ジュブナイル版のホームズやポワロを数多く読みました。それが今のミステリ好き
に繋がっている気がします。

さて、本書は最初からクライマックスという感じで、「四人ゲーム」をした
子どもたち。いつの間にか4人から5人へ増えていた・・・
座敷童子?この淵屋家にいる神様「くらのかみ」なのか。

子どもが5人に増えたこと、大人達がそれに気付かないこと、これらは怪異として
読者にはその謎を解くことは難しい。
しかし、その後起こる「事件」は、本格ミステリばりに子どもたちが活躍します。
アリバイがない人物、時系列に書かれるノート、罠を仕掛ける・・・
とにかく子どもたちが大人顔負けの行動力と推理力を発揮します。

事件の真相は、子どもが増えたことと密接に関係していて、
そもそも、最後に座敷童子が言った言葉はどういう意味だったのか、
読む人によって、ラストはかなりあっさりと思うかもしれませんが、
あくまでジュブナイル(を主な対象)で考えれば、非常に良く出来ています。

イッキ読してしまいました。こういう作品、増えて欲しいですね。


くらのかみ (講談社文庫 む 81-10)

くらのかみ (講談社文庫 む 81-10)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/07/12
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:43| Comment(1) | 小野不由美 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月15日

五人目の告白―小林泰三ミステリ傑作選

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「僕は実はもう一つ情報源を持っている。
つまり、僕自身の知識だ。
この知識によって今までの推理はすべて覆る」

語り≒騙りがもたらす驚愕のラスト
『アリス殺し』の鬼才が技巧を凝らす6編

自分の中には凶悪な人格が眠っている──記憶にない動物殺しや対人トラブルに苦しむ青年は、
ノートを介して「敵対者」との対話を試みるが、忌まわしき存在はついに殺人にまで手を染め……
二重三重のどんでん返しが待ち受ける「獣の記憶」をはじめ、全六編の掌短編を収録。
読む者を巧みに翻弄し、独自のロジック×ゴシック世界へといざなう、
『アリス殺し』の鬼才の真骨頂がここに。解説=田中啓文

小林泰三が亡くなられて、もう4年も経つのかと。
『○○殺し』はぜひ完結させてほしかったです。残念ですね。

本書はミステリ傑作選となってますが、いつもの小林節で、グロとSFがかなり
前面に出ています。
「双生児」は、ミステリ色が強い気がしますが、そもそも真帆の感じる疑問は
双子なら、少しは思ったことがあるのかもしれません。
ある意味では、SF=少し・不思議というSFから、小林ワールドのSFに変化していく
過程が読めます。

「攫われて」が一番きつい作品ですね。世界が一気に反転するんだけど、
そこで待つのは最悪の結末・・・
愁眉をあえて挙げれば「独裁者の掟」。世界は独特なものなのに、
ミステリ的な解決がしっかりしているのが素晴らしい。

これからも小林先生の作品を読み続けていきたいと思います。


五人目の告白: 小林泰三ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

五人目の告白: 小林泰三ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/07/19
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:55| Comment(1) | 小林泰三 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月11日

神無迷路

まずはマイニンテンドーストアさんの紹介ページから。

世界と隔絶した地下の研究施設、閉鎖環境での連続殺人。神の気配もない深淵、
迷路のごとく交錯し拡がる平行世界。幻のような幸せへの扉、何処にあるでしょうか。

「人は同時に2つの扉を通り抜けることができるか?」

ジャンルはテキストアドベンチャーですが、サウンドノベルです。
しかも500円という破格の値段にもかかわらず、フルボイス。

が、問題はそこではなく、本作は今年発売30年を迎える「かまいたちの夜」リスペクト
かつオマージュ作品なのですね。
シルエットで描かれる人物、謎の地下研究所に閉じ込められる主人公たち。
そして起こる殺人事件・・・果たして真相は?

とにかく青いシルエットが、「かまいたちの夜」にしか見えません。
思い出補正もありますが、昨今珍しい、本格的なサウンドノベル。

しかし、「かまいたちの夜」と違うのは、本作が究極的には謎解きに主眼を
おいているのではないところでしょうか。SFサスペンスあるいはSFミステリ。

紹介文にある、迷路のように広がる平行世界というのがそれを表現しています。
最初にプレイすると、異常に量子力学とかブラックホールが~宇宙物理学とか、
その辺りの説明が一気になされます。

主人公はゲームを進めていくと、選べなかった選択肢のロックが外れ、
新たなフローチャートに行くことができます。
まあ、こう書くといわゆるサウンドノベルなんです。

ただ、本作は上記の科学や平行世界というのを取り入れたことで、
ある意味、サウンドノベルの核心を突いた作品になのではないかと思いました。

本来、「かまいたちの夜」ならば、ミステリ編の透とスパイ編の透は
透は同じ人物ですが、体験した事や、そもそも世界が違います。
(真理を始めとする登場人物たちは姿形は同じでも、別世界で生きるその人たち)

ところが、この「神無迷路」では、そうした枝分かれした際の記憶が
そのまま次の世界へも引き継がれているため、最終的に全ての世界の物語のエンドに
辿り着くという(説明が合っているか非常に怪しいです)。

ミステリ編の透をクリアし、スパイ編の透をしたとき、その透はミステリ編の
記憶も保持しているため、スパイ編で相当な違和感を感じる筈です。
本作はその違和感(というか作中では特異体質)を逆手に取って、
上手く物語にしているわけです。

だからこそ、最後のエンディングがあるんだろうと思います。
個人的にはなぜ幼馴染みが生きていたのかよくわかりませんでしたが・・・
(元々亡くなって亡かった?)

すでに大きくネタバレしているのであれですが、
「かまいたちの夜」リスペクト&オマージュ作品として、ミステリを期待しては
いけないところが注意ですね。
ただ、価格を考えたら、充分買いだと思います。
posted by コースケ at 22:25| Comment(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月08日

夜の蔵書家-古本屋探偵の事件簿

まずはAmazonさんの紹介ページから。

本の街・神保町で古本屋を営む須藤の元に、著名な蔵書家から三十年近く前に失踪したある人物を
探して欲しいという依頼が舞い込んだ。その人物の名は森田一郎といい、
闇市の時代に日本の文化復興に尽力するという名目で稀覯書――猥褻文書出版に携わり、
結局は検挙され有罪となったのち、姿を消したという。
左翼劇団の俳優や中国のスパイだったという噂のある謎の男を、
須藤は古書を糸口に探索に乗り出す。ロス・マクドナルドを彷彿とさせる傑作長編。
(『古本屋探偵の事件簿』分冊版)


更新が止まってました。
秋の夜長の読書とはまだまだいかず、いつまで続くこの残暑という。

『古本屋探偵登場』に続く、須藤を主人公としたシリーズ第2弾にして、長編作品。
今回は、古書の捜索ではなく、かつて稀覯書を出版していた人物。
古書を探すのとは違い、人捜し。須藤は本当の探偵となるか?

説明文にある、ロス・マクドナルドといえば、リュウ・アーチャーシリーズですね。
もちろん、サム・スペードやフィリップ・マーロウ等々、多くのハードボイルド探偵
は居ます。リュウはマーロウと並ぶハードボイルド探偵の1人と言えるでしょう。
須藤は活躍作は少ないものの、それに比肩している、と個人的には。

直接的には関係ないものの、デパートの古書店フェアに、なだれ込むマニア達。
「いまごろ良識なんて言っても遅い!」「ノンストップ!」「止めたら殺すぞ」
いやあ、いいですねえ(笑)。良識は持って欲しいけど、他のものでも似たような場面は
当然見るんだけど、当時の古本屋界隈もこんな感じだったんですかねえ。

あと、須藤の実質的な師匠である小高根閑一がいいです。
須藤への警鐘を事あるごとに述べます。「人間を追うということは、本を探すということと違う」
どこまでやる気かね?、と。

森田一郎、水死体で上がったのか、印刷工と一人二役だったのか、様々な情報を
須藤は集めていきます。そして、森田が疑われた偽札事件の謎へも知らず知らずに・・・

最後の結末はあっさりしているので、捉え方は人それぞれかもしれません。
(須藤や小高根閑一による余韻が私は欲しかったかなあという意見)

いよいよ次は『神保町の怪人』。この世界にもっと浸りたい。


夜の蔵書家: 古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)

夜の蔵書家: 古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 紀田 順一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/28
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 18:37| Comment(1) | 紀田順一郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする