2024年11月24日

神保町の怪人

まずはAmazonさんの紹介ページから。

神保町は聖地か、魔都か!?
「本集めの極意はね、殺意です。
単なる熱意だけでは到底駄目なんですよ」
怪物級の愛書家が跋扈する
本の街を舞台に贈る連作ミステリ

空前の古書ブームが到来する中、百貨店の古書販売催事で知り合った
詩集の収集家・大沢について、不穏な噂を耳にした古書愛好家の喜多。
その後大沢が現れた入札会で、稀覯書が消えるという怪事件が起き……。
古書収集の極意は「殺意」と豪語するコレクターの闇を描く「展覧会の客」ほか、
古書の交換会やパソコンによる文献整理など、
昔と今が交錯する神保町を活写した三話を収録。

どの作品も、おそらく常人では中々理解ができない、相当に深い世界の話で、
甲乙付けがたい、古本ミステリです。
あえて愁眉を言えば、「『憂鬱な愛人』事件」。
この話、主人公の喜多が表題の書(その中でも下巻)を、(積極的ではないものの)
欲していて、元々少し知り合いだった、高野なる古書収集家(本人はこう呼ばれると激昂し、
自分は歌人と言う)との、この当該書入手の顛末を描く物語。

高野の性格というか、本作品は高野という人物そのものを大きくクローズアップした作品で、
「展覧会の客」の大沢とは違う、古書収集家の(奇妙な)側面を垣間見ることができます。

最後は、高野を不倶戴天の敵と称した中島からの手紙で終わるのですが、
高野に少々痛手を負わせるという結末になってます。

とはいえ、この痛手を楽しむ作品ではなく、本作品全体に流れる、高野のあらゆる行動が
読み応え充分だと思います。
Mさんによる「路傍の石」エピソードもそうですが、強烈な人物なのか、神経質な人なのか、
本当に読んでいて、不思議な感覚に囚われました。

「電網恢々事件」は殺人事件も起こり、窃盗事件との関係など、ミステリとして
楽しめるのですが、古書ミステリとしてみた場合、「『憂鬱な~」には叶わず。

今やネットでほとんど古本も手に入る時代に、こうした古き良き(良いのかどうか?)
神保町の多くの奇談が読めるのは、幸せでした。
もちろん、現実では今も似たような事は多少起こっているのかも知れません。


神保町の怪人 (創元推理文庫)

神保町の怪人 (創元推理文庫)

  • 作者: 紀田 順一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/10/19
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 17:21| Comment(1) | 紀田順一郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月23日

孤島の来訪者

まずはAmazonさんの紹介ページから。

論理を武器に道を開くことの力強さが、
方丈作品には備わっている。若林踏(解説より)

復讐を企てる竜泉佑樹の前に現れる、標的の死体――
孤島で起こる人智を超えた不可能殺人に
推理で立ち向かう、異形の本格ミステリ。
〈竜泉家の一族〉三部作 第二弾

謀殺された幼馴染みの復讐のため、テレビ局のADとなった竜泉佑樹。
ターゲットの3名を含む9名で曰くつき無人島のロケに参加した佑樹だったが、
初日からターゲットの一人が殺されているのを発見する。自らが手を下すはずが、
一体何者の仕業なのか? しかも、その犯行には人ではない何かが絡み、
佑樹たちの中に紛れ込んでしまった!? 疑心暗鬼の中、またしても佑樹のターゲットが殺害され……。『時空旅行者の砂時計』で話題を浚った著者が贈る〈竜泉家の一族〉三部作第二弾、
予測不能な孤島本格ミステリ長編。

以下、ややネタバレあり。




竜泉寺家の一族シリーズ第2弾。
名前だけではありますが、前作主人公・加茂冬馬も登場します。
で、この加茂冬馬の書いたルポが、幽世島で起きた不可思議な出来事を
ある意味言い当てていたというのが、終盤で真犯人から少し触れられるのが嬉しいです(笑


本作は特殊設定ミステリ+吹雪の山荘ものになっています。
最も、特殊設定自体は、かなり早い段階で、本作主人公の竜泉佑樹がその特徴を看破
していくので、そこまで違和感はありません。
むしろ、この設定の上で、ここまでの館ミステリを創り上げた作者に敬意を表します。

私が特に秀逸だと感じたのは、小火を起こしてからの、焼死体のトリックです。
これは遺体を誤認させるトリックなのですが、登場人物が指摘しているとおり、
実人数との関係では、最初の推理に行き着くのは当然の帰結なのですが、
犯人のある特性を知った後では、大きく変わることになります。
また、個人的には「首の無い死体」の亜種バージョンでもあるのでは?と思いました。
遺体の処理が一番大変なのだというのが、かつて『金田一少年の事件簿』で語られた
ことがありますが、本作の遺体誤認トリックは、(その前の誤認含め)
遺体が誰なのか、だけで無く、その数含め、来訪者達を混乱させており、
本作の核ともいうべきトリックだと思います。

最後の船での会話は、さらなるあとがき、的な感じで、それはそれで楽しめました。
しかし、生き残った人たちは口裏合わせをしたようですが、果たして上手くいくのか(笑

いよいよ、次が竜泉寺一族ラストとなります。


孤島の来訪者 〈竜泉家の一族〉シリーズ (創元推理文庫)

孤島の来訪者 〈竜泉家の一族〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 方丈 貴恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/01/11
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 23:44| Comment(1) | 方丈貴恵 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月17日

五つの季節に探偵は

まずはAmazonさんの紹介ページから。

第75回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞!精緻でビターな連作短編集

私立探偵として活動するみどり。“人の本性を暴かずにはいられない”彼女は、
いくつもの事件と対峙する――。第75回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞!
精緻でビターなミステリ連作短編集。

初めて読む作家さんです。
見事な連作短編集になっています。すでに続編も刊行されました。

個人的なオススメは「ゴーストの雫」。
榊原みどり、から、森田みどり、へ結婚して復職して、
自身の父親がしていた探偵事務所に入所し、本当に探偵となったみどり。
リベンジポルノをうけたという女性の兄からの依頼。
みどりと須見要は、その犯人をみつけようと調査を開始するが・・・

この話、みどりが出身大学を問われるところが結構面白いんですよね、
「私は京都大学ですが・・・」と言われ、困惑する依頼者の家族。
ステレオタイプの考えしかできない方々なんでしょうね。

意外な真相がみえるのが「解錠の音が」。
自転車のワイヤーロックが次々と壊される事件から、みどりが
行き着いた真相は予想だにしないもので、これは凄かった。
ラストも、そこまでするか!というラストです。
日本の探偵がすることではないですね。

「スケーターズ・ワルツ」は、語り手の話す登場人物のトリックはともかく、
その先の、みどりが辿り着いた真相がお見事。
精神的な自傷を繰り返していると評された、土屋尚子は新たな一歩を踏み出せる
ことでしょう。

良質な短編集をお求めの方はぜひ。



五つの季節に探偵は (角川文庫)

五つの季節に探偵は (角川文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2024/08/23
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 19:30| Comment(1) | 逸木裕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月09日

眠れない町

まずはAmazonさんの紹介ページから。

眠りたいのに――。〈睡眠〉に仕掛けられた恐るべき陰謀とは? 
迫真のサスペンス・ミステリー! 
郊外のマンモス団地に住むフリーライター兼編集者の矢吹徹治。
徹夜仕事が日常の多忙な毎日を送っている。矢吹はある朝、近所に住む会社員・城山が
駅で急死する場に立ち会ってしまう。城山は、極度の不眠症に悩んでいたらしい。
それを発端に矢吹の周囲で不可解な事件が続発する。平凡な町に何が起こっているのか? 
〈睡眠〉に仕掛けられた恐るべき陰謀とは!?

いくらでも拡げられそうなテーマ&連作短編に向いているところを、
さらりと長編にしてしまうのが、赤川次郎先生ならではかもしれません。

本書も非常に不思議な始まりで、一連の事象がどう繋がるのか、とても面白く
読めるのですが・・・
結末がねえ、まあ悪く言えば安易で、よく言えば赤川先生らしい落としどころ。

矢吹夫妻の人のよさは素晴らしいし、相変わらず人物描写は面白い。
それだけに、「眠れない」をテーマにした、短編集ないし連作短編集の方が
面白かったように思えます。

ところで、本書は元々徳間文庫刊行で、今回講談社文庫から発売。
いつもと逆パターンです。


posted by コースケ at 21:27| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月03日

透明な螺旋

まずはAmazonさんの紹介ページから。

誰も知らなかった湯川(ガリレオ)の秘密

南房総沖に、男の銃殺死体が浮かんだ。同時に、男の行方不明者届を出していた
同居人の女が行方をくらませた。捜査にあたった草薙と内海薫はその過程で、
思いがけず湯川学の名前に行きつく。草薙はすぐさま湯川の元を訪れたが、
彼はそこ、横須賀のマンションで意外な生活を送っていた――。
巻末に短篇「重命る(かさなる)」を特別収録。


『探偵ガリレオ』文庫版を読んでから、もうずいぶんと時が経ったのだなと
感じました。
解説を佐野史郎さんが書かれていて、それは東野圭吾さんが、湯川学を描く際の
イメージが佐野史郎さんだったから(とおぼろげながら)覚えてます。
(佐野史郎さんの学者というと、「沙粧妙子最後の事件」が強烈です)

いつの間にか草薙も係長(警部)に出世.。湯川も教授。確実に時は流れているのです。
本作はガリレオシリーズの時の流れを感じさせる作品。
初期のいわば湯川の専門分野が事件に関係しているということはありません。
内海や草薙との会話で、過去の事件が度々触れられるのは、うれしくもあり、さびしくもあり。

何かを隠す湯川と、それを詰める草薙。立場変われど、二人の関係も相変わらずです。
明かされる真相は、おおよそ見当がつくものの、本作の主眼はそこにはないのでしょう。

特別収録された「重命る」の方が、よほど初期作品を彷彿とさせますね。
もちろん何かおおがかりな実験したりはないのですが、
被害者はなぜ溺死体で発見されたのか、川に落としたのは誰か、という謎は
かなり魅力的で面白く読めました。
短編集『ガリレオ9』が刊行されることを祈りつつ。


透明な螺旋 (文春文庫 ひ 13-14)

透明な螺旋 (文春文庫 ひ 13-14)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2024/09/04
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 23:03| Comment(1) | 東野圭吾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月01日

俺ではない炎上

まずはAmazonさんの紹介ページから。

外回り中の営業部長・山縣泰介に緊急の電話が入った。「とにかくすぐ戻れ!」
どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、
写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。
SNSで犯行を自慢していたそうだが、そのアカウントが誤認されてしまったようだ。
誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していた泰介だが、
成りすましは実に巧妙で誰一人として無実を信じてくれない。
会社も、友人も、家族でさえも……。
ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、
誰も彼もに追いかけられる中、泰介は必死の逃亡を続ける。

またまた久しぶりの更新です。

本作、まさに現代社会を見事に表現した、社会派小説といって
いいと思います。
SNSにより、誰もがいつでもどこでも、様々な情報に触れることができ、
また発信することができ、そして気付かないうちに犯罪にも巻き込まれる。
そんなことはあり得ないとは、もはや言えない世の中なのです。

山縣泰介を襲った悲劇は、誰にでも起こりうる日常に、今やなっているのだと、
改めて本書を読んで感じました。

インターネット普及の始まりからADSLくらいの頃には
ネットリテラシーなんて言葉もありました。
しかし、SNS、スマホの登場で、もはや歯止めが効く状況ではなくなったんでしょうね。
いやはや恐ろしい。

本書でも一気にSNSが拡散する描写、私人逮捕系Youtuber、さらには
泰介自身が知らなかった(というより無意識にしていた)自分の行い、
さらにはそれを通じた家族との接し方等々、様々なものが、ほんの数日(2日間くらい?)
で一気に起こります。

泰介パートの話は、特に逃亡劇が始まってからは、映画「逃亡者」を
思い出しました。私人逮捕系Youtuberからの逃亡は実にお見事。
ショールームまでの逃亡劇はとにかく見逃せ、いやいや読み逃せません。

最初に登場するシーケンの青江さん、この人は鋭い!
書き込みの癖から、泰介が犯人で無いと信じ、車まで貸すという。
泰介が彼にしてきた事を抜きに、まだこういう人も居るんだと、少し安心
させてくれる場面でもあります。

で、本書にはある叙述トリックが仕掛けられています。
「からにえなくさ」、セザキタクヤ、一体誰が、泰介の名前でアカウントを作成し、
殺人現場をアップしているのか?

個人的に一番のツボは、泰介の容疑が晴れて、会社へ出勤したとき。
20代の若手たちの言葉。
「山縣部長が移動された距離、今朝のニュースで報じられてました。びっくりしました。
どこか気合いや根性という言葉を馬鹿にしていた自分が今では恥ずかしいです。本当に
凄い人(後略)」

これ、前時代的な泰介の態度を、今回の逃げた距離(逃げ方含めてかも)で、
本人は本当に凄い人なんだと、思い直した場面なんですが、
泰介からみて、これが褒められているとは捉えられんだろう(笑)
客観的にみても、警察とかの目をかいくぐって、そんな逃げたの!?
あの人本当にスゲー!、という風にしか読めませんでした(笑)

ある意味、あれだけの冤罪・炎上に巻き込まれるより、逃げた距離で
見直すという、今の若者の、何というか、そこに感心?というのを描いたのかと、
ある種の風刺なんではないかと思いました。

当然ながらこの時の泰介は、自分のこれまでの行いを恥じているので、
この言葉なんて耳には入ってこずでしたが、いやいや、何言っているんだと。

ネット上の手のひら返しはともかく、リアルな人間関係の人たちの手のひら返しは
どう感じるんだろうかと、この時の泰介にはそんなことはもう関係ないんでしょうが、
実際どう思ったんだろうな・・・。

現代社会の抱える問題に見事に切り込みつつ、しっかり本格ミステリでもある作品。
流石です。


俺ではない炎上

俺ではない炎上

  • 作者: 浅倉秋成
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/05/19
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 00:38| Comment(1) | 浅倉秋成 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする