原書房・ミステリーリーグからの出版でしたが、
文庫は文春文庫から。
解説の千街晶之さんが、オールタイム・ベスト選出があれば、
本作をまず挙げたいと書かれていますが、
千街さんがそこまで言うのもすごい。
全5編からなる短編集で、その事件は1937年から2001年までと幅広いのですが、
この各話の時代設定にももちろん意味があります。
どの時代に起きた事件にも、
必ず「同じ」風体の「密室蒐集家」が登場します。
この時系列に焦点を当てた面からオススメを考えると、「柳の園」と「理由ありの密室」2編。
前者の主人公・鮎田千鶴が再び登場し、蒐集家との邂逅がとても印象的です。
すでに「柳の園」事件から50年ほど経過しているのに、蒐集家の風貌は全く変わらず、
そして、彼は彼女のことも、その事件も記憶している。
千鶴にとって、これほど嬉しいことはなかったでしょう。
「理由ありの~」では密室の謎そのものではなく、なぜ密室が作られたのか?という謎に
まで彼が登場するという、作品群の中では変化球的な作品で、
それもおもしろい。
彼は言います。「密室に関する謎がある限り、私は現れます。」と。
つまり、本作はどのようにこの密室が作られたのか、を解くのではなく、
なぜ作ったのかを解き、そして本当の本事件のキーワードは
ダイイングメッセージにあるのです。
そして本作の各事件の特徴は、蒐集家による犯人当てです。
これが唐突で、かつ登場人物がこれだけ少ない中で、良くこれほど
意表を突く犯人は素晴らしい。
「少年と少女の密室」は、密室のトリックではなく、ある種のミスリードと
意外すぎる犯人の組み合わせの2点で、個人的には本作愁眉ですね。
本書のようなミステリを読めて、実に良かった。
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