学校に来なくなった「名探偵」の葛城に会うため、僕はY村の青海館を訪れた。
政治家の父と学者の母、弁護士にモデル。
名士ばかりの葛城の家族に明るく歓待され夜を迎えるが、
激しい雨が降り続くなか、連続殺人の幕が上がる。
刻々とせまる洪水、増える死体、過去に囚われたままの名探偵、それでも――夜は明ける。
新鋭の最高到達地点はここに、精美にして極上の本格ミステリ。
以下、ネタバレ注意。
最初に極めてどうでもよいことから。
前作『紅蓮館』が火、今作『蒼海館』が水。想像は出来ましたが、
B'zさんの『FIREBALL』からの『Calling』のPVを思い出しました(笑)
葛城輝義が不登校になったのは、前作で探偵とは何か?を突きつけられてしまったため。
それをどうにかしたいため、「ワトソン役」たる田所は、友人の三谷とともに、
葛城家の本宅・蒼海館を訪れることに。
この葛城家、変わってますよね。それぞれの関係性は最後の方で、輝義から
語られたりしますけど、そもそも息子が凄惨なやり口で死んだ(殺された)のに、
父である健治朗、母である璃々江の動揺しなさっぷりはすごい。
健治朗は政治家かつ置かれている状況とはいえ、この両親はすごい。
そして葛城一族の団結さもまたすごいんですよね、即座にそうした行動に移れるという。
葛城の謎解きの際には、父親に対してはすこまで深く説明されていないし、
(というか母親も。姉はあるエピソードがありますけど)
家族関係という点では、他の多くの名探偵同様、よく分からない点が多いですね。
本作のテーマは前作が山火事による火災で物理的に館から脱出不可能となる極限状態を、
殺人事件の解決も含めて、それを解決するか、でした。
本作は、超大型台風接近に伴う水害、浸水でどう助かるかという極限状態と、
殺人事件の解決という、まあ火と水の違いですが、その解決方法が大きく違うのが特徴。
これは葛城が名探偵はヒーローであるということを本書内で悟り、その信念に基づいて
行動し、全員を助けるという結果に繋がります。
このヒーローって箇所は何度も登場するのですが、これがかなり読んでいてイタい・・・
しかし、本作最大のテーマは、やはり「顔の無い死体」だと思いました。
横溝正史先生の三大トリックの1つと言わしめ、紀元前からあると江戸川乱歩先生が
指摘する程、超有名なトリック。
本作で登場した時、ミステリ好きの方ならば、まずこの死体が葛城正ではなく、
おそらくは黒田ではないかと思うのではないかと。
で、この仮説が思い浮かぶと、真犯人までたどり着いてしまうんですよね。
真犯人の狡猾さは、田所への心理的トリックなど、非常にずる賢く、極めて頭が良いのが
わかるのですが、
一方で、動機という面でみると、今この時行うことなのか??という疑問だらけ。
前作はある意味泥棒なのでわかりやすいのですが、本作はそうではなく、
正当なる遺産にも当たるわけで。正直に家族に話せばなあと勝手に思いました。
むろん黒田の立場を考えると、健治朗が相当額を分け与えそうな気もしますが、
(だからこそ黒田を仲間に引き入れたのでしょうが)
それを引いても、ちょっと先走りすぎた感が。
真犯人と黒田のはこう上手くいくかどうか、結構隙が多そうです。
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