外回り中の営業部長・山縣泰介に緊急の電話が入った。「とにかくすぐ戻れ!」
どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、
写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。
SNSで犯行を自慢していたそうだが、そのアカウントが誤認されてしまったようだ。
誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していた泰介だが、
成りすましは実に巧妙で誰一人として無実を信じてくれない。
会社も、友人も、家族でさえも……。
ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、
誰も彼もに追いかけられる中、泰介は必死の逃亡を続ける。
またまた久しぶりの更新です。
本作、まさに現代社会を見事に表現した、社会派小説といって
いいと思います。
SNSにより、誰もがいつでもどこでも、様々な情報に触れることができ、
また発信することができ、そして気付かないうちに犯罪にも巻き込まれる。
そんなことはあり得ないとは、もはや言えない世の中なのです。
山縣泰介を襲った悲劇は、誰にでも起こりうる日常に、今やなっているのだと、
改めて本書を読んで感じました。
インターネット普及の始まりからADSLくらいの頃には
ネットリテラシーなんて言葉もありました。
しかし、SNS、スマホの登場で、もはや歯止めが効く状況ではなくなったんでしょうね。
いやはや恐ろしい。
本書でも一気にSNSが拡散する描写、私人逮捕系Youtuber、さらには
泰介自身が知らなかった(というより無意識にしていた)自分の行い、
さらにはそれを通じた家族との接し方等々、様々なものが、ほんの数日(2日間くらい?)
で一気に起こります。
泰介パートの話は、特に逃亡劇が始まってからは、映画「逃亡者」を
思い出しました。私人逮捕系Youtuberからの逃亡は実にお見事。
ショールームまでの逃亡劇はとにかく見逃せ、いやいや読み逃せません。
最初に登場するシーケンの青江さん、この人は鋭い!
書き込みの癖から、泰介が犯人で無いと信じ、車まで貸すという。
泰介が彼にしてきた事を抜きに、まだこういう人も居るんだと、少し安心
させてくれる場面でもあります。
で、本書にはある叙述トリックが仕掛けられています。
「からにえなくさ」、セザキタクヤ、一体誰が、泰介の名前でアカウントを作成し、
殺人現場をアップしているのか?
個人的に一番のツボは、泰介の容疑が晴れて、会社へ出勤したとき。
20代の若手たちの言葉。
「山縣部長が移動された距離、今朝のニュースで報じられてました。びっくりしました。
どこか気合いや根性という言葉を馬鹿にしていた自分が今では恥ずかしいです。本当に
凄い人(後略)」
これ、前時代的な泰介の態度を、今回の逃げた距離(逃げ方含めてかも)で、
本人は本当に凄い人なんだと、思い直した場面なんですが、
泰介からみて、これが褒められているとは捉えられんだろう(笑)
客観的にみても、警察とかの目をかいくぐって、そんな逃げたの!?
あの人本当にスゲー!、という風にしか読めませんでした(笑)
ある意味、あれだけの冤罪・炎上に巻き込まれるより、逃げた距離で
見直すという、今の若者の、何というか、そこに感心?というのを描いたのかと、
ある種の風刺なんではないかと思いました。
当然ながらこの時の泰介は、自分のこれまでの行いを恥じているので、
この言葉なんて耳には入ってこずでしたが、いやいや、何言っているんだと。
ネット上の手のひら返しはともかく、リアルな人間関係の人たちの手のひら返しは
どう感じるんだろうかと、この時の泰介にはそんなことはもう関係ないんでしょうが、
実際どう思ったんだろうな・・・。
現代社会の抱える問題に見事に切り込みつつ、しっかり本格ミステリでもある作品。
流石です。
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