神保町は聖地か、魔都か!?
「本集めの極意はね、殺意です。
単なる熱意だけでは到底駄目なんですよ」
怪物級の愛書家が跋扈する
本の街を舞台に贈る連作ミステリ
空前の古書ブームが到来する中、百貨店の古書販売催事で知り合った
詩集の収集家・大沢について、不穏な噂を耳にした古書愛好家の喜多。
その後大沢が現れた入札会で、稀覯書が消えるという怪事件が起き……。
古書収集の極意は「殺意」と豪語するコレクターの闇を描く「展覧会の客」ほか、
古書の交換会やパソコンによる文献整理など、
昔と今が交錯する神保町を活写した三話を収録。
どの作品も、おそらく常人では中々理解ができない、相当に深い世界の話で、
甲乙付けがたい、古本ミステリです。
あえて愁眉を言えば、「『憂鬱な愛人』事件」。
この話、主人公の喜多が表題の書(その中でも下巻)を、(積極的ではないものの)
欲していて、元々少し知り合いだった、高野なる古書収集家(本人はこう呼ばれると激昂し、
自分は歌人と言う)との、この当該書入手の顛末を描く物語。
高野の性格というか、本作品は高野という人物そのものを大きくクローズアップした作品で、
「展覧会の客」の大沢とは違う、古書収集家の(奇妙な)側面を垣間見ることができます。
最後は、高野を不倶戴天の敵と称した中島からの手紙で終わるのですが、
高野に少々痛手を負わせるという結末になってます。
とはいえ、この痛手を楽しむ作品ではなく、本作品全体に流れる、高野のあらゆる行動が
読み応え充分だと思います。
Mさんによる「路傍の石」エピソードもそうですが、強烈な人物なのか、神経質な人なのか、
本当に読んでいて、不思議な感覚に囚われました。
「電網恢々事件」は殺人事件も起こり、窃盗事件との関係など、ミステリとして
楽しめるのですが、古書ミステリとしてみた場合、「『憂鬱な~」には叶わず。
今やネットでほとんど古本も手に入る時代に、こうした古き良き(良いのかどうか?)
神保町の多くの奇談が読めるのは、幸せでした。
もちろん、現実では今も似たような事は多少起こっているのかも知れません。
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