『細雪』×『華麗なる一族』×ミステリ!
「女であっても、私はすべてを手に入れたい」
富豪一家に拾われた娘のたったひとりの闘いが始まる。
横濱で知らぬ者なき富豪一族、檜垣澤家。当主の妾だった母を亡くし、高木かな子はこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様。
互いに美を競い合う三姉妹。檜垣澤は女系が治めていた。そしてある夜、婿養子が不審な死を遂げる。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。
陰謀渦巻く館でその才を開花させたかな子が辿り着いた真実とは──。
小説の醍醐味、その全てが注ぎこまれた、傑作長篇ミステリ。【解説=千街晶之】
というわけで、以下若干のネタバレあり。
『このミス』でい第3位に輝いた、新潮文庫書き下ろし作品。
書き下ろしミステリ、と書くべきなのでしょうが、中々難しい。
当然ながら『本格ミステリ・ベスト10』にはランクインしていません。
となると、『このミス』は何を評価して、このランキングなのか。
『このミス』のMY BEST 6でも結構取り上げられており、大河小説と評している方や、
重厚な物語の中に様々な伏線を張り巡らせた、まぎれもなくミステリとの評。
檜垣澤という女系一族の中の、妾腹の子であった高木かな子が、引き取られ、
どう生きていくのか、そして成長するにつれ、いかに自分の立場に見合ったものを手に入れるか、
子どもとは思えない行動と洞察力で、明治から大正を生き抜く物語。
女系とあえて書きましたが、これもミスリードですよね。
「ハル様」なる祟りをもたらす存在、
何もかも見通す、女刀自・スヱ。
自分をおもちゃのようにしていた、珠代や雪江、彼女たちが嫁いでしまうシーンは必読ですね。
かな子の人間味というか、なんだかんだ言っても、ずっと暮らしていたことへの思いがあったのでしょう。
これはラストの、まさに「炎上」の時にも見られます。それも感情が抑えられない程に。
花も自分のことをよく考えてくれていた。花なりに。
そんな感謝をするかな子の成長まで読めるのが良いです。
一番謎のような存在で描かれるのは西原でしょう。
かな子は油断ならない相手と警戒しつつ、最後の面会で感じたものは男女のそれなのか、いや上手い描き方です。
明治から大正末年までを描く本作。
かな子が唯一予想だにしなかった人が、放火&殺人事件の犯人。
でもこれは、スヱも噛んでいるわけで、その先、そのままの状態がいいとは誰も思っていなかったはずなので、
スヱは最後どうするつもりだったのだろうか。
大正末まで描かれれると記しましたが、最後に起こるのは関東大震災です。
この災害で、檜垣澤家はほとんど亡くなってしまい、
かな子は改めて、自分が求めていた立場に立つのですが、一方で、とてつもない後悔のようなものにも襲われます。
でも彼女にはまだ頼れる人が最後に現れましたし、持ち前の性格で立て直すでしょう。
解説の千街さんが、京極夏彦先生の『絡新婦の理』の一節を挙げているのは流石。
そう、本作確かに共通点が非常に多い。しかし、『絡新婦』と違うのは、とあとはぜひ読んで楽しんでください。

檜垣澤家の炎上(新潮文庫) - 永嶋恵美
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