まずはAmazonさんの紹介ページから。
江神二郎、火村英生に続く、異才の名探偵の事件簿、待望の第2弾!
年齢不詳の探偵・濱地健三郎には、鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。
新宿にある彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の
強面刑事も秘かに足を運ぶほどだ。助手の志摩ユリエは、得技を活かして、
探偵が視たモノの特徴を絵に描きとめていく―。郊外で猫と2人暮らしをしていた姉の失踪の謎と、
弟が見た奇妙な光景が意外な形でつながる(「姉は何処」)。資産家が溺死した事件の犯人は、
若き妻か、懐具合が悪い弟か?人間の哀しい性が炙り出される(「浴槽の花婿」)など、
驚きと謀みに満ちた7篇を収録。ミステリの名手が、満を持して生み出した名探偵。
待望のシリーズ、第2弾!
江神二郎、火村英生に続く、というところに違和感を持ってしまいました(苦笑
(作品と関係無く、すいません。)
ソラもいれば、地蔵坊(笑)も居ます。
とはいえ、火村英生シリーズから派生して、こうして探偵役が登場するというのは
これまでには確かに無かったですね。
島田荘司先生の、犬坊里美とか意識してたりとかあるんでしょうか。
本作所収で最もホラーなのは「それは叫ぶ」
ホラー小説はあまり読んだことが無いのですが、基本的には「論理じかげの奇談」でも、
合理的解釈も成り立たないものが、ある意味一番怖いのではないかと思います。
なので、最も恐ろしいのは、こうした正体不明の、濱地のいう「幽霊の屑」ではなかろうか。
解説にもあるように、本作はホラー小説ながら、探偵小説でもあるんですよね。
濱地の持つ不思議な能力のみならず、探偵能力もしっかりと発揮されているんですが、
上記の作品のみは、全くそんなことは無いので、探偵小説として考えた場合、
極めて異質な作品ですが、心霊探偵シリーズとしてみると、ついに来たとも思えます。
「ホームに佇む」もやや似た印象のある作品です。
依頼人の吉竹と、怪奇を結びつける「合理的」理由は無く、彼が「視えた」から。
実際そのくらいの理由なんでしょうね。よく視えても、視線を合わせるなとか
聞いたりします。
そこをいくと、「お家がだんだん遠くなる」「ミステリー研究会の幽霊」は
しっかり探偵小説です。理由もしっかりあり、終わり方もよい。
ミステリー的な要素を一番含んでいるのは「姉は何処」でしょうか。
私一番のオススメです。
姉(の思念)の行動を見て、見事な名推理をみせる濱地と
一番のホラーを体験してしまった助手のユリエ。
最後の1行は中々怖いですよね。
直球の怖さではなく、変化球的怖さなのが「浴槽の花婿」
これは意表を突かれました。
犯人を言い当てるでも無く、アリバイを崩すでもなく、確かに幽霊的なものが
語っていることを濱地は刑事に伝えますが、それだけ。
その後の記述で、読者は犯人がわかるも、あの幽霊的な思念の正体も判明するラストは
「それは叫ぶ」とは全く違う、ゾクゾクする怖さです。
すでに第3弾も刊行されているようで、またまた楽しみですね。
しかし、語呂合わせの良い電話番号って何番だろうか?(笑
2023年03月26日
2022年04月02日
論理仕掛けの奇談-有栖川有栖解説集
まずはAmazonさんの紹介ページから。
一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
クリスティー、クイーンなど、海外の古典的名作から、松本清張、綾辻行人、皆川博子、
今村昌弘など日本のミステリまで……。新しい才能への目配りを常に忘れない、
本格ミステリのプロフェッショナルが愛をこめて執筆した、国内外の名作に寄せた解説集!
優れたミステリ・ブックガイドとしても最適の1冊。単行本刊行後に新たに執筆した解説3本と、
杉江松恋との読書対談も加えた文庫増補版。
このタイトルは、泡坂妻夫『毒薬の輪舞』に付けられたタイトルです。
泡坂先生は「探偵小説とは探偵小説の技法を使って作られている小説」であり、
「その技法というのは、読者に奇談を納得させるための一つの技術である」と書いており、
有栖川先生は、「ここでいう探偵小説とは本格ミステリのこと」で、と追記した上で、
本格ミステリとは<論理仕掛けの奇談>なのだ、と。
有栖川先生は、辞書にない怪しげな日本語と言いますが、これほど的確な言葉は
ないでしょう。
『死者の輪舞』と同じ探偵役にもかかわらず、これほどまるで違う作品を編み出し、
かつ、この『毒薬の輪舞』の、見事なまでの伏線の張り方、手がかりの残し方、
それが泡坂作品群では佳作であると評されている、ある意味贅沢ですよね。
本書タイトルにこれをもってきたのは、有栖川先生にとって思い入れが相当強かった
のでしょうかね。
しかし和製クイーンである有栖川有栖を思うと、やはりエラリー・クイーン&バーナビー・ロス
の2作は外せませんね。
『Xの悲劇』と『ローマ帽子の謎』の解説は流石、同書は「これぞ不朽の名作」と冠されています。
個人的に、読みたいと思ったのは吉村達也先生の『[会社を休みましょう]殺人事件』。
同書のです・ます調に合わせて、解説も同じになっているのですが、
これが書かれた時代背景も合わせ、復刊した時代背景も合わせ、気になりましたねえ。
紹介されている作品はジャンル含め多種多様。解説を読んで、実際にその本を
読むというのも、本選びとして良いのでは。
一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
クリスティー、クイーンなど、海外の古典的名作から、松本清張、綾辻行人、皆川博子、
今村昌弘など日本のミステリまで……。新しい才能への目配りを常に忘れない、
本格ミステリのプロフェッショナルが愛をこめて執筆した、国内外の名作に寄せた解説集!
優れたミステリ・ブックガイドとしても最適の1冊。単行本刊行後に新たに執筆した解説3本と、
杉江松恋との読書対談も加えた文庫増補版。
このタイトルは、泡坂妻夫『毒薬の輪舞』に付けられたタイトルです。
泡坂先生は「探偵小説とは探偵小説の技法を使って作られている小説」であり、
「その技法というのは、読者に奇談を納得させるための一つの技術である」と書いており、
有栖川先生は、「ここでいう探偵小説とは本格ミステリのこと」で、と追記した上で、
本格ミステリとは<論理仕掛けの奇談>なのだ、と。
有栖川先生は、辞書にない怪しげな日本語と言いますが、これほど的確な言葉は
ないでしょう。
『死者の輪舞』と同じ探偵役にもかかわらず、これほどまるで違う作品を編み出し、
かつ、この『毒薬の輪舞』の、見事なまでの伏線の張り方、手がかりの残し方、
それが泡坂作品群では佳作であると評されている、ある意味贅沢ですよね。
本書タイトルにこれをもってきたのは、有栖川先生にとって思い入れが相当強かった
のでしょうかね。
しかし和製クイーンである有栖川有栖を思うと、やはりエラリー・クイーン&バーナビー・ロス
の2作は外せませんね。
『Xの悲劇』と『ローマ帽子の謎』の解説は流石、同書は「これぞ不朽の名作」と冠されています。
個人的に、読みたいと思ったのは吉村達也先生の『[会社を休みましょう]殺人事件』。
同書のです・ます調に合わせて、解説も同じになっているのですが、
これが書かれた時代背景も合わせ、復刊した時代背景も合わせ、気になりましたねえ。
紹介されている作品はジャンル含め多種多様。解説を読んで、実際にその本を
読むというのも、本選びとして良いのでは。
2022年02月05日
こうして誰もいなくなった
まずはAmazonさんの紹介ページから。
仮想通貨で成功した若き大富豪に招待された10名の男女が、
"海賊島"で巻き込まれる不気味な連続殺人事件――クリスティの名作を大胆に再解釈した表題作
をはじめ、書店店長の名推理が痛快な「本と謎の日々」、肥大化した男の欲望と
巨大生物の暴挙に恐怖する「怪獣の夢」、遊び心に満ちたタイポグラフィが楽しい「線路の国のアリス」など多彩な14篇を収録。ジャンルを超越した物語世界の魅力を堪能できる、唯一無二の作品集!
ちょっと更新が空いてしまいました。
昨年発売された、有栖川有栖先生のノンシリーズ短編集。
少しネタバレ。
「線路の国のアリス」。実はこの本の前に読んでいたのが『アリスの国の殺人』で
なんという偶然!と思いました。
P.35のお遊びなど、まさに「不思議の国のアリス」でも、そして『アリスの国の殺人』でも
あり、「アリス」を舞台に、様々な異なるミステリが描かれていて、いやいや驚きました。
それだけに小林泰三さんの逝去が悔やまれてなりません。
最後、夢から醒め、現実世界に戻ったかのようなアリス、そこにはエキシャ猫と
白ウサギが・・・アリスは再び追いかけますが、果たしてこれはまだ夢の中なのか、
それとも「鏡の国」へ今度は向かうのか。少し余韻を残した終わり方もまた良いです。
「劇的な幕切れ」。これ短編ながら見事なミステリ。サスペンス、ホラーでも
あるのかもしれませんが、主人公のラストをどう考えるか?というのもあるのですが、
<パープル>というある種の趣味というか、そういうものを持つ人も当然ながら
居るのでしょうね。
「未来人F」は江戸川乱歩が生んだ「少年探偵団」シリーズのパスティーシュ。
解説だと、パロディとしてますが、やはりパスティーシュの方がしっくりくる気がします。
それは表題作も同じこと。
パロディとパスティーシュの違いは、確か『シャーロック・ホームズに愛を込めて』か
ジューン・トムソンの『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』の解説か、
何か書いてあったと記憶してます。
閑話休題。
この「少年探偵団」はいわゆる「通俗小説」になるのでしょうが、
有栖川さんがあとがきで書かれているように、小学生が夢中で読むのはよくわかります。
明智小五郎の登場のかっこよさも良いし、二十面相との対決も良い。
ただし、本作は最後にメタ要素があるのが少し捻ってますね。
(だからこそ、パロディと評したのかもしれません。)
「本と謎の日々」は大崎梢先生を読んでいるかのような錯覚を受けましたが、
それもそのはず。あとがきで書かれていますが、本作は『大崎梢リクエスト!本屋さんの
アンソロジー』所収作品。シリーズ化してもよい作品!
さて表題作「こうして誰もいなくなった」
いやあ、さすが有栖川先生。最後の「密室殺人」は見事の一言。
密室の中に死体を入れるという逆転の構図。『そして誰もいなくなった』パスティーシュ
としても第一級の作品ではないでしょうか。
それとやはり探偵役には触れない訳にはいきません。響・フェデリコ・航。
名探偵。<怪奇八十面相事件>を解き明かした、警察にも知られる人物。
ポワロをさらに奇抜にした感じにしたかの、星影龍三を私は思い出しました(笑
何で勝手にミドルネームを入れているんだwww
そして、なぜ事件が起きている事を知ったのだ?!
いいですねえ。彼の事件簿を作品にしてほしい。
解説では『殺しの双曲線』、『獄門島』、『パノラマ島奇談』といった作品への
オマージュも指摘していますが、なるほどと思いました。
『そして誰もいなくなった』の偉大さはもはや語るまでもありませんが、
『殺しの双曲線』に影響を受けて書いた、というパスティーシュも
あるかもしれませんね。
仮想通貨で成功した若き大富豪に招待された10名の男女が、
"海賊島"で巻き込まれる不気味な連続殺人事件――クリスティの名作を大胆に再解釈した表題作
をはじめ、書店店長の名推理が痛快な「本と謎の日々」、肥大化した男の欲望と
巨大生物の暴挙に恐怖する「怪獣の夢」、遊び心に満ちたタイポグラフィが楽しい「線路の国のアリス」など多彩な14篇を収録。ジャンルを超越した物語世界の魅力を堪能できる、唯一無二の作品集!
ちょっと更新が空いてしまいました。
昨年発売された、有栖川有栖先生のノンシリーズ短編集。
少しネタバレ。
「線路の国のアリス」。実はこの本の前に読んでいたのが『アリスの国の殺人』で
なんという偶然!と思いました。
P.35のお遊びなど、まさに「不思議の国のアリス」でも、そして『アリスの国の殺人』でも
あり、「アリス」を舞台に、様々な異なるミステリが描かれていて、いやいや驚きました。
それだけに小林泰三さんの逝去が悔やまれてなりません。
最後、夢から醒め、現実世界に戻ったかのようなアリス、そこにはエキシャ猫と
白ウサギが・・・アリスは再び追いかけますが、果たしてこれはまだ夢の中なのか、
それとも「鏡の国」へ今度は向かうのか。少し余韻を残した終わり方もまた良いです。
「劇的な幕切れ」。これ短編ながら見事なミステリ。サスペンス、ホラーでも
あるのかもしれませんが、主人公のラストをどう考えるか?というのもあるのですが、
<パープル>というある種の趣味というか、そういうものを持つ人も当然ながら
居るのでしょうね。
「未来人F」は江戸川乱歩が生んだ「少年探偵団」シリーズのパスティーシュ。
解説だと、パロディとしてますが、やはりパスティーシュの方がしっくりくる気がします。
それは表題作も同じこと。
パロディとパスティーシュの違いは、確か『シャーロック・ホームズに愛を込めて』か
ジューン・トムソンの『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』の解説か、
何か書いてあったと記憶してます。
閑話休題。
この「少年探偵団」はいわゆる「通俗小説」になるのでしょうが、
有栖川さんがあとがきで書かれているように、小学生が夢中で読むのはよくわかります。
明智小五郎の登場のかっこよさも良いし、二十面相との対決も良い。
ただし、本作は最後にメタ要素があるのが少し捻ってますね。
(だからこそ、パロディと評したのかもしれません。)
「本と謎の日々」は大崎梢先生を読んでいるかのような錯覚を受けましたが、
それもそのはず。あとがきで書かれていますが、本作は『大崎梢リクエスト!本屋さんの
アンソロジー』所収作品。シリーズ化してもよい作品!
さて表題作「こうして誰もいなくなった」
いやあ、さすが有栖川先生。最後の「密室殺人」は見事の一言。
密室の中に死体を入れるという逆転の構図。『そして誰もいなくなった』パスティーシュ
としても第一級の作品ではないでしょうか。
それとやはり探偵役には触れない訳にはいきません。響・フェデリコ・航。
名探偵。<怪奇八十面相事件>を解き明かした、警察にも知られる人物。
ポワロをさらに奇抜にした感じにしたかの、星影龍三を私は思い出しました(笑
何で勝手にミドルネームを入れているんだwww
そして、なぜ事件が起きている事を知ったのだ?!
いいですねえ。彼の事件簿を作品にしてほしい。
解説では『殺しの双曲線』、『獄門島』、『パノラマ島奇談』といった作品への
オマージュも指摘していますが、なるほどと思いました。
『そして誰もいなくなった』の偉大さはもはや語るまでもありませんが、
『殺しの双曲線』に影響を受けて書いた、というパスティーシュも
あるかもしれませんね。
2021年09月18日
カナダ金貨の謎
まずはAmazonさんの紹介ページから。
殺害現場から消えた一枚のメイプルリーフ金貨が臨床犯罪学者・火村英生を真相に導く。
倒叙形式の表題作「カナダ金貨の謎」ほか、火村とアリスの出会いを描いた「あるトリックの蹉跌」、
思考実験【トロッコ問題】を下敷きにした「トロッコの行方」など趣向を凝らした五編を収録。
〈国名シリーズ〉第10弾。
新本格第1世代であり、今も新本格の旗手として走り続けている有栖川有栖先生。
国名シリーズもついに第10弾とは。読者としても感慨深いものがあります。
思えば初めて読んだのは『スウェーデン館の謎』だったと思います。
これ、長編なんですよね。国名では『マレー鉄道』『インド倶楽部』と、現時点では
3作のみで、中々珍しい作品から読み始めたなあと今更ながら思います。
表題作は、有栖川先生も仰るように、国名シリーズ初の「倒叙もの」(半倒叙)に
なっています。
火村シリーズの倒叙は、犯人が追い詰められていく心理描写が良いのですが、
本作の太刀川は、これまで以上に災難、いや自業自得ですが、そんな状態でしたね。
作家アリスがカナダ金貨に意味を見いだそうとするのが、推理作家らしさが出ていて、
とても面白く、一方で、真相は全く別のところにあるというのもさすがです。
いつも火村の推理は詰め将棋のよう、と表現を私はしていますが、「カナダ金貨」でも
火村からではないにせよ、アリスの口から犯人をいかに絞り込んだかが語られます。
流石の推理。1つ1つの事実を明らかにして、それら全てが当てはまるのは誰か。
相変わらず見事だなと思います。
個人的には「トロッコの行方」が白眉。
容疑者は相変わらず少なく、アリバイもほぼみな完璧。
従来であれば、ここから火村がいかにアリバイを崩していくのかが丹念に描かれますが、
本作は違います。唐突にスパッと、犯人を(婉曲的ではありますが)指摘します。
どうして火村は犯人がわかったのかなあ・・・書かれている動機はなるほどと言える
のですが、動機があるから、だけでは当然火村は指摘しないはず。
(解る方いらしたらご教示ください。私が読めてない、読み飛ばしているのかも・汗)
「あるトリックの蹉跌」は火村とアリスの出会いを描いた作品ですが、
願わくば、そのときアリスが書いていた小説も、次作あたりにぜひ収録を。
有栖川有栖先生、そろそろ<ソラ>シリーズ、お願いします!
殺害現場から消えた一枚のメイプルリーフ金貨が臨床犯罪学者・火村英生を真相に導く。
倒叙形式の表題作「カナダ金貨の謎」ほか、火村とアリスの出会いを描いた「あるトリックの蹉跌」、
思考実験【トロッコ問題】を下敷きにした「トロッコの行方」など趣向を凝らした五編を収録。
〈国名シリーズ〉第10弾。
新本格第1世代であり、今も新本格の旗手として走り続けている有栖川有栖先生。
国名シリーズもついに第10弾とは。読者としても感慨深いものがあります。
思えば初めて読んだのは『スウェーデン館の謎』だったと思います。
これ、長編なんですよね。国名では『マレー鉄道』『インド倶楽部』と、現時点では
3作のみで、中々珍しい作品から読み始めたなあと今更ながら思います。
表題作は、有栖川先生も仰るように、国名シリーズ初の「倒叙もの」(半倒叙)に
なっています。
火村シリーズの倒叙は、犯人が追い詰められていく心理描写が良いのですが、
本作の太刀川は、これまで以上に災難、いや自業自得ですが、そんな状態でしたね。
作家アリスがカナダ金貨に意味を見いだそうとするのが、推理作家らしさが出ていて、
とても面白く、一方で、真相は全く別のところにあるというのもさすがです。
いつも火村の推理は詰め将棋のよう、と表現を私はしていますが、「カナダ金貨」でも
火村からではないにせよ、アリスの口から犯人をいかに絞り込んだかが語られます。
流石の推理。1つ1つの事実を明らかにして、それら全てが当てはまるのは誰か。
相変わらず見事だなと思います。
個人的には「トロッコの行方」が白眉。
容疑者は相変わらず少なく、アリバイもほぼみな完璧。
従来であれば、ここから火村がいかにアリバイを崩していくのかが丹念に描かれますが、
本作は違います。唐突にスパッと、犯人を(婉曲的ではありますが)指摘します。
どうして火村は犯人がわかったのかなあ・・・書かれている動機はなるほどと言える
のですが、動機があるから、だけでは当然火村は指摘しないはず。
(解る方いらしたらご教示ください。私が読めてない、読み飛ばしているのかも・汗)
「あるトリックの蹉跌」は火村とアリスの出会いを描いた作品ですが、
願わくば、そのときアリスが書いていた小説も、次作あたりにぜひ収録を。
有栖川有栖先生、そろそろ<ソラ>シリーズ、お願いします!
2020年11月10日
インド倶楽部の謎
まずはAmazonさんの紹介ページから。
生まれてから死ぬまで、運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」。
神戸で私的に行われたリーディングセッションに参加した“インド倶楽部”のメンバーが
相次いで殺される。前世の記憶を共有するという仲間の予言された死。
臨床犯罪学者・火村英生が論理の糸を手繰る“国名シリーズ”第9弾。
またまた久しぶりの更新です。
読書の秋!なんて書いてますが、以外と読めてないです・・・
そして久しぶりの国名シリーズ。エラリー・クイーンの短編集を読んだ後に、
日本のエラリー作品を読むという、贅沢な日常ではあります。
全く余談ですが、本書を勝手に短編集と思い込んでました(苦笑)
(あとがきで有栖川先生も仰っておられますが、火村&作家アリスシリーズは短編多し)
国名だと、『スウェーデン館の謎』と『マレー鉄道の謎』だけではないでしょうか。
なので、「第一章 神秘が語られる」を短編タイトルと勘違いしてました(汗)
しかし相変わらず容疑者が少ない!『狩人の悪夢』よりも多いですが、
作家アリス先生が命名した「インド倶楽部」メンバー複数名のみ。
アガスティアの葉、聖者アガスティアが全ての人々の運命を記したとされる葉で
「インド倶楽部」メンバー3名を占うナーディー・リーダーのラジーブ氏。
これがまた胡散臭い印象で、泡坂妻夫先生のヨギ・ガンジーを想像してしまいました(失礼!)
花蓮が聞いた父と母、間原郷太(マハラジャ)と妻・洋子の占い後の会話が
何かしらの事件を惹起させ、ラジーブ氏の代理人的立場であった出戸氏の死体が
発見されます。
23年前に起きた、間原郷太の前妻・寛子の事故死と、それを調べに行く野上部長刑事。
(全く余談ですが、土砂崩れによる死というのから、『後鳥羽伝説殺人事件』を思い出しました。)
読んでいる誰もがここに出戸氏と坊津氏殺害の動機があるものと思うのですが、
そこは有栖川先生。
動機という面から事件を解きほぐすのではない、これは『狩人の悪夢』でも火村が
披露した、詰め将棋のような推理ですが、本作でもこれは健在。
火村は、誰が二人を殺害できる、「犯人である条件を具えた唯一の人物」が
誰なのかを突き詰めていき、真犯人の逮捕(自白?)に到達します。
動機から辿っていくのではない。あらゆる可能性を排除していき、残った人物が犯人であるという
火村のまさに論理的推理の真骨頂です。
一方で、本作では単なる導入的なものとしか(私は少なくとも)思っていた「前世」という
「インド倶楽部」のメンバーを繋ぐ靱帯が、極めて重要な意味を持っていたというのが
個人的には本書最大の読ませどころと感じました。
ところで、本書では作家アリス先生が、これまでの火村の活躍の事件名を
勝手に命名していることを暴露していますが、メタ的な要素にも感じ、中々おもしろいですね。
しかも、これが事件を解く鍵にもしてしまうのは、さすが。
『カナダ金貨』の文庫化が待ち遠しいです。ソラシリーズもぜひ!
生まれてから死ぬまで、運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」。
神戸で私的に行われたリーディングセッションに参加した“インド倶楽部”のメンバーが
相次いで殺される。前世の記憶を共有するという仲間の予言された死。
臨床犯罪学者・火村英生が論理の糸を手繰る“国名シリーズ”第9弾。
またまた久しぶりの更新です。
読書の秋!なんて書いてますが、以外と読めてないです・・・
そして久しぶりの国名シリーズ。エラリー・クイーンの短編集を読んだ後に、
日本のエラリー作品を読むという、贅沢な日常ではあります。
全く余談ですが、本書を勝手に短編集と思い込んでました(苦笑)
(あとがきで有栖川先生も仰っておられますが、火村&作家アリスシリーズは短編多し)
国名だと、『スウェーデン館の謎』と『マレー鉄道の謎』だけではないでしょうか。
なので、「第一章 神秘が語られる」を短編タイトルと勘違いしてました(汗)
しかし相変わらず容疑者が少ない!『狩人の悪夢』よりも多いですが、
作家アリス先生が命名した「インド倶楽部」メンバー複数名のみ。
アガスティアの葉、聖者アガスティアが全ての人々の運命を記したとされる葉で
「インド倶楽部」メンバー3名を占うナーディー・リーダーのラジーブ氏。
これがまた胡散臭い印象で、泡坂妻夫先生のヨギ・ガンジーを想像してしまいました(失礼!)
花蓮が聞いた父と母、間原郷太(マハラジャ)と妻・洋子の占い後の会話が
何かしらの事件を惹起させ、ラジーブ氏の代理人的立場であった出戸氏の死体が
発見されます。
23年前に起きた、間原郷太の前妻・寛子の事故死と、それを調べに行く野上部長刑事。
(全く余談ですが、土砂崩れによる死というのから、『後鳥羽伝説殺人事件』を思い出しました。)
読んでいる誰もがここに出戸氏と坊津氏殺害の動機があるものと思うのですが、
そこは有栖川先生。
動機という面から事件を解きほぐすのではない、これは『狩人の悪夢』でも火村が
披露した、詰め将棋のような推理ですが、本作でもこれは健在。
火村は、誰が二人を殺害できる、「犯人である条件を具えた唯一の人物」が
誰なのかを突き詰めていき、真犯人の逮捕(自白?)に到達します。
動機から辿っていくのではない。あらゆる可能性を排除していき、残った人物が犯人であるという
火村のまさに論理的推理の真骨頂です。
一方で、本作では単なる導入的なものとしか(私は少なくとも)思っていた「前世」という
「インド倶楽部」のメンバーを繋ぐ靱帯が、極めて重要な意味を持っていたというのが
個人的には本書最大の読ませどころと感じました。
ところで、本書では作家アリス先生が、これまでの火村の活躍の事件名を
勝手に命名していることを暴露していますが、メタ的な要素にも感じ、中々おもしろいですね。
しかも、これが事件を解く鍵にもしてしまうのは、さすが。
『カナダ金貨』の文庫化が待ち遠しいです。ソラシリーズもぜひ!
2020年03月18日
濱地健三郎の霊なる事件簿
まずはAmazonさんの紹介ページから。
探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、
奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。
ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?殺人事件の被疑者が同時刻に
複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?生者の嘘を見破り、死者の声なき声に耳を傾ける
心霊探偵が、驚くべき謎を解き明かす。ミステリと怪異の融合が絶妙な、新シリーズ!
有栖川有栖先生には、
臨床犯罪学者であり、犯罪をフィールドワークとする火村英生。
英都大学推理小説研究会(EMC)の部長であり、4回も留年を繰り返す江神二郎。
南北に分断され、探偵行為が禁止された日本で、母の消息を追いつつ、事件を解明する空閑純。
この3人がシリーズ探偵を務めてきましたが、ここに4人目の探偵が登場しました。
それが心霊探偵を自称する濱地健三郎です。
あとがきで詳しく書かれているのですが、
事件の依頼人が階段を上って探偵の事務所へやってくる、ベーカー街221Bへ。
シャーロック・ホームズは依頼人が来るのを窓から眺めている・・・
そんな、まさに探偵たる探偵が本作の濱地健三郎。
ところが彼が扱うのは本格ミステリの対極にある怪奇・心霊など超常現象にまつわる事件。
(この点は詳しくは解説で書かれてます。)
しかも、警視庁捜査一課の刑事までも相談に訪れるという、これまた名探偵らしさも持ちます。
実に有栖川先生らしい感じもあります。
上記に書いたように、怪奇・心霊など超常現象を扱うとはいえ、
結構本格テイストも入ってます。
第1話「見知らぬ女」は、夫に憑いている女性の調査を頼む妻の話ですが、
このラストは第1話でこれとは驚きました。
本書の中で最も恐ろしいのは最終話「不安な寄り道」
この話はまさに怪奇。廃寺で起こっていたのは一体何であったのか。
濱地が以前に受けた依頼にも俄然興味がわきました。
積み重なった衝突やギスギス感から、このような行為に及んだと思うのですが、
さらにそこを深く知りたくなった「霧氷館の亡霊」
昂太くんには実際には視えていたのか、それとも「彼女」の配慮で、
誰かわからないようしていたのか、その辺りも気になりました。
この事件解決はかなり痛快で、最後に昂輔がランプスタンドを贈ったのは
本当の真相を濱地は彼にだけ話したからなのでしょうか?
心霊としてもミステリとしても一捻りが見事に効いている「分身とアリバイ」
そんな小説じゃあるまいし、というトリックを用いているのですが(笑
このトリックを非常にうまく活かした作品です。
いやどの作品もおもしろい。心霊的なら「寄り道」が愁眉。
ミステリとしては「分身とアリバイ」が愁眉かなあ。
すでに第2作目も発売されるということで、こちらも楽しみです。
有栖川先生、ソラシリーズもお願いします!
探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、
奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。
ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?殺人事件の被疑者が同時刻に
複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?生者の嘘を見破り、死者の声なき声に耳を傾ける
心霊探偵が、驚くべき謎を解き明かす。ミステリと怪異の融合が絶妙な、新シリーズ!
有栖川有栖先生には、
臨床犯罪学者であり、犯罪をフィールドワークとする火村英生。
英都大学推理小説研究会(EMC)の部長であり、4回も留年を繰り返す江神二郎。
南北に分断され、探偵行為が禁止された日本で、母の消息を追いつつ、事件を解明する空閑純。
この3人がシリーズ探偵を務めてきましたが、ここに4人目の探偵が登場しました。
それが心霊探偵を自称する濱地健三郎です。
あとがきで詳しく書かれているのですが、
事件の依頼人が階段を上って探偵の事務所へやってくる、ベーカー街221Bへ。
シャーロック・ホームズは依頼人が来るのを窓から眺めている・・・
そんな、まさに探偵たる探偵が本作の濱地健三郎。
ところが彼が扱うのは本格ミステリの対極にある怪奇・心霊など超常現象にまつわる事件。
(この点は詳しくは解説で書かれてます。)
しかも、警視庁捜査一課の刑事までも相談に訪れるという、これまた名探偵らしさも持ちます。
実に有栖川先生らしい感じもあります。
上記に書いたように、怪奇・心霊など超常現象を扱うとはいえ、
結構本格テイストも入ってます。
第1話「見知らぬ女」は、夫に憑いている女性の調査を頼む妻の話ですが、
このラストは第1話でこれとは驚きました。
本書の中で最も恐ろしいのは最終話「不安な寄り道」
この話はまさに怪奇。廃寺で起こっていたのは一体何であったのか。
濱地が以前に受けた依頼にも俄然興味がわきました。
積み重なった衝突やギスギス感から、このような行為に及んだと思うのですが、
さらにそこを深く知りたくなった「霧氷館の亡霊」
昂太くんには実際には視えていたのか、それとも「彼女」の配慮で、
誰かわからないようしていたのか、その辺りも気になりました。
この事件解決はかなり痛快で、最後に昂輔がランプスタンドを贈ったのは
本当の真相を濱地は彼にだけ話したからなのでしょうか?
心霊としてもミステリとしても一捻りが見事に効いている「分身とアリバイ」
そんな小説じゃあるまいし、というトリックを用いているのですが(笑
このトリックを非常にうまく活かした作品です。
いやどの作品もおもしろい。心霊的なら「寄り道」が愁眉。
ミステリとしては「分身とアリバイ」が愁眉かなあ。
すでに第2作目も発売されるということで、こちらも楽しみです。
有栖川先生、ソラシリーズもお願いします!
2019年08月12日
狩人の悪夢
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「俺が撃つのは、人間だけだ」
臨床犯罪学者・火村英生と、相棒のミステリ作家、アリスが、
悪夢のような事件の謎を解き明かす!
人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、
京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。
そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、
白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、
右手首のない女性の死体が発見されて……。
以下ややネタバレです。
作家アリス&臨床犯罪学者・火村英生シリーズ文庫版最新作。
これまで国名シリーズも含めて、このシリーズ全て読んでいますが、
本作はシリーズ最高傑作ではないかと、個人的に感じました。
本シリーズの核は、ど派手なトリックや、どんでん返し、意外な犯人等々・・・
いまよく帯やポップで見る宣伝文句ではありません。
本当に綿密に組まれたロジック。そして火村英生の詰め将棋のような推理。
派手さはありません。しかし、推理小説として極めて完成度が高い。
本作では、被害者の右手首と左手首が切断されるという、極めて奇妙な謎が
提示されますが、火村に言わせれば、それも「散らかっているだけ」
そしてもうひとつ、火村の言をあげれば、
「動機については無視して考えました。これは私のいつものやり方です。」
と、解説の宮部みゆきさんも引かれている一言。
そう、あくまで火村は誰がこの事件を起こすことができたのか、
それを絞り込んでいくフィールドワークを丹念に行っていくのです。
今回も先ほど挙げた切られた手首や、最初の被害者沖田頼子が探していたものとは何か。
亡くなった渡瀬信也を巡る人間関係等々・・・いくつもの興味深い謎が提示されますが、
物語の核心はそれらではない(もちろん核心にせまるピースではあります)。
上記は僕が火村が犯人を名指しした推理の過程を読んで思ったことなのですが、
この過程はかなり驚きました。
犯人の絞り込み、実に極めてシンプルなのです。それは読者へも提示されていたのですね。
それだけに驚きが増しました。
しかるにそれだけでなく、犯人を追い詰める役が火村からアリスへ変わった所も驚き。
これまでのシリーズでは無かったのでは?(あったらすいません。)
これは犯人との関係性もあったのかもしれませんが、久しぶりに事件に二人で
取り組むというのも理由の一つだったのかも。
そしてこの推理を犯人に突きつけた時、物的証拠は一つも無いという事実もまた驚き。
状況証拠と推理で火村は犯人を追い詰めるつもりだったのです。
火村にとっては当然なのかもしれません。なぜならあらゆる状況を考えて、
この人物しか犯人たり得ないと結論付けていたから。
事件発生までがおよそ100ページ。解決編が始まるのが384ページから。
およそ300ページ弱、火村のフィールドワークが続き、
その結果、推理はおおよそ50ページ程。
一体この流れから、どんな事件が起こるのか。
そしてこんな容疑者が少なく、五里霧中のような事件を火村はどう解くのか。
それを考えれば一気読み確実のミステリです。
「俺が撃つのは、人間だけだ」
臨床犯罪学者・火村英生と、相棒のミステリ作家、アリスが、
悪夢のような事件の謎を解き明かす!
人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、
京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。
そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、
白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、
右手首のない女性の死体が発見されて……。
以下ややネタバレです。
作家アリス&臨床犯罪学者・火村英生シリーズ文庫版最新作。
これまで国名シリーズも含めて、このシリーズ全て読んでいますが、
本作はシリーズ最高傑作ではないかと、個人的に感じました。
本シリーズの核は、ど派手なトリックや、どんでん返し、意外な犯人等々・・・
いまよく帯やポップで見る宣伝文句ではありません。
本当に綿密に組まれたロジック。そして火村英生の詰め将棋のような推理。
派手さはありません。しかし、推理小説として極めて完成度が高い。
本作では、被害者の右手首と左手首が切断されるという、極めて奇妙な謎が
提示されますが、火村に言わせれば、それも「散らかっているだけ」
そしてもうひとつ、火村の言をあげれば、
「動機については無視して考えました。これは私のいつものやり方です。」
と、解説の宮部みゆきさんも引かれている一言。
そう、あくまで火村は誰がこの事件を起こすことができたのか、
それを絞り込んでいくフィールドワークを丹念に行っていくのです。
今回も先ほど挙げた切られた手首や、最初の被害者沖田頼子が探していたものとは何か。
亡くなった渡瀬信也を巡る人間関係等々・・・いくつもの興味深い謎が提示されますが、
物語の核心はそれらではない(もちろん核心にせまるピースではあります)。
上記は僕が火村が犯人を名指しした推理の過程を読んで思ったことなのですが、
この過程はかなり驚きました。
犯人の絞り込み、実に極めてシンプルなのです。それは読者へも提示されていたのですね。
それだけに驚きが増しました。
しかるにそれだけでなく、犯人を追い詰める役が火村からアリスへ変わった所も驚き。
これまでのシリーズでは無かったのでは?(あったらすいません。)
これは犯人との関係性もあったのかもしれませんが、久しぶりに事件に二人で
取り組むというのも理由の一つだったのかも。
そしてこの推理を犯人に突きつけた時、物的証拠は一つも無いという事実もまた驚き。
状況証拠と推理で火村は犯人を追い詰めるつもりだったのです。
火村にとっては当然なのかもしれません。なぜならあらゆる状況を考えて、
この人物しか犯人たり得ないと結論付けていたから。
事件発生までがおよそ100ページ。解決編が始まるのが384ページから。
およそ300ページ弱、火村のフィールドワークが続き、
その結果、推理はおおよそ50ページ程。
一体この流れから、どんな事件が起こるのか。
そしてこんな容疑者が少なく、五里霧中のような事件を火村はどう解くのか。
それを考えれば一気読み確実のミステリです。
2018年12月24日
切り裂きジャックを待ちながら
毎年度、この時期にはクリスマスにまつわるミステリを紹介しています。
が、そろそろネタ切れ感が強い。
海外ミステリまで含め、そこまで多くない(はずはない)?
単に僕が知らないだけでしょうか・・・
そこで今年は有栖川有栖先生の国名シリーズ第5弾『ペルシャ猫の謎』収録の一編から。
かつて有栖川有栖の小説を舞台化したいと誘いを受けていた<屋根裏の散歩舎>の劇団員
からある相談を受ける。
それはの看板女優、鴻野摩利看板女優が誘拐され、12月24日までに身代金を振り込んで欲しい
というビデオメッセージが届けられたというものだった。
現実なのか狂言なのか、ゲネプロが行われる中、彼女の変わり果てた死体が発見される・・・
本作は動機という面では理解できないorできる、賛否両論ありそうです。
しかし、切り裂きジャックを題名に持ってきたことが、この動機と強く関連を持たせて
いるのではないかと勝手に思いました。
アリバイトリックは短時間で行ったにしてはかなり見事です。
あとは火村の登場と解決場面がかっこいい。
ところで本作含め、特に表題作「ペルシャ猫の謎」は火村シリーズの中でも異色作。
いや、この結末は中々書けません。
所収昨では「わらう月」と森下刑事が主役の「赤い帽子」が個人的オススメかつ快作。
それではすてきなクリスマス・イブ&クリスマスをお過ごしください。
が、そろそろネタ切れ感が強い。
海外ミステリまで含め、そこまで多くない(はずはない)?
単に僕が知らないだけでしょうか・・・
そこで今年は有栖川有栖先生の国名シリーズ第5弾『ペルシャ猫の謎』収録の一編から。
かつて有栖川有栖の小説を舞台化したいと誘いを受けていた<屋根裏の散歩舎>の劇団員
からある相談を受ける。
それはの看板女優、鴻野摩利看板女優が誘拐され、12月24日までに身代金を振り込んで欲しい
というビデオメッセージが届けられたというものだった。
現実なのか狂言なのか、ゲネプロが行われる中、彼女の変わり果てた死体が発見される・・・
本作は動機という面では理解できないorできる、賛否両論ありそうです。
しかし、切り裂きジャックを題名に持ってきたことが、この動機と強く関連を持たせて
いるのではないかと勝手に思いました。
アリバイトリックは短時間で行ったにしてはかなり見事です。
あとは火村の登場と解決場面がかっこいい。
ところで本作含め、特に表題作「ペルシャ猫の謎」は火村シリーズの中でも異色作。
いや、この結末は中々書けません。
所収昨では「わらう月」と森下刑事が主役の「赤い帽子」が個人的オススメかつ快作。
それではすてきなクリスマス・イブ&クリスマスをお過ごしください。
2017年11月04日
鍵の掛かった男
まずはAmazonさんの紹介ページから。
中之島のホテルで梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺と断定。だが同ホテルが定宿の作家・影浦浪子は疑問を持った。彼はスイートに5年住み周囲に愛され2億円預金があった。影浦は死の謎の解明を推理作家の有栖川有栖と友人の火村英生に依頼。が調査は難航。彼の人生は闇で鍵の掛かった状態だった。
梨田とは誰か? 他殺なら犯人は? 驚愕の悲劇的結末!
火村英生シリーズ文庫版最新作にして、最大の異色作。
まず探偵役である火村が物語の終盤までメインで登場しないという異例さ。
そしてこれまでワトソン役として火村をサポート(?)してきたアリスが
事実上、探偵役を務めています。
さらにこれまでのシリーズでは、殺人事件が起きる、あるいは疑わしいという所から
始まるのが特徴でしたが、本作は「自殺とは考えられない」という作家・影浦浪子の依頼から、
全てがスタートしています。
一方、梨田稔というか「鍵の掛かった男」の鍵が開いた瞬間から、
彼を殺した人物は果たして誰なのか?というさらなる難問が降りかかります。
アリスの聞き込みから、ホテル関係者、宿泊客の人柄、抱えている事等々、
それらを読者は知った上で、この謎に衝突するのです。
正直なところ、犯人は相当意外です。
ここもこれまでのシリーズと一線を画していると感じました。
読者にこの犯人を指摘するのはおそらく無理なので、
いわば「読者への挑戦状」は挟めないのではないかと思います。
(実際に影浦にそれらしい謎かけをしていますが、読んでいてわかった人、いたのかなあ。)
一方、影浦が奇しくも指摘するもう一人の「鍵の掛かった男」=火村英生。
解説では、火村の鍵が開くときこそ、本シリーズの終焉ではないかと述べられていますが、
有栖川先生が、本シリーズをどう終幕させるのかは、確かに気になるところ。
本作がこれまでと異色であることから、違和感を持つ方もいるかもしれません。
しかし、本作によりシリーズにさらなる幅ができたのではないかと私は感じました。
中之島のホテルで梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺と断定。だが同ホテルが定宿の作家・影浦浪子は疑問を持った。彼はスイートに5年住み周囲に愛され2億円預金があった。影浦は死の謎の解明を推理作家の有栖川有栖と友人の火村英生に依頼。が調査は難航。彼の人生は闇で鍵の掛かった状態だった。
梨田とは誰か? 他殺なら犯人は? 驚愕の悲劇的結末!
火村英生シリーズ文庫版最新作にして、最大の異色作。
まず探偵役である火村が物語の終盤までメインで登場しないという異例さ。
そしてこれまでワトソン役として火村をサポート(?)してきたアリスが
事実上、探偵役を務めています。
さらにこれまでのシリーズでは、殺人事件が起きる、あるいは疑わしいという所から
始まるのが特徴でしたが、本作は「自殺とは考えられない」という作家・影浦浪子の依頼から、
全てがスタートしています。
一方、梨田稔というか「鍵の掛かった男」の鍵が開いた瞬間から、
彼を殺した人物は果たして誰なのか?というさらなる難問が降りかかります。
アリスの聞き込みから、ホテル関係者、宿泊客の人柄、抱えている事等々、
それらを読者は知った上で、この謎に衝突するのです。
正直なところ、犯人は相当意外です。
ここもこれまでのシリーズと一線を画していると感じました。
読者にこの犯人を指摘するのはおそらく無理なので、
いわば「読者への挑戦状」は挟めないのではないかと思います。
(実際に影浦にそれらしい謎かけをしていますが、読んでいてわかった人、いたのかなあ。)
一方、影浦が奇しくも指摘するもう一人の「鍵の掛かった男」=火村英生。
解説では、火村の鍵が開くときこそ、本シリーズの終焉ではないかと述べられていますが、
有栖川先生が、本シリーズをどう終幕させるのかは、確かに気になるところ。
本作がこれまでと異色であることから、違和感を持つ方もいるかもしれません。
しかし、本作によりシリーズにさらなる幅ができたのではないかと私は感じました。
2017年07月09日
江神二郎の洞察
まずはAmazonさんの紹介ページから。
英都大学に入学したばかりの一九八八年四月、すれ違いざまにぶつかって落ちた一冊―中井英夫『虚無への供物』。この本と、江神部長との出会いが僕、有栖川有栖の英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった。アリス最初の事件「瑠璃荘事件」など、昭和から平成へという時代の転換期である一年の出来事を描いた九編を収録。ファン必携の“江神二郎シリーズ”短編集。
学生アリスが江神先輩と初めて出会うエピソードから、
マリア登場までを描く、まさに連作短編集。
シリーズ第1作『月光ゲーム』がアリスや望月、織田の中で相当な出来事(当然ですが)
として捉えられている様が実によくわかり、本書を読んだ後、改めて『月光ゲーム』を
再読したい思いに駆られました。
オススメは「瑠璃荘事件」
江神先輩の推理は見事です。ただ、アリスや織田も感心はしているものの、
いわゆるミステリに登場する名探偵とは全然・・・と感じているようです。
しかしこれが、『月光ゲーム』で一変するわけです。
アリスが発した一言、「名探偵も他人を信じることができる」。名言です。
マリアにも結局この『月光ゲーム』での出来事を話したアリス。
それが決め手なのかわかりませんが、マリアはEMCに入部します。
そして、彼女の入部こそが第2作『孤島パズル』に繋がります。
英都大学に入学したばかりの一九八八年四月、すれ違いざまにぶつかって落ちた一冊―中井英夫『虚無への供物』。この本と、江神部長との出会いが僕、有栖川有栖の英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった。アリス最初の事件「瑠璃荘事件」など、昭和から平成へという時代の転換期である一年の出来事を描いた九編を収録。ファン必携の“江神二郎シリーズ”短編集。
学生アリスが江神先輩と初めて出会うエピソードから、
マリア登場までを描く、まさに連作短編集。
シリーズ第1作『月光ゲーム』がアリスや望月、織田の中で相当な出来事(当然ですが)
として捉えられている様が実によくわかり、本書を読んだ後、改めて『月光ゲーム』を
再読したい思いに駆られました。
オススメは「瑠璃荘事件」
江神先輩の推理は見事です。ただ、アリスや織田も感心はしているものの、
いわゆるミステリに登場する名探偵とは全然・・・と感じているようです。
しかしこれが、『月光ゲーム』で一変するわけです。
アリスが発した一言、「名探偵も他人を信じることができる」。名言です。
マリアにも結局この『月光ゲーム』での出来事を話したアリス。
それが決め手なのかわかりませんが、マリアはEMCに入部します。
そして、彼女の入部こそが第2作『孤島パズル』に繋がります。