2016年04月26日
天鬼越 蓮丈那智フィールドファイルⅤ
鬼無里が、消える…。民俗学者・蓮丈那智と助手の内藤三國は
差出人不明のメールを受け取り、かつて訪れたH村に思いを馳せる。
5年前、鬼の面をつけ、家々を練り歩く神事の最中、殺人事件が起きたのだった。
誘われるようにふたたび向かった村では、ある女性が待っていた―。
著者急逝から6年、残された2編と遺志を継いで書かれた4編を収録。
歴史民俗ミステリ、堂々たる終幕!
北森さんの逝去後、パートナーで作家である浅野里沙子氏によって
書き継がれてきた蓮丈那智フィールドファイルシリーズ。
本書は、北森さんが遺した2編と浅野さん執筆の4編で構成され、
本書をもって、蓮丈那智シリーズは終幕。
淋しいですが、致し方ないですね。
表題作「天鬼越」は偽書をめぐる、ある村での殺人事件と
その村の過去に迫る、本書の中では愁眉。
ただ、狐目の男たる「高杉」がほとんど関わらなかったのが、
とても残念。
というより、本書所収作では、全く登場せずでしたね・・・
浅野氏執筆作品では、「ミクニ」こと内藤三國の成長が
やはり素晴らしい。
「邪馬台」以降の「ミクニ」だけに、那智も認めるまでの
成長を遂げています。
ラストの「偽蜃絵」は謎解きはおもしろいものの、
ボーナストラック的な位置づけに感じました。
最後にあっと言わせる人物が登場しますが、
蓮丈那智の最後を飾る作品としては物足りず。
北森さんの遺作やプロットはもう無いのでしょうが、
浅野さんが本シリーズを引き継ぐのは有りじゃないかと思うのですが・・・
「蓮丈那智、最後の挨拶」から「帰還の挨拶」へ繋げてほしいと
思っているのは、私だけではないのでは。
2014年05月16日
うさぎ幻化行
手で執筆された、まさに「遺作」。
まずはAmazonさんの紹介ページから。
急死してしまった義兄・最上圭一が遺した、「うさぎ」にあてた不思議な“音のメッセージ”。
圭一から「うさぎ」と呼ばれて可愛がられていたリツ子は、
それが環境庁の選定した日本の音風景百選の一部だと気づくが、どこか不自然さを覚える。
謎を抱えながら音源を訪ね歩くうちに、リツ子が発見した奇妙な矛盾とは―。
音風景を巡る謎を旅情豊かに描いた連作長編、待望の文庫化。鮎川賞作家最後の贈りもの。
本書は義兄が残した「音」のメッセージの謎の解明をする、義妹・美月リツ子の足跡
とともに物語が進行します。
しかし、その物語に大きな変化が生じるのが第六話 夜行にて
この話から「うさぎ」と呼ばれる人物が2人居るという驚きが待っています。
そして最終話で明らかになるもう一つの真実・・・驚異の真相が待っています。
蓮杖那智シリーズと全く作風が違い、どこか幻想的な雰囲気を醸し出します。
それはやはり「音」がキーワードだからなのかもしれません。
北森さんからの最後の贈り物、大事にしたいと思います。
2014年04月06日
邪馬台-蓮丈那智フィールドファイルⅣ-
本作は完結前に北森さんが逝去されたため、
パートナーであった浅野里沙子氏により、北森氏の
構想ノートを元に完結させた作品になります。
北森さんの逝去は本当に突然で、言葉がありませんでした。
本当に残念でなりません。
しかしその中でも本作品を浅野氏が引き継ぎ、完結
して頂けたのは、本当に良かったです。
もちろん、本書の結末が北森氏の構想していたものと
同じであったかどうかはわかりませんが、
本書を完結して頂けた事に感謝。
蓮丈那智シリーズ最新作にして、
最後の?物語。
最後の題材は、研究者あるいは作家らによって
語られてきた邪馬台国の謎に迫る渾身の一作です。
ひょんな事から蓮丈那智の手に渡った「阿久仁異聞」
そこに書かれている内容は、実は・・・
そして暴かれるのを防ぐ勢力、謎を暴きたい勢力がそこに
見え隠れし、彼女の仲間たちにも危機が迫る。
個人的な本作の読み所は、助手である内藤三國の成長ぶり
ではないかと思います。
(いや、もしかしたら前作までを忘れていてそう思っただけかもしれませんが・苦笑)
最初の「廃村の民俗学」から始まり、
那智の手から「やや離れ」て自ら「阿久仁村異聞」の謎を解き明かします。
新たな助手である佐江由美子に押され気味であり(かつコメディリリーフ化しつつあった)
前作までのイメージを吹き飛ばします。
なんとなく、本書は三國の独り立ちの一歩を描いた作品とも読めました。
しかし、一方で難点を挙げれば、民俗学が全面に出過ぎていて、
民俗学+本格ミステリである本シリーズの醍醐味がやや薄れてしまっているかなあと。
北森さんの逝去により、もう新作を読むことはできませんが、
改めて過去作を再読して、本シリーズの世界にまた入りたいと思います。
2010年01月25日
絶句、北森鴻さん死去
まさか、そんな・・・
まだ48歳、今後も日本のミステリ界を担って行って
ほしかったのに・・・
受け止められないですね・・・
ご冥福をお祈りします。

ぶぶ漬け伝説の謎―裏(マイナー)京都ミステリー (光文社文庫)
- 作者: 北森 鴻
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/08/06
- メディア: 文庫
2008年09月04日
パンドラ'sボックス
2008年02月07日
写楽・考~蓮丈那智フィールドファイルⅢ~
この巻では経理の狐目の男の名前が明らかに。
そして再び北森鴻の他シリーズキャラである宇佐見陶子が登場します。
どれも読み応えはあるのですが、僕個人のお気に入りは「棄神祭」
なぜ御厨家の当主善左衛門は過去に行われていた祭祀を復活させたのか。
この作品は民俗学の謎よりも、事件そのものの謎がこの祭祀復興に隠されている。
見立て殺人、というわけではありませんが、それに近い感触を受けました。
祭祀を復興させた本当の理由、それが明らかになることで事件の謎は明らかになります。
表題作である「写楽・考」
これはかなり異色な作品だなあと感じました。
というのも、物語の最後の最後まで、なぜ「写楽」なのか、その意味はわかりません。
あの、狐目の男・教務部主任高杉康文の「論文」で実は明らかになるわけですが・・・
実際にこの論理が正しいかどうか、それはわかりませんが、
この作品を読んで、比較してみたくなりました。
さて今後このシリーズはどう展開していくのか。
解説でも述べられていたように蓮丈那智シリーズ長編がいよいよか?
期待しっぱなしです。

写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3)
- 作者: 北森 鴻
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01
- メディア: 文庫
2008年02月03日
凶笑面/触身仏
民俗学とミステリとは類比関係だ。
この蓮丈那智フィールドファイルはまさにそれを体現したかのようなシリーズです。
先月下旬にシリーズⅢが文庫化され、それも今読んでいます。
本シリーズは東敬大学助教授の蓮丈那智とその助手内藤三國が挑む民俗学ミステリー
どれも読み応え十分。
それに北森さんのファンの方には他シリーズのキャラクターも登場するなど、
うれしい内容です。
解説はⅠが法月倫太郎さん、Ⅱが田中貴子さん、どちらもこれまたおもしろいんです。
解説まで楽しめるとは今までなかなかなかったなあ。
本シリーズは、殺人という現在の謎と民俗学という過去の謎、その2つを明らかにします。
その意味で謎の重点はやはり各短編で扱われる民俗学のテーマに置かれています。
殺人の謎は蓮丈那智あるいは本作で明らかになっているのが真実かもしれません。
が、民俗学はひょっとしたら蓮丈那智の仮説、あるいはもっと別の説があるかもしれない。
そんな気もするんです。
もちろん、この民俗学は北森民俗学で、本書内で完結するものだと思います。
なんとなくそんな事を考えてしまうんですねえ。
さてⅡで新たに助手となる佐江由美子、彼女の登場で物語は大きく変わっていきます。
経理の狐目の男は実は那智と同級生で、かつてはともに民俗学を学んでいた男。
彼の存在もまた大きくなっていきます。
今Ⅲを読んでいますが、内藤のキャラが変わってる気がものすご~くしました(笑
お笑い系?
ⅠやⅡとは大きく違うよなあと思いつつ、今後もシリーズが楽しみです。