棋士を目指して13歳で奨励会に入会した岩城啓一だったが、
20歳をとうに過ぎた現在もプロ入りを果たせずにいた。
9期目となった三段リーグ最終日前日の夕刻、翌日対局する村尾が突然訪ねてくる。
今期が昇段のラストチャンスとなった村尾が啓一に告げたのは……。
夢を追うことの恍惚と苦悩、誰とも分かち合えない孤独を深く刻むミステリ5編。
将棋ミステリとは思いませんでした。
全編そうです。そして各編色々共通しています。
しかし、将棋を主軸としつつ、ミステリとしての骨格は充分に素晴らしい。
特に「弱い者」と「ミイラ」は甲乙付けがたい傑作。
前者は震災被災地に、将棋教室のボランティアを行うため訪れた北上八段と石埜女流三段。
北上もかつて「被災者」だった経験を持つ。
北上と対局したある1人の少年は、目を見張るほどの強さを魅せるが、
なぜか最終盤で悪手を指し続ける・・・そこに隠された謎とはなにか?
被災地や被災者を考える上で、将棋という遊びの重要性、そして遙か昔より
言われているプライバシーや性の問題を、こういう形でクローズアップしたのは
今までないのではないでしょうか。初手からとんでもない作品です。
後者は「詰め将棋」の問題を考える一編。園田光晴という少年からの詰め将棋の
問題に悩む常坂と、編集長の金城。この手順では詰まないのに、彼はなぜ
頑なにこの手順を変えないのか。そこに潜む謎とは。
カルト宗教の洗脳による話と、詰め将棋という本来は王将が取られるのに、
現実には実際に取られないという常識を覆す作品。
フェアリー将棋というのは初めて聞きましたね。昔将棋部だったのに(笑
自分たちの常識だけでは捉えられないものが無数あるというのを、将棋で示した傑作でしょう。
珍しいところだと「恩返し」。駒師が主人公の話です。
芦沢先生、相当に将棋を勉強・取材されたんだろうなと思います。
また名短編集が誕生しましたね。
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