まずはAmazonさんの紹介ページから。
母から息子への痛切な願い。手紙に秘められた真相は!?
手首を切断された女の死体を名古屋の下宿に残して長男が失踪。
事件の第一発見者は、奥飛騨の寒村から長男を訪ねてきた母親だった。
息子の無実を訴える母と、大学受験を控えた次男との間で交わされる手紙が、
やがて驚愕の真実を浮き彫りに……。
著者ベスト級の呼び声高い表題作ほか、
騙りの技巧を凝らした中編三本を収録。極上の本格ミステリ集!
初文庫化を記念して、ミステリ作家・阿津川辰海氏とのロング対談を特別収録!
初文庫化ということで、かなり楽しみにしてました。
というのも辻御大の作品は、特定の作品は結構復刊するのですが、
どうもそれ以外のが見過ごされているんですよね。
実業之日本社さんでは、『夜明け前の殺人』の文芸ミステリ三部作も
出ているので、本当に有り難い。
東京創元社さんでも、初期の傑作であるポテト&スーパーの初期3部作が
また復刊されましたが、その後のシリーズも出して欲しいんですよね。
前の復刊でも3部作買いましたが、また買いました(笑
表題作は、ある意味この表題作が思いっきりミスリードなのが面白い。
本当に最後くらいにしか、この木は出てこないんですよね。
本作は手紙という形で物語が進みますが、確かに、この手紙に嘘が無いのが秀逸。
死体から手首が切られていた理由、飲み込まれていた鍵は何か。
不可思議な謎が一気に収束に向かう、最後の手紙はお見事です。
「島でいちばんの鳴き砂の浜」は、人間ではない、植物や動物が、辻御大の手を借りて
物語を進めていくのが一番面白いです。全編ではないにせよ、こういうミステリは
初めて体験したかもしれません。
それでいて、彼彼女(という表現が妥当か微妙ですが)たちは、真相は語りません。
「あとがき」が3つあるのと、辻先生は御年91歳!すごい!
阿津川辰海先生との対談も必読です。
阿津川さんも話されてますが、手に入らない作品が多いのですよ。
実業之日本社さん、どうかよろしく!
2023年11月19日
2022年11月05日
殺人の多い料理店
まずはAmazonさんの紹介ページから。
盛岡のレストランで宮沢賢治の童話朗読会が開かれた。
取材に赴いた夕刊紙記者・可能克郎は奇妙な出来事に遭遇。
台本に賢治作品の贋物が紛れ込んでいたのだ。
参加者を震撼させた“贋作騒動”は未解決。
ところが二か月後、参加者の一人・倉村が変死する。
朗読会に出演したタレント三木七重と参加メンバーの関係に不審を覚えた克郎は調査を進めるが……。
今年の最初に『夜明け前の殺人』が同じく実業之日本社文庫から復刊されていて、
そちらは購入しなかったのですが、本書は解説にある「可能」の文字で購入しました(笑
辻作品で「可能」といえば、可能キリコ&牧薩次のポテト&スーパーシリーズでしょう。
そして可能克郎は、『仮題・中学殺人事件』で初登場した、キリコの兄。
彼が主人公の作品なんてあったのか!と購入。
解説によると、300冊近い辻作品の中でも、可能克郎は、辻御大が生み出した数多くの
名探偵と顔見知りという、まさに辻ワールドの橋渡し役のようです。
彼の足跡を追えば、辻作品の大半を網羅できるという、偉大な人物。
しかし、彼はホームズ役でもワトソン役でもないというのがまた面白いところ。
本書の中で、克郎は、自らがホームズとワトソン両役になり、事件の解決に挑むのですが・・・
良いところまではいきつつも、最後は幸運に助けられて命は助かったという始末に。
しかし彼がこのように登場する作品は数多くあるようで、解説で触れられている
作品群は、ぜひとも復刊してほしいですね。
本書は宮沢賢治尽くしです。章タイトルから、登場人物まで。
宮澤賢治についてほとんど知らない私でも、時折引用される童話など、楽しめました。
事件のトリックが、牧薩次の書いた本からというのは、中々洒落が効いてます。
さらなる辻作品の復刊が続くことを願いつつ。
盛岡のレストランで宮沢賢治の童話朗読会が開かれた。
取材に赴いた夕刊紙記者・可能克郎は奇妙な出来事に遭遇。
台本に賢治作品の贋物が紛れ込んでいたのだ。
参加者を震撼させた“贋作騒動”は未解決。
ところが二か月後、参加者の一人・倉村が変死する。
朗読会に出演したタレント三木七重と参加メンバーの関係に不審を覚えた克郎は調査を進めるが……。
今年の最初に『夜明け前の殺人』が同じく実業之日本社文庫から復刊されていて、
そちらは購入しなかったのですが、本書は解説にある「可能」の文字で購入しました(笑
辻作品で「可能」といえば、可能キリコ&牧薩次のポテト&スーパーシリーズでしょう。
そして可能克郎は、『仮題・中学殺人事件』で初登場した、キリコの兄。
彼が主人公の作品なんてあったのか!と購入。
解説によると、300冊近い辻作品の中でも、可能克郎は、辻御大が生み出した数多くの
名探偵と顔見知りという、まさに辻ワールドの橋渡し役のようです。
彼の足跡を追えば、辻作品の大半を網羅できるという、偉大な人物。
しかし、彼はホームズ役でもワトソン役でもないというのがまた面白いところ。
本書の中で、克郎は、自らがホームズとワトソン両役になり、事件の解決に挑むのですが・・・
良いところまではいきつつも、最後は幸運に助けられて命は助かったという始末に。
しかし彼がこのように登場する作品は数多くあるようで、解説で触れられている
作品群は、ぜひとも復刊してほしいですね。
本書は宮沢賢治尽くしです。章タイトルから、登場人物まで。
宮澤賢治についてほとんど知らない私でも、時折引用される童話など、楽しめました。
事件のトリックが、牧薩次の書いた本からというのは、中々洒落が効いてます。
さらなる辻作品の復刊が続くことを願いつつ。
2022年02月08日
アリスの国の殺人
まずはAmazonさんの紹介ページから。
コミック雑誌創刊に向けて鬼編集長にしごかれる編集者の綿畑克二。ある日、
行きつけのスナック「蟻巣」で眠りこけ、夢の中で美少女アリスと出会う。
そして彼女との結婚式のさなか、チェシャ猫殺害の容疑者として追われるはめになった。
目が醒めると、現実世界では鬼編集長が殺害されており、ここでも殺人の嫌疑をかけられてしまう。
二つの世界で無実を証すために事件の真相を追うことになった。
日本推理作家協会賞受賞の長篇ミステリー。
以下、ネタバレあり。
相当前から気になっていて、徳間も、双葉社もいずれも絶版?で全然読むことが叶わなかった
作品でした。今回、徳間文庫さんから念願の復刊ということで、早速に購入。
アリスの世界(夢?)と現実世界を行き来する主人公・綿畑克二。
彼が最後に行き着く先はどこなのか・・・?
ともかく、アリスの世界が不条理極まりない世界です。
アリスはともかく、ニャロメやヒゲオヤジ(伴俊作)、さらには鉄人28号まで
登場します。しかも、鉄人28号はこの世界で起きたチェシャ猫が<密室>で殺されている
という事件を解く、最大のキーにもなります。
とにかくレベルの高い言葉遊びが凄い。辻真先御大はこれは執筆していて、
気持ち良かったのだろうなあ。
章タイトルの反射(鏡)表現、しりとりで進む文章、証人から白兎への近似語遊び、
挙げればきりがありません。
それでいて、この夢の世界の殺人事件が実に凝っている。密室を逆手に取ったトリックや、
『仮題・中学殺人事件』の意外な犯人に通じる、犯人を裁く法廷の裁判長が犯人という。
御大のこだわりが見えますね。
現実の世界では『深夜の博覧会』で(私にとってはなじみ深い) 那珂一兵が登場。
こちらの事件はアリバイ崩しがメインとなりますが、そもそも事件の大前提を覆す
『蟻巣』の面々の活躍(?)。明野編集長の執念とも言える思いが彼彼女を
動かしたのでしょう。
しかし、結局こちらの事件の最後はどうなったのだろうか。
最後を飾る章は夢の国の話で、301頁の「これじゃおわらない!」は何を指すのでしょうか・・・
続編にあたる『ピーター・パンの殺人』に続くということなのでしょうか。
ここまで遊びを盛り込んで、それでいて夢と現実いずれの事件も見事な作品。
合わない方も居られるかもしれませんが、復刊したことでぜひ手にとってほしいものです。
コミック雑誌創刊に向けて鬼編集長にしごかれる編集者の綿畑克二。ある日、
行きつけのスナック「蟻巣」で眠りこけ、夢の中で美少女アリスと出会う。
そして彼女との結婚式のさなか、チェシャ猫殺害の容疑者として追われるはめになった。
目が醒めると、現実世界では鬼編集長が殺害されており、ここでも殺人の嫌疑をかけられてしまう。
二つの世界で無実を証すために事件の真相を追うことになった。
日本推理作家協会賞受賞の長篇ミステリー。
以下、ネタバレあり。
相当前から気になっていて、徳間も、双葉社もいずれも絶版?で全然読むことが叶わなかった
作品でした。今回、徳間文庫さんから念願の復刊ということで、早速に購入。
アリスの世界(夢?)と現実世界を行き来する主人公・綿畑克二。
彼が最後に行き着く先はどこなのか・・・?
ともかく、アリスの世界が不条理極まりない世界です。
アリスはともかく、ニャロメやヒゲオヤジ(伴俊作)、さらには鉄人28号まで
登場します。しかも、鉄人28号はこの世界で起きたチェシャ猫が<密室>で殺されている
という事件を解く、最大のキーにもなります。
とにかくレベルの高い言葉遊びが凄い。辻真先御大はこれは執筆していて、
気持ち良かったのだろうなあ。
章タイトルの反射(鏡)表現、しりとりで進む文章、証人から白兎への近似語遊び、
挙げればきりがありません。
それでいて、この夢の世界の殺人事件が実に凝っている。密室を逆手に取ったトリックや、
『仮題・中学殺人事件』の意外な犯人に通じる、犯人を裁く法廷の裁判長が犯人という。
御大のこだわりが見えますね。
現実の世界では『深夜の博覧会』で(私にとってはなじみ深い) 那珂一兵が登場。
こちらの事件はアリバイ崩しがメインとなりますが、そもそも事件の大前提を覆す
『蟻巣』の面々の活躍(?)。明野編集長の執念とも言える思いが彼彼女を
動かしたのでしょう。
しかし、結局こちらの事件の最後はどうなったのだろうか。
最後を飾る章は夢の国の話で、301頁の「これじゃおわらない!」は何を指すのでしょうか・・・
続編にあたる『ピーター・パンの殺人』に続くということなのでしょうか。
ここまで遊びを盛り込んで、それでいて夢と現実いずれの事件も見事な作品。
合わない方も居られるかもしれませんが、復刊したことでぜひ手にとってほしいものです。
2021年08月29日
深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説
まずはAmazonさんの紹介ページから。
昭和12年(1937年)5月、銀座で似顔絵描きをしながら漫画家になる夢を追いかける
那珂一兵のもとを、帝国新報(のちの夕刊サン)の女性記者が訪ねてくる。
開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いてほしいというのだ。
取材の最中、名古屋にいた女性の足だけが東京で発見されたとの知らせが届く。
二都市にまたがる不可解な謎に、那珂少年はどんな推理を巡らせるのか?
ミステリ界で話題となった『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』の前日譚が、
待望の文庫化!
またまた久しぶりの更新です。
本作は辻御大の「昭和ミステリ」第1弾。
ミステリ、探偵小説という枠組みにはとても捉えきれない、
当時の名古屋、さらには風俗、情景、さらには森下雨村など実在の人物名も登場するなど、
昭和初期という時代を振り返る小説にもなっていると思います。
風景描写も見事ですし、甘粕事件など実際の事件も織り込んでいて、これもまた見事。
以下、少しネタバレ。
まず主人公の那珂一兵。彼が辻作品常連の探偵役とは恥ずかしながら知りませんでした。
ポテト&スーパー、迷犬ルパンなどは存じ上げておりましたが、勉強不足です。
起こる事件は極めて凄惨です。
切断された足だけが見つかるという残忍な事件。
それ以降、杏蓮の遺体(?)も発見されず、彼女のパトロンである崔桑炎の元に
刑事が訪れ、そこで那珂や瑠璃子は事件を知る事になります。
事件の謎解きより、博覧会内部の説明の方が圧倒的に多いのですが、
それこそが事件の鍵を握っている訳です。
宗像伯爵より、探偵役を仰せ付けられた那珂一兵は、見事にその役を果たします。
このトリック、アリバイ崩しになるわけですが、結構壮大なトリックが使われてます。
当時の東京ー名古屋間の移動、館に仕掛けられた(当時の最新技術を用いた)罠など、
はっきり言って、80歳を超えた辻先生が書かれているとは到底思えません。
いや、素晴らしいの一言ですね。
日付や場所の誤認だけでなく、実はそこにトリックを見破るポイントがあったという、
(東京音頭のくだりですね)ここもよかった。
老練な宗像伯爵が、若き名探偵を助けるところも良いんですよね。
宗像伯爵による満州行きを反対する描写、崔氏と那珂少年との別れ。
これから始まるであろう、戦争を惹起させる描写がそこはかとなく
描かれているところも余韻が残ります。
解説で紹介されている、今はもう手に入れる事の出来ない辻作品の復刊を期待!
昭和12年(1937年)5月、銀座で似顔絵描きをしながら漫画家になる夢を追いかける
那珂一兵のもとを、帝国新報(のちの夕刊サン)の女性記者が訪ねてくる。
開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いてほしいというのだ。
取材の最中、名古屋にいた女性の足だけが東京で発見されたとの知らせが届く。
二都市にまたがる不可解な謎に、那珂少年はどんな推理を巡らせるのか?
ミステリ界で話題となった『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』の前日譚が、
待望の文庫化!
またまた久しぶりの更新です。
本作は辻御大の「昭和ミステリ」第1弾。
ミステリ、探偵小説という枠組みにはとても捉えきれない、
当時の名古屋、さらには風俗、情景、さらには森下雨村など実在の人物名も登場するなど、
昭和初期という時代を振り返る小説にもなっていると思います。
風景描写も見事ですし、甘粕事件など実際の事件も織り込んでいて、これもまた見事。
以下、少しネタバレ。
まず主人公の那珂一兵。彼が辻作品常連の探偵役とは恥ずかしながら知りませんでした。
ポテト&スーパー、迷犬ルパンなどは存じ上げておりましたが、勉強不足です。
起こる事件は極めて凄惨です。
切断された足だけが見つかるという残忍な事件。
それ以降、杏蓮の遺体(?)も発見されず、彼女のパトロンである崔桑炎の元に
刑事が訪れ、そこで那珂や瑠璃子は事件を知る事になります。
事件の謎解きより、博覧会内部の説明の方が圧倒的に多いのですが、
それこそが事件の鍵を握っている訳です。
宗像伯爵より、探偵役を仰せ付けられた那珂一兵は、見事にその役を果たします。
このトリック、アリバイ崩しになるわけですが、結構壮大なトリックが使われてます。
当時の東京ー名古屋間の移動、館に仕掛けられた(当時の最新技術を用いた)罠など、
はっきり言って、80歳を超えた辻先生が書かれているとは到底思えません。
いや、素晴らしいの一言ですね。
日付や場所の誤認だけでなく、実はそこにトリックを見破るポイントがあったという、
(東京音頭のくだりですね)ここもよかった。
老練な宗像伯爵が、若き名探偵を助けるところも良いんですよね。
宗像伯爵による満州行きを反対する描写、崔氏と那珂少年との別れ。
これから始まるであろう、戦争を惹起させる描写がそこはかとなく
描かれているところも余韻が残ります。
解説で紹介されている、今はもう手に入れる事の出来ない辻作品の復刊を期待!