まずはAmazonさんの紹介ページから。
運行しているはずのない深夜バスに乗って、
彼は摩訶不思議な光景に遭遇した――
あの手この手で謎解きのおもしろさを描いた〈ミステリ・ショーケース〉
手間暇かけた五つの短編ミステリを御賞味ください。
運行しているはずのない深夜バスに乗って、彼は摩訶不思議な光景に遭遇した――
奇妙な謎解きとその鮮やかな解決を描く表題作、
読者への挑戦状を付したストレートな犯人当て「ミッシング・リング」、
女子中学生の淡い恋と不安を描く「猫矢来」、怪奇小説と謎解きを融合させた傑作「九人病」、
自慢のアリバイ・トリックを用意して殺人を実行したミステリ作家の涙ぐましい奮闘劇「特急富士」。あの手この手で謎解きの面白さを提供する、著者渾身の〈ミステリ・ショーケース〉。
初めて読む作家さんです。
常にこのブログでは褒めてばかりじゃないかと思われそうですが、
いずれも作風が違う、ミステリの質が違う、
これだけ毛色の違う傑作短編集は久しぶりに読みました。
(いつも言ってるかも・・・)
表題作はホラーミステリ。主人公の坂本が乗った深夜バスは本当に運行していたのか?
後半に怒濤の展開が待っていますが、本作で最も怖いのは、パーキングエリアでの
坂本の体験が、一切説明されていないこと。そのため本作はホラーと言って過言で
ないのではと感じました。
「猫矢来」。論理のアクロバットの傑作。とにかく不気味な行動をする隣人と、
主人公の里奈が学校でいじめに巻き込まれそうになっていくこと。
この2つから、果たしてどう物語が展開するのかと思いましたが、
後半の展開は全く予想だにしないものです。
一方で、いじめという社会問題、加害者及びその家族を取り上げているという点では
他作品と一線を画している印象。
「ミッシング・リング」。読者へ正面から挑む犯人当て小説。
しっかり「読者への挑戦」が幕間に挟まれます。そして描かれる館の平面図。
次々と連続殺人が起こるのを想像してしまった自分が恥ずかしい(苦笑)
アリバイ崩しという、ミステリの初歩の初歩で、見事に読ませる作品。
「九人病」。突然民俗学ミステリが登場で、これまた驚き。
現代社会でそんな病があるのか?と疑いたくもなる話ですが、
1つの怪談として作中では話されながら、
ネタバレ後の、(ある意味必然の)結末までが、1つの怪談として成り立っていますね。
「特急富士」。トラベルミステリーも登場かと、作者の懐の深さに驚きましたが、
さらにこの作品は、犯人の視点で描かれる、いわば刑事コロンボ方式。倒叙ミステリ。
犯人の二人とも、アリバイのために丹念に計画したトリックより、
被害者から託されたものでジエンドとなるのが、終わり方として実に痛快。
コロンボの「二枚のドガの絵」のようなラストです。
どれをオススメとするか、非常に悩みましたが、この時期の暑さを踏まえると、
表題作と「九人病」。後者は感想でも書いたように、怪談を読んでいるような
気分になりました。
ミステリとしての白眉は、やはり「猫矢来」。
Twitterを拝見すると、兼業作家さんのようですね。
これだけ良質なミステリを楽しめて、満足です。
次の作品も期待です。