まずはAmazonさんの紹介ページから。
H・P・ラヴクラフト×不可能犯罪
独自の妖怪伝説が継承される赤虫村――
人知を超えた方法で殺されてゆく
村の有力者一族
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作家の初長編
愛媛県の山間部にある赤虫村(あかむしむら)には、独自の妖怪伝説が存在する。
暴風を呼ぶ「蓮太(はすた)」、火災を招く「九頭火(くとうか)」、
無貌の「無有(ないある)」、そして古くから伝わる“クトル信仰”。
フィールドワークのために訪れた怪談作家・呻木叫子は、村の名家である中須磨家で続く、
妖怪伝説の禍を再現するかのような不可能状況下での連続殺人を調査することに。
第17回ミステリーズ!新人賞受賞者による初長編。
久しぶりの更新。今年もあと3ヶ月ですか・・・。早いなあ。
まず全面に「クトゥルフ神話」を取り込んでいるのが、最大の特徴ですね。
クトル信仰。苦取る、なるほどなあと感心してしまいました。
ただ、これを知らない人は???となるだろうな。
それを知らないとしても、充分楽しめるようにはなってますが。
赤虫村のこのクトル信仰を利用しての、最初の殺人が非常に見事。
不可能犯罪というようにしか見えないのに、それが神話(忌み地・禁忌)で
見えなかっただけで、密室のようで、実はルートは存在したのです。
ただし、赤虫村の怪異に対する事前準備(お守り)が必要ですが、
それも警察の捜査段階でしっかり触れられています。
石蔵での殺人も密室。しかしここにも1つの盲点が。
なぜ全てにガソリンを巻いて、全焼させる必要があったのか。そこから呻木は
推理を組み立てます。
前作『影踏亭の怪談』もそうですが、密室が多い。そしてしっかり捻られている。
各殺人事件に、赤虫村の怪異を見立てるのですが、本作では実際に怪異が起こるので、
見立てどころか、本当に怪異そのものが登場するのが恐ろしいところ。
犯人も、そこまでは読めなかったでしょうね。
呻木叫子は、あくまで怪談作家として、赤虫村の怪異にのみ興味があるようで、
事件のことはまるで興味がない模様。金剛満瑠から事件の事を連絡されても
どこ吹く風という(笑
それでも最後はしっかり名探偵するのですから、流石ですね。
しかし、肝心の怪異の方は、かつて『赤虫村民族誌』を執筆した庵下讓治の弟子・瀬島攝から
詳しい話も、庵下が遺した資料も魅せて貰えず。
本人としては消化不良でしょう。
しかし、瀬島の危惧が、後に最悪の形で呻木の身に降りかかる・・・早くそれが読みたい!
ところで、本作ではコメディリリーフ的な役割をみせる一面もある鰐口ですが、
彼女がこのシリーズの要でもあるなあと読んでいて思いました。
ある意味呻木の猪突猛進を止めることができるのは、彼女だけだろう。
そしてさらりと解決に導く一言をいう。
前に『影踏亭の怪談』の時に書いたのですが、呻木先生は行方不明になっていて、
編集部も探しているという記載がありましたが、あれは作中内作品の恐怖を煽る一文
だったのかなあ。本作で平然と登場していて、ビックリしました。
作中内の時系列もよくわからないので、何とも言えないのですが。
すでに次作も刊行されていて、いやいや、今一番楽しみな作品になりつつあります。
2024年10月06日
2023年12月30日
影踏亭の怪談
まずはAmazonさんの紹介ページから。
四つの怪異が解かれるとき、あなたは見てはならないものを目にする
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編
怪談×ミステリの最前線
僕の姉は怪談作家だ。本名にちなんだ呻木叫子というふざけた筆名で、
専攻していた民俗学でのフィールドワークの経験を生かした
ルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、
密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。
この常識を超えた怪事件は、彼女が取材中だった旅館〈影踏亭〉に
出没する霊と関連しているのか? 姉を救う手掛かりを求めて
宿へ調査に出向くことにした僕は、宿泊当夜に密室で起きた
殺人事件の容疑者となってしまい……
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか、全4編を収録。
以下、ネタバレあり。
これは傑作短編集です。ミステリ好きの方はぜひ読んで欲しい。
私見ですが、
本書収録全ての短編は(広義・狭義含めた)密室という、極めて精緻な作りです。
確かに怪奇的現象、怪談は登場します。
しかし、その怪奇的現象をいかに事件解決に合理的に考えるか、
ある意味、どう「論理仕掛けの奇談」につなげるか、これが非常に上手い。
(「朧トンネルの怪談」などは好例でしょう。)
「ドロドロ坂の怪談」は、本筋の殺人事件は、「犬神家の一族」で登場する、
「無作為の作為」が実に上手く効いています。
本作は直球の密室が登場しますが、そもそもこの状況下ではどう考えても、
鍵を閉められるのは・・・となるのですが、この「無作為の作為」により、
事件が大混乱をするんですね。
一方で、中で語れる怪奇現象は、最後かなり深いところまで行ってしまい、未解決。
ここもまた恐ろしくてねえ・・・
一方、「影踏亭の怪談」は大半が怪奇小説です。ほとんど何も怪奇的な現象について
語られません。その意味では全く闇の中です。
本作が面白いのは、最初の探偵役である呻木の弟が、いきなり殺害され、
探偵役がバトンタッチされ、姉である叫子が弟の事件を、見事に論理的に
解決するパターン。まさか語り手がいきなり死亡は中々無いですからね。
本作では、叫子のまぶたが縫い付けられていた理由も、最後にしっかり説明
されていますが(むろん、ある意味怪奇的な説明ですが)、
それ以外の「影踏亭の怪談」の謎は、不明のまま。
「こうべ」が「頭」であることを叫子が指摘したのみ。
しかし、この最初の短編こそが、連作短編の始まりで、最後の叫子の悲劇にも
繋がるのは、実に練りに練った構成だなと。
とにもかくにも、次作『赤虫村の怪談』も早く文庫化を!
四つの怪異が解かれるとき、あなたは見てはならないものを目にする
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編
怪談×ミステリの最前線
僕の姉は怪談作家だ。本名にちなんだ呻木叫子というふざけた筆名で、
専攻していた民俗学でのフィールドワークの経験を生かした
ルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、
密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。
この常識を超えた怪事件は、彼女が取材中だった旅館〈影踏亭〉に
出没する霊と関連しているのか? 姉を救う手掛かりを求めて
宿へ調査に出向くことにした僕は、宿泊当夜に密室で起きた
殺人事件の容疑者となってしまい……
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか、全4編を収録。
以下、ネタバレあり。
これは傑作短編集です。ミステリ好きの方はぜひ読んで欲しい。
私見ですが、
本書収録全ての短編は(広義・狭義含めた)密室という、極めて精緻な作りです。
確かに怪奇的現象、怪談は登場します。
しかし、その怪奇的現象をいかに事件解決に合理的に考えるか、
ある意味、どう「論理仕掛けの奇談」につなげるか、これが非常に上手い。
(「朧トンネルの怪談」などは好例でしょう。)
「ドロドロ坂の怪談」は、本筋の殺人事件は、「犬神家の一族」で登場する、
「無作為の作為」が実に上手く効いています。
本作は直球の密室が登場しますが、そもそもこの状況下ではどう考えても、
鍵を閉められるのは・・・となるのですが、この「無作為の作為」により、
事件が大混乱をするんですね。
一方で、中で語れる怪奇現象は、最後かなり深いところまで行ってしまい、未解決。
ここもまた恐ろしくてねえ・・・
一方、「影踏亭の怪談」は大半が怪奇小説です。ほとんど何も怪奇的な現象について
語られません。その意味では全く闇の中です。
本作が面白いのは、最初の探偵役である呻木の弟が、いきなり殺害され、
探偵役がバトンタッチされ、姉である叫子が弟の事件を、見事に論理的に
解決するパターン。まさか語り手がいきなり死亡は中々無いですからね。
本作では、叫子のまぶたが縫い付けられていた理由も、最後にしっかり説明
されていますが(むろん、ある意味怪奇的な説明ですが)、
それ以外の「影踏亭の怪談」の謎は、不明のまま。
「こうべ」が「頭」であることを叫子が指摘したのみ。
しかし、この最初の短編こそが、連作短編の始まりで、最後の叫子の悲劇にも
繋がるのは、実に練りに練った構成だなと。
とにもかくにも、次作『赤虫村の怪談』も早く文庫化を!