まずはAmazonさんの紹介ページから。
失われた夢の国へようこそ
巨大すぎるクローズドサークルで連続殺人発生!?
衝撃の全編リライト! 待望の文庫化!!
銃乱射事件で閉鎖された遊園地・イリュジオンランドへ、
廃墟コレクターの資産家・十嶋庵が二十年ぶりに人々を招く。
廃墟マニアの元コンビニ店員・眞上永太郎をはじめとした招待客が、廃
園の所有権を賭けた宝探しに挑戦する最中、串刺しになった血まみれの着ぐるみが見つかり……。
驚愕の廃墟×本格ミステリ長編! 文庫版あとがき収録。
以下、ネタバレあり。
カテゴリーにないので、初めて読むのです、斜線堂さんの作品は。
『このミス』とか他色々とお名前をみているので、もう何か読んだものと
勘違いしていました。
本作、単行本と文庫では、かなり内容(といっても核となる部分は同じでしょうが)
異なることが、作者のあとがきで記されています。
全面リライト版とのこと。
私は文庫版しかよんでいないので、そちらの感想ということに。
帯やあとがきにもあるように、<廃墟探偵>シリーズとして来年2作目が
刊行されるそうです。
それを踏まえると、私の中にはある作品群と重なるものがでてきました。
十島庵=中村青司、眞上永太郎=島田潔。
そう<館>シリーズです。
特に最後の眞上と十島が出会い、手紙の内容を読んで、なんとなく思ってしまいました。
十島庵というキャラクターは、本書に実際に登場しているものの、
登場しているある人物とある人物の合同ネームなのか、
それともどちらかなのか。
彼彼女は、本作舞台のイリュジオンランドの過去に起きた凄惨な出来事について
(20年近い歳月を経たことから、調査をし)、その事実がどう明らかになるのか、
関係者を集めて楽しんでいる(眞上視点ではそうみえた感)ようでしたね。
その場にいるけれども、ストーリーテラーに近い。
で、彼彼女たちは、イリュジオンランドだけでなく、廃墟そのものに興味を持っている。
なぜ廃墟になりえたか。朽ち果てるものと変わらないもの云々のくだりがでてきますが、
ここ以外にもいくつも持っているのでしょうね。
一方眞上も、父親がある空中庭園事件の犯人で、自分は天衝村の出身ではないか?と
最後に疑うのですが、十島によって否定されます。
この探偵役、今回招かれたのは間違いなく父親の事件からなのでしょうが、
推理力みたいなものも、十島からかわれているような描写もあります。
やけにコンビニ定員を強調するのが、意味が分かりませんでしたが。
人物造形に、作者の弟さんをイメージしたらしく、コンビニでバイトしていて
そのバイト業務の多様さに驚いたからと、あとがきにはあります。
格闘技とかは放浪中に身に着けたんでしょうが。
でも、このあたりの探偵役が抱える秘密は最後に少し明かされるだけで、
まず父親の事件は一切説明されないし、父子で放浪していたのも謎(続編への期待ですかね)。
かなり消化不良な感じはあります。
で、本作で描かれる事件、犯人の動機は流石にあり得ないだろうと思うけれども、
まあ動機は人に拠りますからね。
それ以上に常見の方があり得ないかな。今の今まで、調べなかったのか、
しかも一番調べることができる警察にいながら。
眞上が犯人を突き止めるまでの過程は、これは素晴らしいです。
アリバイ、そしてなぜその情報を知っていたのか。つまり読者でも
十分事件は解けるようになっているんですよね。
なんというか、堅実な推理、見事な推理ですね。
ただし、疑問をメモ書きにしてあげているものの、
それよりも物語の展開が早すぎて、どうなのかなあというところも。
ちなみに、私が唯一気づいたのは、眞上が油で手が汚れて、
藍郷がすぐに水道で洗うよう話す描写の箇所。
よく水道が出ること知ってるなと(笑)
最後に明かされる本当の真相は、かなり唐突感が否めませんが、
人骨まで発見されて、当時の運営企業は殺人集団じゃねえかと思ってしまいました。
それと、籤付の家がそこまでこだわる理由はそもそも何なのかも
全然語られず(一応少し描写はありますが)、そのあたりも消化不良感。
次は「廃天象儀」が舞台とのこと。
文庫化を早くお願いします。