2024年11月01日

俺ではない炎上

まずはAmazonさんの紹介ページから。

外回り中の営業部長・山縣泰介に緊急の電話が入った。「とにかくすぐ戻れ!」
どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、
写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。
SNSで犯行を自慢していたそうだが、そのアカウントが誤認されてしまったようだ。
誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していた泰介だが、
成りすましは実に巧妙で誰一人として無実を信じてくれない。
会社も、友人も、家族でさえも……。
ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、
誰も彼もに追いかけられる中、泰介は必死の逃亡を続ける。

またまた久しぶりの更新です。

本作、まさに現代社会を見事に表現した、社会派小説といって
いいと思います。
SNSにより、誰もがいつでもどこでも、様々な情報に触れることができ、
また発信することができ、そして気付かないうちに犯罪にも巻き込まれる。
そんなことはあり得ないとは、もはや言えない世の中なのです。

山縣泰介を襲った悲劇は、誰にでも起こりうる日常に、今やなっているのだと、
改めて本書を読んで感じました。

インターネット普及の始まりからADSLくらいの頃には
ネットリテラシーなんて言葉もありました。
しかし、SNS、スマホの登場で、もはや歯止めが効く状況ではなくなったんでしょうね。
いやはや恐ろしい。

本書でも一気にSNSが拡散する描写、私人逮捕系Youtuber、さらには
泰介自身が知らなかった(というより無意識にしていた)自分の行い、
さらにはそれを通じた家族との接し方等々、様々なものが、ほんの数日(2日間くらい?)
で一気に起こります。

泰介パートの話は、特に逃亡劇が始まってからは、映画「逃亡者」を
思い出しました。私人逮捕系Youtuberからの逃亡は実にお見事。
ショールームまでの逃亡劇はとにかく見逃せ、いやいや読み逃せません。

最初に登場するシーケンの青江さん、この人は鋭い!
書き込みの癖から、泰介が犯人で無いと信じ、車まで貸すという。
泰介が彼にしてきた事を抜きに、まだこういう人も居るんだと、少し安心
させてくれる場面でもあります。

で、本書にはある叙述トリックが仕掛けられています。
「からにえなくさ」、セザキタクヤ、一体誰が、泰介の名前でアカウントを作成し、
殺人現場をアップしているのか?

個人的に一番のツボは、泰介の容疑が晴れて、会社へ出勤したとき。
20代の若手たちの言葉。
「山縣部長が移動された距離、今朝のニュースで報じられてました。びっくりしました。
どこか気合いや根性という言葉を馬鹿にしていた自分が今では恥ずかしいです。本当に
凄い人(後略)」

これ、前時代的な泰介の態度を、今回の逃げた距離(逃げ方含めてかも)で、
本人は本当に凄い人なんだと、思い直した場面なんですが、
泰介からみて、これが褒められているとは捉えられんだろう(笑)
客観的にみても、警察とかの目をかいくぐって、そんな逃げたの!?
あの人本当にスゲー!、という風にしか読めませんでした(笑)

ある意味、あれだけの冤罪・炎上に巻き込まれるより、逃げた距離で
見直すという、今の若者の、何というか、そこに感心?というのを描いたのかと、
ある種の風刺なんではないかと思いました。

当然ながらこの時の泰介は、自分のこれまでの行いを恥じているので、
この言葉なんて耳には入ってこずでしたが、いやいや、何言っているんだと。

ネット上の手のひら返しはともかく、リアルな人間関係の人たちの手のひら返しは
どう感じるんだろうかと、この時の泰介にはそんなことはもう関係ないんでしょうが、
実際どう思ったんだろうな・・・。

現代社会の抱える問題に見事に切り込みつつ、しっかり本格ミステリでもある作品。
流石です。


俺ではない炎上

俺ではない炎上

  • 作者: 浅倉秋成
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/05/19
  • メディア: Kindle版



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posted by コースケ at 00:38| Comment(1) | 浅倉秋成 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月20日

神隠し三人娘 怪異名所巡り

まずはAmazonさんの紹介ページから。

“霊感バスガイド”が大活躍の新シリーズ!
弱小〈すずめバス〉のバスガイドとして就職した町田藍。
霊感体質の彼女が〈怪奇ツアー〉を担当したところ、見事幽霊に遭遇して…!?
TVドラマ化もされた人気シリーズ第1弾!(解説・細谷正充)

いやいや、ついにこのシリーズも購入してしまいました。
現在も続くシリーズ、というのもありますが、
私が一番好きな大貫警部シリーズが現在新作の執筆がなさそうなので、
(シリーズ終了なのかもなあ。)
別のをと思い購入。

確かにその筋の人たちからは、確実に収入が得られるし、鉄板の企画ですね。
なんせ確実に幽霊に遭遇するわけですから。

表題作はなんといっても「その漬け物屋に突っ込んで」という、
要するに観光バスをわざと店舗に突っ込ませるという、中々最初にして、
とんでもないことしでかします。
結果的には、生きている少女も、神隠し三人娘も助かって良かったのですが。
筒見社長はそれを盾に、賠償しないだろうな(笑

「怪獣たちの眠る場所」はかなり異色作。ウルトラマンの怪獣墓場かと思わせる面もあり、
また、途中で語られる玉井の苦悩は、ウルトラセブン「ノンマルトの使者」を
思い起こさせ、さらには、解説で書かれているように、現実社会への警鐘とも
捉えられます。
この話は非常に不思議で、幽霊が現れるのは、自身の奥さんへの別れよりも、
自身の教え子へ、その誤りを正して欲しいという願いからなのか。
いやいや深い話です。

しかし最初からクライマックスというか、すでに<霊感バスガイド>が方々に
知られてしまっている町田藍。この後どんなバスツアーが彼女を待っているのか、
非常に楽しみです。



神隠し三人娘 怪異名所巡り (集英社文庫)

神隠し三人娘 怪異名所巡り (集英社文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/02/27
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 22:58| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月13日

最上階の殺人

まずはAmazonさんの紹介ページから。

私は本書を通じて、バークリーの
魅力に開眼したのです。――阿津川辰海
名探偵vs.警察捜査、火花散る推理合戦!
謎解きの魅力ほとばしる著者屈指の傑作。

閑静な住宅街、四階建てフラットの最上階で女性の絞殺死体が発見された。
現場の状況から警察は物盗りの犯行と断定し、容疑者を絞り込んでいく。
一方、捜査に同行していた小説家ロジャー・シェリンガムは、
事件をフラットの住人の誰かによる巧妙な計画殺人と推理し、
被害者の姪を秘書に雇うと調査に乗り出す! 
心躍る謎解きの先に予測不能の結末が待ち受けるシリーズ屈指の傑作。
エッセイ=真田啓介/解説=阿津川辰海


ややネタバレあり。
解説の阿津川先生のいう、抱腹絶倒の意味は最後まで読むと納得(笑

銀行を信じず、それでいて金を家に貯めていたという噂のある、
高齢女性が殺害された。警察はその手口から、名のある窃盗犯に狙いを定めるが、
その場にたまたま居合わせた(現場へ行くことになった)ロジャー・シェリンガムは、
この事件はそんな単純なものではないのではないかと、推理を巡らせ・・・

という始まりです。
とにかく、シェリンガムは「間違える」名探偵なのでしょう。
以前に読んだ『レイトン・コートの謎』もそうでした。
しかも、本作に限ると、最後の最後で重大な誤りを犯してしまい、
それをなんとか取り繕うためにヤードの総監補まで上手いこと利用してしまうのですから。
取り繕うのも流石です(笑

彼がいきなり、被害者の姪であるステラ・バーネットを自らの秘書にしてから、
彼女との本気なのか冗談なのか、とにかく二人のやりとりが面白すぎます。
洋服店での彼女の変貌ぶりには大注目でしょう。

素晴らしい美女なのに、まったく魅力を感じないとしつこく言うロジャー。
その割に、最後の最後で、僕と結婚しない?なんてセリフを!
ステラから「まさか」と答えられ、「やれやれ、助かった」と答えるロジャー。
ここで終幕。
どこまで本気で冗談なのか、本当にわかりませんでした(笑

わからないのは、ステラが婚約者に仕立てた幼馴染のラルフも同様。
彼はヤバい。今でも十分通じるヤバさです(笑)
あれが演技なのか、そう演技をしてくれと頼まれたのか、それすら
全くヒントすらなく、わからないありさま。
ここも良いんですよ。『レイトン』の競馬の描写のよう。

肝心の事件ですが、シェリンガムの推理は大体においてはかなり正確で、
特に未解決の謎を箇条書きで書き出したり、変装までしてモンマス・マンションに
聞き込みに行ったり、とにかくヤードやモーズビー首席警部の見ている先が
誤っているのだと、ある意味猪突猛進に進みます。

死亡推定時刻のトリックというか、これが大きな間違いであることを
見破る過程は、そのヒントとなる描写も含めて素晴らしいです。
被害者の胃に遺されていたものが、いつ食べられたのか、から
いつ食べられたものなのか、に辿り着く所は、個人的に一番好きかもしれません。

また、死亡推定時刻に目撃された走る男も非常に重要な意味を持っています。

で、上に書いたのは、あくまで最後の方の推理の過程ですが、
シェリンガムはあくまで名のある窃盗犯でなく、マンション内の誰かが犯人であると
疑い、一人ずつ探っていきます。
(この聞き込み等に、上記のステラとの寸劇や変装などが含まれます。)
で、動機は金がとられていることから、そこに目をつけ、上手く絞っていくのです。
ここも見事なのですが、最後の最後がねえ。いや金には違いないけど、
そもそも、シェリンガムのスコットランドヤードやモーズビーとの違いを
出すための、ある種思い込みの招いた結果なのかもしれません(笑

いやはや、単純な事件が実は・・・というのはよくあるかもしれませんが、
本作はそれをさらに超えている、まさに傑作と言って過言ではないですね。





最上階の殺人 (創元推理文庫)

最上階の殺人 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/02/29
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 23:32| Comment(1) | 海外ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月07日

未解決事件は終わらせないといけないから

まずは任天堂さんのホームページから。
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000083094

「この事件、初めて接したときにすごく驚いた覚えがあります。
 誰もがそれぞれの理由で嘘をついてました。」

『未解決事件は終わらせないといけないから』は、記憶のパズルのピースを探して組み替え、
未解決事件の謎を解く推理ゲームです。
退職した元警察官・清崎蒼をサポートして、陳述と手がかりを集め、
事件の真相を確かめましょう。

2012年2月5日、公園で遊んでいた少女・犀華が行方不明になったという通報があった。
警察は聞き込みと捜索を繰り返すが、事件は解決せずに未解決事件の書類ファイルに眠る。

清崎蒼警部の退職から12年後、ある日訪ねてきた若い警官。
彼女は清崎が解決できなかった「犀華ちゃん行方不明事件」
を終わらせるよう協力を要請してきた。
清崎はバラバラになった記憶のかけらを思い出して再構成するが、
明らかとなったのは犀華の周りの全員が嘘つきだったということだけ。

今年はゲームで私の好きなミステリアドベンチャーが多く発売されていて、
嬉しい限りです。
まさかまさかのファミコン探偵倶楽部の第4作(BS探偵倶楽部を入れてます)である
「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」
リマスターとはいえ、「かまいたちの夜」30周年記念作品「かまいたちの夜×3」
先にご紹介した「神無迷路」
全てプレイしました(笑)
「ファミコン探偵倶楽部」は従来のオーソドックスなものですが、
ついに空木探偵が!というのがあって驚きました。

さて、本作はニンテンドーダイレクトで紹介されたときから、購入しようと思っていた作品。
いわゆるテキストアドベンチャーではなく、事件関係者の証言から
事件の真相を明らかにするゲーム。
ゲーム自体は全然は違いますが、ある意味証言の嘘や勘違い、矛盾を突くので、「逆転裁判」と
推理は同じような形式かもしれません。

すでにクリア済みなのですが、それは一気にやってしまったかもあります(笑)
色々な証言が出てきますが、この証言は誰がしたものなのか、証言を引き出す鍵は
どこに隠されているのか、そもそも犯人を名乗り自首した人物がいるのに、
なぜ未解決事件なのか等々、とにかく面白い。とにかく証言をよく読むこと、
これに尽きます。
また、製作者さんによって、ちょっとした叙述トリックが仕込まれてます。
(叙述トリックと言えば良いのか、あまり書くとネタバレになるので)

また、是非とも全ての謎を解き明かしてください。
(意味深ですね。)

こういうタイプのゲーム、もっと増えてほしいですね。
posted by コースケ at 13:20| Comment(1) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月06日

赤虫村の怪談

まずはAmazonさんの紹介ページから。

H・P・ラヴクラフト×不可能犯罪
独自の妖怪伝説が継承される赤虫村――
人知を超えた方法で殺されてゆく
村の有力者一族
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作家の初長編

愛媛県の山間部にある赤虫村(あかむしむら)には、独自の妖怪伝説が存在する。
暴風を呼ぶ「蓮太(はすた)」、火災を招く「九頭火(くとうか)」、
無貌の「無有(ないある)」、そして古くから伝わる“クトル信仰”。
フィールドワークのために訪れた怪談作家・呻木叫子は、村の名家である中須磨家で続く、
妖怪伝説の禍を再現するかのような不可能状況下での連続殺人を調査することに。
第17回ミステリーズ!新人賞受賞者による初長編。

久しぶりの更新。今年もあと3ヶ月ですか・・・。早いなあ。



まず全面に「クトゥルフ神話」を取り込んでいるのが、最大の特徴ですね。
クトル信仰。苦取る、なるほどなあと感心してしまいました。
ただ、これを知らない人は???となるだろうな。
それを知らないとしても、充分楽しめるようにはなってますが。

赤虫村のこのクトル信仰を利用しての、最初の殺人が非常に見事。
不可能犯罪というようにしか見えないのに、それが神話(忌み地・禁忌)で
見えなかっただけで、密室のようで、実はルートは存在したのです。
ただし、赤虫村の怪異に対する事前準備(お守り)が必要ですが、
それも警察の捜査段階でしっかり触れられています。

石蔵での殺人も密室。しかしここにも1つの盲点が。
なぜ全てにガソリンを巻いて、全焼させる必要があったのか。そこから呻木は
推理を組み立てます。
前作『影踏亭の怪談』もそうですが、密室が多い。そしてしっかり捻られている。

各殺人事件に、赤虫村の怪異を見立てるのですが、本作では実際に怪異が起こるので、
見立てどころか、本当に怪異そのものが登場するのが恐ろしいところ。
犯人も、そこまでは読めなかったでしょうね。

呻木叫子は、あくまで怪談作家として、赤虫村の怪異にのみ興味があるようで、
事件のことはまるで興味がない模様。金剛満瑠から事件の事を連絡されても
どこ吹く風という(笑
それでも最後はしっかり名探偵するのですから、流石ですね。

しかし、肝心の怪異の方は、かつて『赤虫村民族誌』を執筆した庵下讓治の弟子・瀬島攝から
詳しい話も、庵下が遺した資料も魅せて貰えず。
本人としては消化不良でしょう。
しかし、瀬島の危惧が、後に最悪の形で呻木の身に降りかかる・・・早くそれが読みたい!

ところで、本作ではコメディリリーフ的な役割をみせる一面もある鰐口ですが、
彼女がこのシリーズの要でもあるなあと読んでいて思いました。
ある意味呻木の猪突猛進を止めることができるのは、彼女だけだろう。
そしてさらりと解決に導く一言をいう。

前に『影踏亭の怪談』の時に書いたのですが、呻木先生は行方不明になっていて、
編集部も探しているという記載がありましたが、あれは作中内作品の恐怖を煽る一文
だったのかなあ。本作で平然と登場していて、ビックリしました。
作中内の時系列もよくわからないので、何とも言えないのですが。

すでに次作も刊行されていて、いやいや、今一番楽しみな作品になりつつあります。



赤虫村の怪談 (創元推理文庫)

赤虫村の怪談 (創元推理文庫)

  • 作者: 大島 清昭
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/05/31
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 17:35| Comment(0) | 大島清昭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月29日

葉山宝石館の惨劇

まずはAmazonさんの紹介ページから。

少年だけが、全てを見ていた……

帆村財閥の異端児・建夫が葉山に設立した私設宝石博物館――収蔵品の剣・銃・斧を使い、
長女・光枝の三人の恋人候補が次々殺されていく。
「なぜ三重密室を作らねばならなかったか?」Why(理由)
を問うユニークな“密室動機講義”から導かれる、
仰天の真相とは? 昭和が終わった年/新本格勃興期、新書ミステリの雄が放った、
稚気と本格推理への愛全開の熱き挑戦状(ラブレター)。

解説 今村昌弘
イラスト やまがみ彩


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3として発売された本作。
帯に大陸書房版の著者のことばが掲載されています。
「断っておこう。これは密室それ自体で、読者に挑戦しようというものではない。その背後
 の或ることで、挑戦しようというのだ。もちろん、そのためには、やはり密室を解かなければ
 ならないという、逆説も成り立つのだが・・・。」

結構なネタバレになっているのが面白い(笑
しかも、本作の発売は1989年。『十角館の殺人』刊行が1987年。
つまり、新本格ムーヴメントが始まっていた時で、しかも「館」です。

梶先生が『十角館』を読まれたかわかりませんが、この『葉山宝石館』は
「館」とありながら、非常に良い意味で、『館』ミステリの裏切りをしています。
密室、縛られた足、藁の十字架・・・本格ないし新本格の要素を詰め込みながら、
見事なミスリードを書くとは・・・素晴らしい。

ただし、犯人の正体はある程度予想は付くのではないかと思います。
後、捜査する警察が異常に有能です(笑)

少年の日記を入れているところで、最後にもう1回どんでん返しトリックを
仕込んでいるのも、流石です。

梶先生の作品はまだまだあるのですが、徳間文庫からはひとまず終了なのかなあ。
どうせなら一気に復刊をどうかお願いします。



梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3 葉山宝石館の惨劇 (徳間文庫)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3 葉山宝石館の惨劇 (徳間文庫)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/08/08
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:26| Comment(1) | 梶龍雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月22日

くらのかみ

まずはAmazonさんの紹介ページから。

行者に祟られ、座敷童子に守られているという古い屋敷に、
後継者選びのため親族一同が集められた。
この家では子どもは生まれても育たないという。

夕食時、後継ぎの資格をもつ者のお膳に毒が入れられる。
夜中に響く読経、子らを沼に誘う人魂。
相次ぐ怪異は祟りか因縁かそれとも──。

小野不由美の隠れた名作。

「ミステリーランド」第1回配本。超がつくほど、20数年ぶりの文庫化。
解説の大矢博子さんが言うように、確かに本書は「ミステリーランド」レーベルに
相応しい作品です。

かつて自分もジュブナイルを数多く読んでましたが、今はどのくらい刊行されて
いるんですかねえ。青い鳥文庫とかポプラ文庫とか、子ども向けミステリも
刊行されてるとは思いますが。
ジュブナイル版のホームズやポワロを数多く読みました。それが今のミステリ好き
に繋がっている気がします。

さて、本書は最初からクライマックスという感じで、「四人ゲーム」をした
子どもたち。いつの間にか4人から5人へ増えていた・・・
座敷童子?この淵屋家にいる神様「くらのかみ」なのか。

子どもが5人に増えたこと、大人達がそれに気付かないこと、これらは怪異として
読者にはその謎を解くことは難しい。
しかし、その後起こる「事件」は、本格ミステリばりに子どもたちが活躍します。
アリバイがない人物、時系列に書かれるノート、罠を仕掛ける・・・
とにかく子どもたちが大人顔負けの行動力と推理力を発揮します。

事件の真相は、子どもが増えたことと密接に関係していて、
そもそも、最後に座敷童子が言った言葉はどういう意味だったのか、
読む人によって、ラストはかなりあっさりと思うかもしれませんが、
あくまでジュブナイル(を主な対象)で考えれば、非常に良く出来ています。

イッキ読してしまいました。こういう作品、増えて欲しいですね。


くらのかみ (講談社文庫 む 81-10)

くらのかみ (講談社文庫 む 81-10)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/07/12
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:43| Comment(1) | 小野不由美 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月15日

五人目の告白―小林泰三ミステリ傑作選

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「僕は実はもう一つ情報源を持っている。
つまり、僕自身の知識だ。
この知識によって今までの推理はすべて覆る」

語り≒騙りがもたらす驚愕のラスト
『アリス殺し』の鬼才が技巧を凝らす6編

自分の中には凶悪な人格が眠っている──記憶にない動物殺しや対人トラブルに苦しむ青年は、
ノートを介して「敵対者」との対話を試みるが、忌まわしき存在はついに殺人にまで手を染め……
二重三重のどんでん返しが待ち受ける「獣の記憶」をはじめ、全六編の掌短編を収録。
読む者を巧みに翻弄し、独自のロジック×ゴシック世界へといざなう、
『アリス殺し』の鬼才の真骨頂がここに。解説=田中啓文

小林泰三が亡くなられて、もう4年も経つのかと。
『○○殺し』はぜひ完結させてほしかったです。残念ですね。

本書はミステリ傑作選となってますが、いつもの小林節で、グロとSFがかなり
前面に出ています。
「双生児」は、ミステリ色が強い気がしますが、そもそも真帆の感じる疑問は
双子なら、少しは思ったことがあるのかもしれません。
ある意味では、SF=少し・不思議というSFから、小林ワールドのSFに変化していく
過程が読めます。

「攫われて」が一番きつい作品ですね。世界が一気に反転するんだけど、
そこで待つのは最悪の結末・・・
愁眉をあえて挙げれば「独裁者の掟」。世界は独特なものなのに、
ミステリ的な解決がしっかりしているのが素晴らしい。

これからも小林先生の作品を読み続けていきたいと思います。


五人目の告白: 小林泰三ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

五人目の告白: 小林泰三ミステリ傑作選 (創元推理文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/07/19
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:55| Comment(1) | 小林泰三 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月11日

神無迷路

まずはマイニンテンドーストアさんの紹介ページから。

世界と隔絶した地下の研究施設、閉鎖環境での連続殺人。神の気配もない深淵、
迷路のごとく交錯し拡がる平行世界。幻のような幸せへの扉、何処にあるでしょうか。

「人は同時に2つの扉を通り抜けることができるか?」

ジャンルはテキストアドベンチャーですが、サウンドノベルです。
しかも500円という破格の値段にもかかわらず、フルボイス。

が、問題はそこではなく、本作は今年発売30年を迎える「かまいたちの夜」リスペクト
かつオマージュ作品なのですね。
シルエットで描かれる人物、謎の地下研究所に閉じ込められる主人公たち。
そして起こる殺人事件・・・果たして真相は?

とにかく青いシルエットが、「かまいたちの夜」にしか見えません。
思い出補正もありますが、昨今珍しい、本格的なサウンドノベル。

しかし、「かまいたちの夜」と違うのは、本作が究極的には謎解きに主眼を
おいているのではないところでしょうか。SFサスペンスあるいはSFミステリ。

紹介文にある、迷路のように広がる平行世界というのがそれを表現しています。
最初にプレイすると、異常に量子力学とかブラックホールが~宇宙物理学とか、
その辺りの説明が一気になされます。

主人公はゲームを進めていくと、選べなかった選択肢のロックが外れ、
新たなフローチャートに行くことができます。
まあ、こう書くといわゆるサウンドノベルなんです。

ただ、本作は上記の科学や平行世界というのを取り入れたことで、
ある意味、サウンドノベルの核心を突いた作品になのではないかと思いました。

本来、「かまいたちの夜」ならば、ミステリ編の透とスパイ編の透は
透は同じ人物ですが、体験した事や、そもそも世界が違います。
(真理を始めとする登場人物たちは姿形は同じでも、別世界で生きるその人たち)

ところが、この「神無迷路」では、そうした枝分かれした際の記憶が
そのまま次の世界へも引き継がれているため、最終的に全ての世界の物語のエンドに
辿り着くという(説明が合っているか非常に怪しいです)。

ミステリ編の透をクリアし、スパイ編の透をしたとき、その透はミステリ編の
記憶も保持しているため、スパイ編で相当な違和感を感じる筈です。
本作はその違和感(というか作中では特異体質)を逆手に取って、
上手く物語にしているわけです。

だからこそ、最後のエンディングがあるんだろうと思います。
個人的にはなぜ幼馴染みが生きていたのかよくわかりませんでしたが・・・
(元々亡くなって亡かった?)

すでに大きくネタバレしているのであれですが、
「かまいたちの夜」リスペクト&オマージュ作品として、ミステリを期待しては
いけないところが注意ですね。
ただ、価格を考えたら、充分買いだと思います。
posted by コースケ at 22:25| Comment(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月08日

夜の蔵書家-古本屋探偵の事件簿

まずはAmazonさんの紹介ページから。

本の街・神保町で古本屋を営む須藤の元に、著名な蔵書家から三十年近く前に失踪したある人物を
探して欲しいという依頼が舞い込んだ。その人物の名は森田一郎といい、
闇市の時代に日本の文化復興に尽力するという名目で稀覯書――猥褻文書出版に携わり、
結局は検挙され有罪となったのち、姿を消したという。
左翼劇団の俳優や中国のスパイだったという噂のある謎の男を、
須藤は古書を糸口に探索に乗り出す。ロス・マクドナルドを彷彿とさせる傑作長編。
(『古本屋探偵の事件簿』分冊版)


更新が止まってました。
秋の夜長の読書とはまだまだいかず、いつまで続くこの残暑という。

『古本屋探偵登場』に続く、須藤を主人公としたシリーズ第2弾にして、長編作品。
今回は、古書の捜索ではなく、かつて稀覯書を出版していた人物。
古書を探すのとは違い、人捜し。須藤は本当の探偵となるか?

説明文にある、ロス・マクドナルドといえば、リュウ・アーチャーシリーズですね。
もちろん、サム・スペードやフィリップ・マーロウ等々、多くのハードボイルド探偵
は居ます。リュウはマーロウと並ぶハードボイルド探偵の1人と言えるでしょう。
須藤は活躍作は少ないものの、それに比肩している、と個人的には。

直接的には関係ないものの、デパートの古書店フェアに、なだれ込むマニア達。
「いまごろ良識なんて言っても遅い!」「ノンストップ!」「止めたら殺すぞ」
いやあ、いいですねえ(笑)。良識は持って欲しいけど、他のものでも似たような場面は
当然見るんだけど、当時の古本屋界隈もこんな感じだったんですかねえ。

あと、須藤の実質的な師匠である小高根閑一がいいです。
須藤への警鐘を事あるごとに述べます。「人間を追うということは、本を探すということと違う」
どこまでやる気かね?、と。

森田一郎、水死体で上がったのか、印刷工と一人二役だったのか、様々な情報を
須藤は集めていきます。そして、森田が疑われた偽札事件の謎へも知らず知らずに・・・

最後の結末はあっさりしているので、捉え方は人それぞれかもしれません。
(須藤や小高根閑一による余韻が私は欲しかったかなあという意見)

いよいよ次は『神保町の怪人』。この世界にもっと浸りたい。


夜の蔵書家: 古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)

夜の蔵書家: 古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 紀田 順一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/28
  • メディア: 文庫
posted by コースケ at 18:37| Comment(1) | 紀田順一郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする