2024年06月22日

バスクル新宿

まずはAmazonさんの紹介ページから。

よい日になりますように

会いたい人のもとへ。届けたいもの、伝えたい思い、叶えたい夢を抱えて。
さまざまな人たちが行き交うバスターミナル。そこで起きた事件をきっかけに、
繋がるはずのなかった個々の人生が鮮やかに交わってゆく。
目的地に向かい夜を通してひた走るバスが、
人生の岐路に立つ人々を朝へと運んでゆく連作短編集。

バスが繋いだ”縁”が
バスターミナルで奇跡を起こす

私は以前書店に勤めていたのだけれど、
何か安心して読める本を紹介してほしいという問い合わせを受けたときに、
よく挙げたのが大崎さんの名前だった。
――小出和代(解説より)

しばらく止まってました。
大崎さんの御本も久しぶりです。
「バスタ新宿」を本気で「パスタ新宿」と見間違えていたのを思い出しました(苦笑

「バスクル新宿」という夜行バス・長距離バスのバスターミナルと
そのバス車内で起こる様々な出来事と、「バスクル新宿」に居るある少年をキーとして
繋がる連作短編集。

本作ダントツ愁眉は「チケットの向こうに」
サークルのお金が生駒によって(おそらく)持ち出された。
同じサークルの磯村と益子は、彼がバスに乗り故郷へ行くと考え、「バスクル新宿」
で彼を待ち構えるが・・・

この話、この3人の話かと思いきや、全然違います。
磯村が偶然であった調査会社の柳浦さんとの会話で物語は進行します。
生駒も途中で捕まるものの、ラストの柳浦さんとの会話やあるショッキングな出来事など、
非常に上手く作られてます。

「パーキングエリアの夜は更けて」は、凶悪事件発生か?!と思わせる出来事が
続く、さらに主人公はバスの中。果たして・・・?というサスペンス風な作品。
「疑い出したら切りが無い」というセリフが出てきますが、まさにその通り(笑
でも「トーマ」君を発見したときの紺野莉香は気が気でなかったでしょう。

最終話「君を運ぶ」で、各編に登場していた少年の謎が明かされます。
各編に登場した主人公達もほぼ勢揃いで、ちょっとした大団円ですね。

人生の岐路という点でみると、第1話の「バスターミナルでコーヒーを」が良いですね。
現実に同じバス乗車客がふれ合うようなことはないでしょうけど、これはこれで
良い作品です。

町の書店が減る中、大崎作品の成風堂書店シリーズや井辻くんシリーズは
中々執筆が難しいのかなと、勝手に思ってます。
そう思いつつ、ぜひ新作をお待ちしています!



バスクル新宿 (講談社文庫)

バスクル新宿 (講談社文庫)

  • 作者: 大崎梢
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/01/16
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 20:00| Comment(1) | 大崎梢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月15日

一番長いデート

まずはAmazonさんの紹介ページから。

デートの途中で恋人が誘拐された大学生の坂口俊一。恋人の池沢友美を助けたければ
ある男を殺すよう脅されるが、実は友美は自分の恋人ではなく友人の恋人! 
代役のデートを引き受けたのだ。責任を感じた俊一は誘拐犯から渡された拳銃で
標的の男を撃ち、友美を助け出す。しかし、彼女は再び誘拐されてしまい……。
俊一は無事にデートを終えることができるのか?(表題作「一番長いデート」)
(解説 山前譲)

全3作収録の短編集。
まず、「孤独な週末」から。
これは確かかつてドラマ化されたんじゃないかなと。
継母と正実、紀子と義理の息子。どちらの立場も難しい。
思春期突入の正実くんにすれば、父親を取られたと思うのは当然でしょう。

この義理の母と息子の関係をここまでミステリに昇華させて描きつつ、
最後に紀子が魅せる愛情は素晴らしいの一言。本作愁眉でしょう。

表題作は赤川作品の常連的なもの。なぜか抗争に巻き込まれる一般人。
この主人公、家まで送るんだぞというのを忠実に守っての、
このタイトルというのが面白い。

拳銃の処理も運が良いのか悪いのか・・・(苦笑
見事になーんにも巻き込まれず大団円。これぞ赤川ユーモア・ミステリの神髄。

「殺してからではおそすぎる」、いや全くこのタイトルは物語の内容以前に、
その通りなのですが、このタイトルからどんな話を想像できますか?
非常に短い短編ですが、上手く大団円になっています。

徳間文庫の復刊も途切れずに続けてくれていて、非常にありがたい。
これからも楽しませてください。


一番長いデート (徳間文庫)

一番長いデート (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2024/05/10
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 23:24| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月09日

時空旅行者の砂時計

まずはAmazonさんの紹介ページから。


瀕死の妻を救うために約60年前にタイムトラベルした加茂。
妻を救うには彼女の祖先である竜泉家の人々を襲った『死野の惨劇』の真相を解明し、
阻止する必要があるのだという。惨劇が幕を開けた竜泉家の別荘で加茂に立ちはだかるのは、
絵画『キマイラ』に見立てたかのような不可能殺人の数々だった。
果たして竜泉家の一族を呪いから解放できるのか。
今最も注目される本格ミステリの書き手が放つ鮮烈なデビュー作!
第29回鮎川哲也賞受賞作。


確か去年の『このミス』か『本格ミステリ・ベスト10』で
方丈さんの『アミュレット・ホテル』が登場していて、おお、こんな方が居るのかと
その前のシリーズを購入したという経緯です。

SF的要素が強かったからか、避けていたのですが、これがどうして。
家系図に見取り図、そして読者への挑戦と、本格探偵小説、本格ミステリ小説
そのものではないですか。

妻の病を治すには、過去に戻り、彼女の祖先を襲った「死野の惨劇」を阻止する
必要がある。
そのため、主人公は「マイスターホラ」という、いかにも怪しい名前の人物と
砂時計を手にして、過去へタイムトラベルする・・・という設定。
「キマイラ」の絵画とおなじように殺人が起こる中、犯人を突き止められるのか?

SF的な要素は、最後の大仕掛けに使用されていたのが、本作愁眉かなと思います。
誤認トリックなんですが、上手いこと隠しているんですよね。

見立て殺人も中々良いです。
が、リフトのトリックというかあれは上手くいくのかどうかちょっと怪しい。

今ちょうど藤子・F・不二雄先生の『T・Pぼん』も読んでいたりするので、
過去への干渉がどれだけ現在ないし未来に影響を与えるか、というのが
結構気になりました(笑

最後の大団円は、本来的には上記のことからうまくいかないのだけど、
存命者がよく頑張った!といえるでしょう。







時空旅行者の砂時計 〈竜泉家の一族〉シリーズ (創元推理文庫)

時空旅行者の砂時計 〈竜泉家の一族〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 方丈 貴恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/28
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 15:34| Comment(1) | 方丈貴恵 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月07日

三重露出

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「知ってるぞ、お前がヨリコを殺したんだ!」二年前、不可解な死を遂げた沢之内より子が、
架空日本で女忍者が跋扈する荒唐無稽な小説『三重露出』に現れた。これは手のこんだ告発か? 
彼女に翻弄された9人の中に真犯人がいる……。
軽妙な作中作+本格ミステリのトリッキーな二重構造。
伝説の超メタ推理小説、マーベル作家・桃桃子(ピーチモモコ)とのコラボカバーで復活!

異色中の異色作というべきか、都筑先生渾身の意欲作というべきか。
日本在住の忍者かぶれのアメリカ人のライアンが、日本の女性ニンジャ集団を
向こうに回して、数々の不可能忍術を破りながら戦う、作中作『三重露出』。

一方、滝口正雄を主人公とする現実パートは、
一人の女性・沢之内より子の死を巡る真相に迫る本格ミステリ。
彼女は本当に自殺だったのか?

とにかくナンセンスニンジャ小説がめちゃめちゃ面白いです。
エログロナンセンス(というかグロはほとんどない)、B級アクション的な楽しさです。
これだけでも充分楽しめます。

現実パートは、この『三重露出』に登場する沢之内より子の死の真相に
滝口と箕浦が、当時のより子の取り巻き(自分たちも含めて)たちから話を聞いていく
流れになっています。

ただし、本パートのラストをどう読むのかで、この作品をどう捉えるかは
変わってくると思います。
個別にみるならば、エレベーターでの焼失トリックなどは実に見事ですが、
このラストは難しい。
解説(謎解き?)の中野康太郎さんの『猫の舌に釘を打て』との対比
から導き出される人物こそが犯人なのか?
あるいはラストに妙な手紙を残した箕浦か?
それとも本人が「殺した」と述べた宇佐見か?

都筑先生はどう考えていたのでしょうかねえ。
あるいはリドルストーリーとして終わりにしたかったのか。

それにしても、この時代に非常に斬新なミステリだよなとつくづく思いました。
法月先生の解説にある、トクマの特選第4弾はあるのか!




三重露出 (徳間文庫)

三重露出 (徳間文庫)

  • 作者: 都筑道夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 23:28| Comment(1) | 都筑道夫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月19日

殺し屋志願

まずはAmazonさんの紹介ページから。

殺し屋を看取った日から、少女の周りで何かが動き出す。傑作長編ミステリ。

朝の満員電車で、男が何者かに刺し殺された。殺害されたのは腕利きの殺し屋・鳴海。
偶然そばに居合わせ、彼の死をみとることになった17歳のみゆきは、
その日を境に奇妙な出来事に巻き込まれていく。「――殺したら?」たった一言を告げる電話と、
みゆきの前に現れた謎の女子高生・佐知子。彼女は継母を憎み、
その死を願って自ら殺し屋に近づいた少女だった――。
2人の少女の不思議な友情と秘密を鋭く描き切る、傑作長編ミステリ。

現在と過去を行き来する形で物語は進みます。
殺し屋の鳴海が佐知子に語る「殺人ってのは、くせになるんだ」という言葉が
本書を象徴していますね。

人間の殺意というものに注目した、いつものユーモア・ミステリとはひと味違う良作。
赤川作品はたまにこういうのがあるんですよね。
ラストも負の連鎖が続く展開を示唆してエンド。

殺し屋なんだけれども、鳴海が異常に好人物に見えるのは、
佐知子やみゆきの母親など、それを超える人が出ているからでしょうか。
とにかく登場人物は非常に少なく、基本は鳴海と佐知子・予史子の過去の出会いと、
みゆき、新谷母子・親子の物語だけで進むのに、徐々に異常な空気になっていくのが
また恐ろしいし、流石赤川次郎。

決してユーモア・ミステリだけではない赤川次郎。
ぜひご一読ください。


殺し屋志願 (角川文庫)

殺し屋志願 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/12/22
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 17:46| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月18日

黄土館の殺人

まずはAmazonさんの紹介ページから。

土壁の向こうで連続殺人が起きている。
名探偵(ぼく)は、そこにいない。

孤立した館を連続殺人が襲う。
生き残れ、推理せよ。

シリーズ累計18万部
若き天才による驚愕必至の「館」ミステリ

☆☆☆
殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。
復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。
そのとき土砂の向こうから女の声がした。

声は、交換殺人を申し入れてきた――。

同じころ、大学生になった僕は、旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、
荒土館に滞在することになる。孤高の芸術一家を襲う連続殺人。

葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか。

火土水風と四元素を扱う館シリーズの第3弾。
火・水と来て、今回は土。
そして、起こるのは日本の自然災害でも非常に多い、地震。
(あとがきで、能登半島地震に阿津川先生が触れられてます。)

大地震により、名探偵と助手は離ればなれに。
そして「黄土館」で起こる連続殺人。
犯人は果たして誰か。

探偵役と助手が離れ離れになるというのは、有栖川有栖先生の『双頭の悪魔』を
思い出しますね。
本書は3部構成で、1部は「名探偵・葛城輝義の冒険」。
シャーロック・ホームズのようなタイトルですが、事件を防ぐのも探偵の役目!
という、中々面白い部になってます。いわゆる倒叙形式。
もちろん、物語全体の中で、上記のような事ではなく、
ある非常に重要な描写-これは最後に探偵が指摘するのですが-が記されています。
(個人的にはこの推理というか指摘が本作愁眉。)

そして本書は、かつて名探偵であった飛鳥井光流の復活も描かれます。
本書のテーマでもある、ミステリにおける名探偵、探偵とは何かを語る上では重要な部です。

火や水、結構辛辣なコメントを書きましたが、本作は個人的には一番楽しめました。
名探偵と助手を離れ離れにした理由や、館に設置された塔の存在、犯人の動機は何なのか。
この辺りが非常に上手くできていたなあと。

第1部では、プロパビリティの犯罪にしれっと触れているのですが、これが実は本書を
貫く犯人の犯罪方法でもあるんですよね。これも上手い。

ただやっぱり自分のことを名探偵と自己紹介したりするのは、中々受け付けないなあ(苦笑
あと水の時に遭遇しているとはいえ、田所と三谷の人が死ぬことに慣れすぎだろう。
まあ、これはミステリのレギュラーメンバーなら、仕方ないのですが(笑

いよいよ次は「風」ですね。風車館の殺人、なんて単純な名称ではないと思いますが、
どう「風」を入れてくるのか、楽しみです。


黄土館の殺人 〈館四重奏〉 (講談社タイガ)

黄土館の殺人 〈館四重奏〉 (講談社タイガ)

  • 作者: 阿津川辰海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/02/15
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 22:17| Comment(1) | 阿津川辰海 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月12日

等々力座殺人事件-中村雅楽と迷宮舞台

まずはAmazonさんの紹介ページから。

歌舞伎界の名優・中村雅楽が殺人事件の謎に挑む。
江戸川乱歩に見いだされた著者によるミステリ史に名を残す名推理の数々。
精選の8編に加えデビュー作「車引殺人事件」原型版を書籍初収録。


「グリーン車の子供」「団十郎切腹事件」、ミステリを読んでいれば
どこかで必ず目にするタイトルです。
特に前者は、日常の謎の中でも非常に秀逸とされています。
ところが、中々私は読む機会がなく、河出文庫でこのたび2冊復刊となり、
本当に喜ばしい限り。

本書には、主に殺人事件をあつかった作品群が収録されています。
印象に残ったのは、表題作と「臨時停留所」。
後者はホラー要素が少し入った奇談。
前者は結末がもの悲しすぎる作品。雅楽が二度と語らなかったのも頷けます。

「密室の鎧」も、見事な密室トリックですが、
これにしても、「奈落殺人事件」にしても、やはり歌舞伎特有の描写が良いですね。
登場する言葉遣い、業界特有の言葉など、これらは(私もわからないのも多々ですが)
今の若い読者の方へ果たして伝わるのかなあと。
ぜひ伝わって欲しいものです。

作品そのものは非常に素晴らしく、次の日常の謎系を収録した『楽屋の蟹』が
非常に楽しみです。


等々力座殺人事件: 中村雅楽と迷宮舞台 (河出文庫)

等々力座殺人事件: 中村雅楽と迷宮舞台 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2023/12/06
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 18:17| Comment(1) | 戸坂康二 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月05日

七番目の花嫁

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女子大生探偵が挑むのは、発表会で起こった毒殺事件!
婚約者の前川とカフェを訪れた佐千子の命が狙われた。
偶然、居合わせた女子大生探偵・亜由美の相棒ドン・ファンが、
とっさに気づき事なきを得る。
真相が気になった亜由美は、二人が訪れるウェディングドレスのショーに潜入すると、
毒殺事件が発生する。
なんと殺されたのは、前川の四人いる元妻のうち一人で――。
表題作のほか『帰らざる花嫁』収録。

更新が止まってました。
本書、久しぶりに再読です。
前も書きましたが、元々は角川文庫で刊行されていて、
実業之日本社が文庫を創刊したことから、花嫁シリーズを最初から刊行しているんですね。

表題作はなんといっても「前妻同盟」というある意味パワーワードが強烈。
「赤毛組合」を思い出してしまいました(笑

でも7番目っていうのは、どういう意味なんだろうかと改めて疑問に。
4番目じゃ語呂が悪いからですかね。
(私が数え間違えているのかな。)


「帰らざる花嫁」は、登場人物が恋で完全に常軌を逸しているところが
中々恐ろしい。両親さえ居なければ・・・じゃないだろう。
亜由美や聡子の通っている大学、恐ろしすぎる。

起こる事件は凄惨なものの、亜由美の両親、ドン・ファン、殿永刑事らが
安定の癒やしを与えてくれています。
これがシリーズ長寿の秘訣の1つなんだろうと思います。


七番目の花嫁 (実業之日本社文庫)

七番目の花嫁 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/12/08
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 20:36| Comment(1) | 赤川次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月21日

サロメの夢は血の夢

まずはAmazonさんの紹介ページから。

切断された遺体と、水死体。留められた二枚の絵。
犯人の意図はどこに・・・・・・?

運転手が迎えに行ったら、社長は首だけになっていた。
壁に留められていたのは、呼応するかのような、
ビアズリーの「サロメ」の絵。
遺された家族の思いは複雑に絡み合う。
『潮首岬に郭公の鳴く』で話題の作者が贈る
「内的独白」ミステリー!



山崎千鶴シリーズ第2弾になるのでしょうか。
スタイルは『スノーバウンド@札幌連続殺人』に似てます。
登場人物たちの独白(セリフ)という形式で物語は進みます。

そして、本書は最初の「作者敬白」に、犯人当て小説であることが書かれてます。
「第四章の中ごろまでには真犯人の発見にたどりつく。それまでに全ての手がかりは、
探偵にも読者にも、公平に与えられているはずである。」
これはまさに読者への挑戦状です(笑
でも、私には全くわかりませんでした・・・

土居楯雄と帆奈美、2つの殺人事件が一体どう関係するのか、
警察の言うように、帆奈美の犯行で、彼女が最後に自殺したのか?
独白の中で事件の順番も議論され、別々の犯人説まで出るも・・・

とにかく、珍しくなんとか犯人を当てようと、相当気相を入れて読んだのですが、
この結末は全く予想だにしないもの。
最後まで読んで、改めて犯人の独白を読むと、これがかなり上手くギリギリの
ところで書かれていて、いやあ、流石平石先生。

独白という形式にこだわりすぎたのか、どうでもいい、本当に心の中で思っているような
ことまで書かれているので、そこはかなり鬱陶しい感もあり。

ただ、この独白という形式を取ったのは、探偵役である山崎千鶴の内部を
晒すためというのも、実は目的の1つだったのではないかと勘ぐってしまいました。
この千鶴の独白を読むと、彼女は大丈夫なのかと思ってしまうんですよね・・・

山崎千鶴シリーズは、本書→『スノーバウンド@札幌連続殺人』ときて、
ラスト(?)になるのが、更級ニッキが探偵役で登場する、
『スラム・ダンク・マーダー その他』。
しかし、この最後の書籍はまだ未文庫化。創元推理文庫で是非ともお願いします!


サロメの夢は血の夢 (光文社文庫 ひ 21-1)

サロメの夢は血の夢 (光文社文庫 ひ 21-1)

  • 作者: 平石貴樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 文庫



posted by コースケ at 21:54| Comment(1) | 平石貴樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月14日

福家警部補の考察

まずはAmazonさんの紹介ページから。

福家さんには、全部お見通しなのね。

類稀な洞察力を駆使して容疑者たちと対峙する警察官探偵
現代の倒叙ミステリを代表するシリーズ第5集

パスタを一本つまみ上げ、噛んでみる。まだ少し早い。水洗いしてボウルに入れておいた
レタスに手を伸ばそうとしたとき、金属音と、それに続いて重いものが屋根を転がり
落ちていく音が聞こえた。誠が屋根から落ちたのだ。もう少し待ってくれてもいいじゃないの、
パスタが無駄になっちゃうわ。いつも間が悪いんだから――夫の“事故死”をめぐり、
一見おっとりした妻の中本さゆりと福家警部補が熾烈な心理戦を繰り広げる「上品な魔女」ほか
三編を収録。類稀な洞察力を駆使して容疑者たちと対峙する警察官名探偵の活躍を描き、
現代の倒叙ミステリを代表するシリーズに成長した〈福家警部補の事件簿〉第五集。


これぞ倒叙ミステリ。どれも素晴らしい短編で良い読書時間を過ごせました。
前回の福家では、少し福家が超人的になっていっているのを不満で書いたと思いますが、
本作では、福家と会話した人物にちょっと変化があるものの、いつもの福家で安心(笑)

コロンボでいう、ヨレヨレのレインコート、ボサボサの髪、ポンコツな車・・・
良い意味でステレオタイプの福家警部補が読めた気がします。

「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」、これは古畑任三郎の「殺人特急」を思い出しました。
もちろん、殺人場所など全然違うのですが、列車内で事件を解くのと、福家のある仕掛けが
見事です。

「安息の場所」は、犯人と探偵がそれぞれ尊敬し合う作品のようになっているのですが、
やはり読み所は最後でしょう。福家は決して生半可な返事はしません。
調べるといえば、とことん調べる。それが最後の3ページに出てきます。

「是枝哲の敗北」、完璧な殺人と思われて居ましたが、自分のいつもの行動から
足が付いてしまいます。それを見破ったのは流石の一言。

しかし、やはり本書の愁眉は「上品な魔女」。とにかく犯人の性格というか、異常性というか、
文章で読むから余計に恐怖を感じますね。
とはいえ、福家は特段変わりなく、犯人をどんどん追い詰めて行きます。
最後の仕掛けも見事。これは映像で視たい。

これからも本シリーズ、ずっと続いてほしいです。


福家警部補の考察 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の考察 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/12/11
  • メディア: Kindle版



posted by コースケ at 19:32| Comment(1) | 大倉崇裕 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする